
マンションリノベーション事例「居場所を柔軟に変えながら働く 家庭内ノマドワーク」
雑誌「LiVES」に掲載されたマンションリノベーション事例から、今回は愛知県日進市の福田さんご夫妻の事例をご紹介します。ワークスペース、フリースペース、畳の小上がり…。たくさんの居場所があるから、在宅ワークも家族との交流もいっそう充実したものに。(text_ Sayuri Ando photograph_ ToLoLo studio)
在宅ワークのためのワークスペースを軸にリノベーション
青々とした里山の景色を望み、鳥のさえずりが聞こえる静かなマンションの一室。一画にあるワークスペースで仕事に勤しむのは、リノベーション会社「エイトデザイン」の建築デザイナー・福田雄志さん。コロナ禍で週の半分は在宅勤務をしている。
「元々は現場管理や営業をしていたのですが、自邸を持とうと思ったタイミングでデザインチームへの異動が決まって。分からないことばかりだし、せっかくなら自分の家を勉強材料にしようと思ったんです」

南に広がる借景が決め手となり購入した築22年の中古マンションを、自らのデザインでリノベーションすることにした福田さん。テーマに掲げたのは、借景を最大限活かした職住一体の空間。納期遵守が必須の職業柄、以前から自宅に仕事を持ち帰ることが多く、ワークスペースの設置はマストだった。とは言え、ずっとそこに籠り切りなのは窮屈なので、建具の開閉で生活空間とのつながりを操作できる半個室をイメージ。ワークスペースの横に引き戸、ワークデスクの正面にすべり出し窓を設置し、これらを開ければゆるやかに生活空間と一体に、閉め切れば完全な個室となるプランを考案した。

フリースペースからワークスペースを見たところ。造作ソファは読み物や昼寝をするときに使用。ワークスペースを一歩出るだけで、気持ちをガラリと切り替えられる。

靴棚の天板は、玄関土間からは作業台、ワークスペースからはデスクとしても使用できる3WAY仕様。広さに限りがあるマンションだからこそ生まれたアイデア。
家族のため、良い距離感を保てるスペースを配置
小上がりの畳スペース、リビング、フリースペースなど、たくさんの居場所を設けたのは、いずれ増えるであろう家族が、付かず離れずの距離を保てるようにするため。しかし、これが仕事に大いに役立っているという。



デスク前のすべり出し窓を開ければリビングにいる家族と会話ができる。
「図面を引いたりする作業はワークスペースのデスクが便利ですが、考えごとをするときはラクな体勢の方が思考を巡らせやすいので、あえてフリースペースやリビングのソファに移動しています。作業内容や気分に応じて居場所を選べることで、インプットとアウトプットが上手くできています」

床座で使うキッチンカウンターでは仕事のアイデアを練ることも。

壁の黒板は備忘録や家族のコミュニケーションボードとして活躍中。
在宅ワークの業務効率もアップ。借景の美しいワークスペースに
家のどこからでも南側の借景が目に入るよう、ワークスペースのデスク、フリースペースのソファ、リビングのソファのすべてを南向きに配置。廊下は1.2mとたっぷり幅を確保したので、玄関を開けた瞬間に気持ち良い景色が目に飛び込む。
「この家で仕事をするようになってから、業務効率が格段にアップしました。以前は気詰まりすることもありましたが、今は肩の力を抜いて、一歩引いたところから考えられるようになりましたね。デザインには閃きが必要だから、リラックスして取り組んだ方が良いアイデアが浮かぶこともあるんです。効率だけでなく、仕事中の気持ち良さも大事だと実感したので、オフィスのデザインを手掛ける際には、この家のようにゆとりのあるスペースを提案しています」
と話す福田さん。忙しい平日も、のんびりしたい週末も、充実した一日を過ごせている。

DIYにも便利な玄関土間。靴棚はワークスペースの収納棚と一枚の板を共有した造作。鞄や上着はここにラフに置けるので、外出時の準備や帰宅時の片付けがラク。

玄関土間の照明は、外国で使われていた中古の屋外用ランプ。
建物データ
〈専有面積〉84.70㎡〈バルコニー面積〉12.06㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉1998年〈リノベーション竣工〉2020年〈設計期間〉3ヶ月〈工事期間〉2ヶ月〈設計・施工〉エイトデザイン

※この記事はLiVES Vol.116に掲載されたものを転載しています。
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