住宅ローンが残っていても建て替えなら新たにローンを組める?注意点も解説

本記事では、ローンが残っていても建て替えを可能にできる住宅ローンの種類と、建て替えローンを利用するメリットを紹介します。また、ローンが残っている状態で建て替えをおこなう場合の注意点と、建て替えの資金計画を立てる目安となる情報も解説するので参考にしてください。
記事の目次
ローンが残っていても建て替えできる住宅ローンの種類

前の住宅ローンが残っていても、新しい住宅への建て替えを可能にする住宅ローンの種類は以下のとおりです。
- 建て替えローン
- 親子リレーローン
- ペアローン
それぞれ詳しく見ていきましょう。
建て替えローン
建て替えローンは、既存の住宅ローンの残債と建て替えの主な費用である解体費用・建築費用を一本化して、新規で借り入れできる仕組みです。建て替えローンを利用することで、前の家のローンが残っていても建て替えが可能になります。
ただし、住宅ローンは家を担保にするため、建て替える住宅が完成して引き渡されるまで融資が実行されません。そのため、家が完成する前に必要な解体費用や、建築中の中間金支払いなどでは、つなぎ融資の利用が一般的です。
事前に金融機関へ解体計画とローン残債を提示して審査を受け、承認後は旧ローンの返済を続けながら、つなぎ融資を実行します。
家の引き渡し後に残債を精算し、新たに借り入れる分と合わせて、本融資として借入金額を確定させる仕組みです。ローンを一本化することで、ローン残債のある状態で建て替えをスムーズに進められるでしょう。ただし、残債があることで借入額も増えるため、通常の住宅ローンより審査が厳しくなる可能性があります。
親子リレーローン
親子リレーローンは、親世代が建て替えローンを借り入れ、定年や年齢の上限に到来した際に子世代へ返済義務を引き継ぐ商品です。定年が近い世代で、子世代に今の物件を引き継ぐことを目的に建て替えを検討するなら、親子リレーローンが選択肢になるでしょう。
例えば、金融機関が最長返済期間を35年に設定し、完済期限を75歳としている場合。60歳で建て替えを検討すると、最大で15年までのローンしか組めません。一方、親子リレーローンでは75歳から子どもに返済を引き継いで、残り20年までローンを組めます。
返済負担が軽減されるだけでなく、個人の収入のみよりもローンの審査に通過しやすくなります。親子リレーローン形式で返済することも選択肢の一つといえるでしょう。
ペアローン
ペアローンは、夫婦あるいは親子など2名がそれぞれ主債務者として同一物件に対して住宅ローンを組み、持分に応じて返済を分担する仕組みです。建て替えであれば、親がローンの残債と解体費を自分のローンで返済し、子が建て替え費用を別ローンで借りるなどの方法で借りられます。
子どもの収入が住宅ローンを返済できるほど十分にある場合は、親子で返済を同時進行できるペアローンの利用もおすすめです。返済負担の軽減・審査の通過にメリットがあるだけでなく、親子リレーローンよりも早く完済できることも魅力でしょう。
建て替えローンを利用するメリット

住宅ローンが残っている状態でも、建て替えができる建て替えローンを利用するメリットは4つあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
ローンの残債と建て替え費用の借入金額を一本化できる
建て替えローンは、旧ローンの残債と、建築費用を中心とする建て替えの借入金額をすべて合算し、一本のローンで契約できます。複数のローンを利用せずに、まとめて一つのローンで返済できるため、総返済額と毎月の返済額を把握しやすくなるでしょう。契約するローンが増えると、家計における支出の管理が複雑になることから、一本化すること自体にメリットがあります。
低金利のローンに借り換えれば返済負担を軽減できる
過去に契約した住宅ローンは、当時の金利水準に応じた金利が設定されています。建て替えローンを組む際に、今よりも安い最新の金利プランで契約できれば、結果的に返済負担を軽減できるかもしれません。建て替えを機会に、現在の金利を見直すことができるでしょう。
抵当権の抹消と再設定を一括で手続きできる
建て替えローンでは、旧ローンの完済にともなう抵当権抹消登記と、新規ローン実行後の抵当権の再設定を一括で手続きできます。一括で手続きできれば、手続きの簡略化と事務コストの軽減にもつながるため、手間とコストを考慮すれば大きなメリットといえるでしょう。
住宅ローン控除を再度利用できる場合がある
建て替えローンを組み直すと、最初に住宅を購入した場合と同様に、住宅ローン控除の適用対象になるケースがあります。住宅ローン控除を再び受けられ、年末の住宅ローン残高に応じた所得税・住民税を控除できます。建て替えローンは前の住宅ローンと合算するため、残高が高くなりやすいことから、控除額の増加を期待できるでしょう。
ローンが残っている状態で建て替えをおこなう際の注意点

ローンが残っている状態で、建て替えをおこなう際に注意しなければならない点がいくつかあります。ここでは注意点について詳しく解説します。
借入金額が大きくなるほどローンの審査では不利になる
建て替えローンは、現行の住宅ローンの残債と解体費用、新築費用を中心とする建て替えの費用が合算されるため、借入金額が大きくなります。借入金額が増加すると、融資の指標として重視される返済負担率が高まります。返済負担率とは、年収に占める年間返済額の割合のこと。
金融機関から融資を受けられる返済負担率の上限は30%が目安です。年収などの条件によっては35%程度の返済負担率が認められる場合もありますが、返済負担率が増加するほど、審査では不利になりやすいでしょう。
また、金融機関の審査に通過できたとしても30%~35%の返済負担率では、毎月の返済が非常に厳しくなりやすいです。住宅ローンの残債がある状態で建て替えローンを組む場合は、借入金額が増加しやすいため、負担の大きさを考えて返済計画を立てる必要があるでしょう。
そのため、親子リレーローンやペアローンなども活用して、審査の通過率を高めながら、少しでも負担を軽減することも選択肢の一つです。
自己資金の用意が必要になる
住宅の建て替えには、さまざまな費用がかかります。そのため、住宅ローンの残債がある状態で、新しく建てる住宅に関わるすべての費用を建て替えローンで借り入れることは困難です。解体費用と新築費用の大部分をローンで借り入れると仮定しても、建物が新築されるまでの仮住まいの費用などは自己資金で用意する必要があるでしょう。
住宅ローンの残債がある状態でも建て替えできます。しかし、場合によっては現在のローンの一括返済ができるほどの自己資金を確保している状態でなければ、理想的な建て替えを実現することは難しいかもしれません。
自己資金では建て替えの費用が賄えなくても、ローンを利用すれば建て替えできると考えて建て替えを計画するのは避けましょう。
一時的に物件の担保価値が土地のみになる
建物を解体すると、金融機関が担保価値として認める部分は土地のみです。建物がある状況では、土地と建物の両方の評価額で担保価値を計算します。しかし、解体直後は建物評価分がゼロとなるため、担保価値が大幅に下がる可能性があります。
解体後に担保価値が住宅ローンの残債を下回ることを理由に、金融機関が建て替えローンの融資を拒否するケースも考えられます。住宅ローンの残債がある状態で建物の解体をする場合は、建て替えの計画を含めて金融機関からの理解を得ながら、慎重に進める必要があるでしょう。
建て替えをする前に知っておきたい資金の目安

最後に、建て替えをおこなうにあたって知っておきたい、資金計画の目安となるデータを紹介します。国土交通省が発表する「令和5年度 住宅市場動向調査報告書」に基づき、建て替えの資金計画を立てるうえで、参考になる数値を見ていきましょう。
建て替え費用の平均
建て替えにかかる費用の平均は以下のとおりです。
年度 | 建て替え費用 |
---|---|
2019年度 | 3,555万円 |
2020年度 | 3,055万円 |
2021年度 | 3,299万円 |
2022年度 | 4,487万円 |
2023年度 | 5,745万円 |
建て替えの費用は年々増加しており、2023年度は5,745万円となりました。住宅ローンの残債と合算して、建て替え費用の大部分をローンで賄うことは、場合によっては難しいかもしれません。将来的に建て替え費用がさらに増加する可能性もあるため、建て替えローンを組む際には、用意できる自己資金の金額がポイントになります。
自己資金の平均
建て替えをおこなうにあたって用意する自己資金と、自己資金比率の平均を以下にまとめました。
年度 | 自己資金 | 自己資金比率 |
---|---|---|
2019年度 | 1,725万円 | 48.5% |
2020年度 | 1,715万円 | 56.1% |
2021年度 | 1,828万円 | 55.4% |
2022年度 | 2,093万円 | 46.7% |
2023年度 | 2,440万円 | 42.5% |
2023年度の自己資金の平均は2,440万円と過去5年のなかでもっとも高くなりました。各年度の平均を考えても1,700万円~2,500万円程度の自己資金を用意しているケースが一般的のようです。また、自己資金比率の平均は2023年度には42.5%と減少しているものの、建て替え費用の総額の半分程度を自己資金で用意している人が多いことがわかります。
返済負担率の平均
最後に、建て替えローンの最終的な返済負担を考えるうえで重要な、返済負担率の平均を紹介します。
年度 | 返済負担率 |
---|---|
2019年度 | 18.4% |
2020年度 | 17.9% |
2021年度 | 18.1% |
2022年度 | 16.4% |
2023年度 | 19.4% |
なお、このデータは建て替えのみでなく、新築した時のデータも含まれています。これを見ると、返済負担率の平均は20%以下で推移しています。建て替えローンを組み、住宅ローンの残債と建て替え費用を返済する場合も、理想的な返済負担率は20%程度です。もし、建て替えローンの返済負担率が20%を超える場合は、返済計画を慎重に立てる必要があるでしょう。
まとめ
住宅ローンの残債がある状態でも、建て替えローンなどを活用すれば、新たにローンを組むことは可能です。しかし、借入金額が大きくなりやすく、ローン審査も厳しくなりやすいことから、慎重な検討が必要でしょう。
返済負担が重くなることを避けるために、建て替えローンに加えて、親子リレーローン、ペアローンの活用も選択肢となります。既存の住宅ローンの残債と建て替え費用を一本化して返済することで、返済状況が把握しやすくなるでしょう。
自己資金を確保し、無理のない返済計画を立てたうえで、建て替えを検討してください。
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執筆者
長谷川 賢努
AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士
大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ