定額減税で住宅ローン控除はどうなる?適用前後で控除額をシミュレーション

本記事では、定額減税の制度や住宅ローン控除との関係をわかりやすく解説します。正しく減税されているか、給与明細を確認してみるのもいいでしょう。
記事の目次
定額減税とは

物価高によって国民の経済的負担が大きくなるなかで、賃金上昇は追いついていません。国民の経済的負担を緩和するため、一時的に所得を増やす目的で定額減税が実施されています。あらためてどういう制度なのか、対象者や仕組みを見ていきましょう。
対象者
定額減税は、すべての方が受けられるわけではありません。対象者は次のように定められています。
【所得税】
- 日本国内に居住している
- 2024年分の所得税の納税義務者である
- 2024年分の合計所得金額が1,805万円以下である※
【住民税】
- 日本国内に居住している
- 2024年分の個人住民税所得割の納税義務者である
- 2023年分の合計所得金額が1,805万円以下である※
※給与収入のみの場合は2,000万円以下。また、子ども・特別障害者がいて所得金額調整控除の適用を受ける方は2,015万円以下。
住民税は前年の合計所得金額が基準である点に注意しましょう。また、納税者本人だけでなく、扶養親族や同一生計配偶者も対象となります。扶養親族・同一生計配偶者とは、次に挙げる3つの要件をすべて満たす人です。
- 納税者と生計を一つにしていること
- 年間の合計所得金額が48万円以下であること
- 青色申告者の事業専従者としてその年の間に一度も給与の支払いを受けていないこと、または白色申告の専業従事者でないこと
さらに扶養親族は、里子や養護を委託された老人も含めた、配偶者以外の親族でなければなりません。他にも同一生計配偶者は、内縁関係ではなく、民法の規定による配偶者である必要があります。
減税される金額
減税される金額は次のとおりです。
【所得税】
納税者本人:3万円扶養親族または同一生計配偶者:一人につき3万円
【住民税】
納税者本人:1万円扶養親族または同一生計配偶者、控除対象配偶者:1人につき1万円
また、納税者本人の合計所得金額が1,000万円超で、かつ合計所得金額が48万円以下の配偶者がいる場合は、2025(令和7)年度の住民税から控除されます。
例えば、同一生計配偶者と扶養親族が一人ずつの場合を計算してみましょう。
【所得税】
3万円 × 3人 = 9万円【住民税】
1万円 × 3人 = 3万円納税者本人から、所得税が9万円、住民税が3万円控除されます。もし配偶者が働いていて、年間の合計所得金額が48万円以上の場合には、配偶者本人からも控除がおこなわれます。
定額減税の実施方法

2024年6月から定額減税は実施されていますが、今一度どのようにおこなわれるのかを確認しておきましょう。実施方法は、どのように税金を納めているのかによって異なります。
給与所得者の場合
会社員の場合、勤務先を通じて所得税や住民税を納めています。そのため、給与で本来引かれる税金の金額から控除することで減税されます。2024年6月1日以降の最初の給与から控除され、納税額が控除額より低かった場合は、次月以降続いて控除されるため、覚えておきましょう。
例えば、6月分の給与で所得税を2万円払わなければならなかったとしましょう。しかし、定額減税によってこの2万円が控除され、6月分の所得税の負担はなくなります。定額減税される所得税の残りの1万円は、7月分の給与の所得税から控除されるということです。
また、住民税の場合は、定額減税されたあとの住民税額が「特別徴収税額の決定通知書」で通知されます。定額減税されたあとの住民税額を11等分し、2024(令和6)年6月分の負担はゼロに。7月〜2025(令和7)年5月分の11回に分けて、毎月給与から徴収されます。例えば、住民税で本来12万円を納めなければならない場合、6月分の負担はなく、定額減税されたあとの11万円が、2024年7月〜2025年5月の11回に分けて徴収されます。
扶養家族が多ければ、控除される金額は多くなり、控除しきれなかった場合には、調整給付として給付されます。
個人事業主の場合
個人事業主の場合、「予定納税」の有無によって実施方法が異なります。
予定納税とは、その年の5月15日現在において、確定している前年分の所得金額や税額をもとに計算した予定納税基準額が15万円以上となる方が、所得税の一部を事前に納付すること。予定納税がある場合、予定納税額から納税者本人分である3万円が差し引かれて、通知が送られます。ここでは納税者本人分しか控除されていないため、扶養親族などがいる場合は「予定納税額の減額申請」をすることで、扶養親族の分も控除が可能です。
ただし、減額申請書の提出期限が決まっているため(※)、早めに提出するようにしましょう。予定納税がない場合は、2024(令和6)年分の確定申告で、申告した所得税額から控除されます。
※毎年7月1日から7月15日まで(2024年度は7月1日から7月31日まで)
公的年金受給者の場合
国民年金や厚生年金など、公的年金を受給している方の場合は、年金から源泉徴収される税額から控除されます。所得税は6月以降、最初に受け取る公的年金から控除されます。控除しきれない場合は、それ以降の公的年金から順次控除。住民税は、控除される前の税額をもとに算出した10月分から控除し、控除しきれない場合は12月以降の公的年金から控除されます。
不明点がある場合、所得税に関するものは管轄の税務署に、住民税に関するものはお住まいの自治体に問い合わせましょう。
住宅ローン控除とは

これまで定額減税で減税される金額や実施方法を見てきました。会社員や個人事業主など、どのように税金を納めているかによって実施方法は異なりますが、早い方は2024年6月から実施されています。以下からは、住宅ローン控除を受けている方はどうなるのかを解説。まずは住宅ローン控除に関する基本的な知識をおさらいしましょう。
住宅ローン控除を受けるための要件
住宅ローン控除を受けるためには、次の要件を満たさなければなりません。
- 控除を受ける人が住んでいる
- 新築または購入した日から6カ月以内に入居した
- 住宅ローン控除を受ける年の12月31日まで住んでいる
- 住宅ローンの返済期間が10年以上である
- 住宅の床面積が50平方メートル以上であり、かつ床面積の2分の1以上が居住用である※
- 住宅ローン控除を受ける年の合計所得金額が2,000万円以下である
※特例居住用家屋または特例認定住宅の場合は次のとおりです
- 住宅の床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満であり、かつ床面積の2分の1以上を自己居住用に供していること
- その場合、控除を受ける年分の合計所得金額が1,000万円以下となる
参考:国税庁No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)
また、2024年1月以降に建築確認を受けた新築住宅で住宅ローン控除を受けるためには、省エネ基準を満たす必要があります。これは2025年4月からすべての新築の建物に省エネ基準の適合が義務付けられることに先駆けたもの。日本での地球温暖化対策を進めるため、エネルギー消費量の約3割を占めている建築分野での対策が急務であることから、住宅にも省エネ対策が求められています。
なお、2023年12月31日までに建築確認を受けたもの、または2024年6月30日までに建築されたものは、省エネ基準に適合していなくても、住宅ローン控除が適用されます。
住宅ローン控除で減額される金額
住宅ローン控除で減額される金額は、年末時点の住宅ローン残高の0.7%です。例えば、住宅ローン残高が3,000万円だった場合、21万円が控除されます。ただし、住宅の省エネ性能によって、住宅ローン控除を受けられる借入限度額が異なるため、注意しましょう。省エネ性能別の借入限度額は次のとおりです。
住宅の性能 | 2024(令和6)年 | 2025 (令和7)年 |
最大控除額(年間) |
---|---|---|---|
長期優良住宅・低炭素住宅 | 4,500万円 子育て・若者夫婦世帯:5,000万円 |
4,500万円 | 31万5,000円 子育て・若者夫婦世帯:35万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 3,500万円 子育て・若者夫婦世帯:4,500万円 |
3,500万円 | 24万5,000円 子育て・若者夫婦世帯:31万5,000円 |
省エネ基準適合住宅 | 3,000万円 子育て・若者夫婦世帯:4,000万円 |
3,000万円 | 21万円 子育て・若者夫婦世帯:28万円 |
その他の住宅 | 0円 (2023年までに新築住宅の建築確認をした場合:2,000万円) |
0円 (2023年までに新築住宅の建築確認をした場合:14万円) |
なお、子育て世帯とは19歳未満の子どもがいる世帯のこと、若者夫婦世帯とは夫婦のいずれかが40歳未満の夫婦のこと。子育て世帯や若者夫婦世帯の住宅購入を支援するため、2つの世帯の借入限度額が引き上げられています。2025(令和7)年も同様の扱いとなる予定です。
例えば、2024(令和6)年に長期優良住宅を購入し、年末時点の住宅ローン残高が6,500万円だった場合を考えてみましょう。この場合、住宅ローン残高は借入限度額である4,500万円として計算され、控除額は31万5,000円(子育て・若者夫婦世帯であれば35万円)となります。
定額減税は住宅ローン控除に影響する?適用前後のシミュレーション

住宅を購入した最初の年は、翌年に確定申告をすると住宅ローン控除が適用され、還付金として給付されます。会社員であれば、2年目以降は、年末調整で住宅ローン控除が適用されます。それでは、住宅ローン控除は、定額減税の影響を受けるのでしょうか?
定額減税は住宅ローン控除には影響しない
結論をいうと、定額減税は住宅ローン控除には影響しません。なぜなら、定額減税は住宅ローン控除を適用したあとの税額から控除されるからです。もし住宅ローン控除で所得税がゼロとなり、定額減税の控除がしきれない場合は、調整給付の対象となります。
【定額減税適用前】控除額のシミュレーション
実際に定額減税の適用前後でどう変化するのか、シミュレーションしてみましょう。まずは適用前から見ていきます。条件は次のとおりです。
家族構成 | 4人家族 (納税者本人(夫)・妻・高校生・大学生の子ども1人ずつ) |
---|---|
年末の住宅ローン残高 | 2,500万円(長期優良住宅) |
納税者本人(夫)の年収 | 800万円 |
妻の年収 | 200万円 |
所得税 | 25万4,000円 |
※所得税は年収の15%程度を社会保険料控除と仮定して算出
この条件の場合、住宅ローン控除による控除額は次のようになります。
2,500万円 × 0.7% = 17万5,000円
そのため、定額減税適用前の所得税は下記のとおり。
25万4,000円 - 17万5,000円 = 7万9,000円
つまり、定額減税適用前の場合、納めなければならない所得税は7万9,000円となります。
【定額減税適用後】控除額のシミュレーション
次に、定額減税適用後の所得税はどうなるのかをシミュレーションしてみましょう。今回の条件の場合、配偶者である妻は同一生計配偶者にあたらないため、納税者本人と扶養家族(高校生・大学生の子ども)2人の計3人分の控除が受けられます。
まず3人分の所得税の定額減税額は次のとおり。
3万円 × 3人 = 9万円
先ほど計算した住宅ローン控除後の所得税額から、今回の定額減税額を差し引きます。
7万9,000円 - 9万円 = -1万1,100円
今回の場合、所得税から1万1,100円が控除しきれなくなりました。先述したようにこのような場合は、調整給付として給付されます。調整給付として給付される場合、お住まいの自治体から案内が送られてきます。手続きの内容や給付の手続き方法などは、自治体によって異なるため、必ず案内を確認し、それに従い手続きをおこないましょう。
定額減税と住宅ローン控除に関するよくある質問
定額減税と控除に関するよくある質問をまとめました。
定額減税で引ききれない場合はどうなる?
控除額が大きく、引ききれない場合は、調整給付として給付がおこなわれます。この場合には、お住まいの自治体から納税者本人に対して案内が送付されます。手続きや給付方法は自治体によって異なるため、必ず案内を確認し、手続きをおこないましょう。例えば、千葉県千葉市の場合、申請方法は次の3つです。
- マイナンバーカードを利用したオンライン申請(給付まで3週間程度)
- インターネットによる申請(給付まで5〜6週間程度)
- 確認書を返送する郵送申請(給付まで6〜7週間程度)
申請方法によって、給付されるまでの期間も異なっています。また、定額減税は勤務先や自治体などによって自動的におこなわれますが、調整給付は手続きが必要です。案内が届いた場合は、必ず内容を確認しましょう。
ふるさと納税をした場合はどうなる?
なかにはふるさと納税を併用している方もいるでしょう。ふるさと納税をおこなった場合でも、定額減税はおこなわれます。また、定額減税を受けたことによって、ふるさと納税の控除額の上限が変わることもありません。それは、ふるさと納税の上限額は、定額減税を控除する前の所得割額で決まるためです。
年末調整はどうなる?
会社員の場合、通常どおり年末調整もおこなわれます。定額減税の対象者となる要件に「2024年分の合計所得金額が1,805万円以下であること」が挙げられています。しかし、2024年分の合計所得金額が1,805万円を下回るかは、年末まで確定しません。また、扶養親族や同一生計配偶者の分も、納税者本人分から控除されますが、該当するか、こちらも年末まで確定しません。そのため、最終的な精算をおこなうために、年末調整も実施されます。
まとめ
今回は、定額減税の実施によって住宅ローン控除に影響があるのかを解説しました。定額減税は、住宅ローン控除を適用したあとの税額から控除されるため、影響を与えることはありません。また、控除しきれなかった場合は、調整給付として給付がおこなわれます。該当となる見込みのある方には、お住まいの自治体から案内が送付されます。案内が届いた方は、内容を確認し、忘れず手続きをおこないましょう。
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執筆者
長谷川賢努
AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士
大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
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