【実例】数寄屋造りとは?特徴・歴史から和風タイプの注文住宅までを徹底解説

数寄屋造りを現代の注文住宅に取り入れる際に押さえていきたいポイントや、和風タイプの注文住宅の実例も紹介します。注文住宅を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
記事の目次
数寄屋造りとは?
数寄屋造りとは、日本の伝統的な建築様式のひとつです。茶道の精神が反映された、質素でありながら洗練された意匠が特徴です。
数寄屋造りの歴史
数寄屋造りの起源は、千利休によって茶の湯(茶道)が確立された、安土桃山時代にさかのぼります。数寄屋とは、もともと母屋とは別に建てられた茶室を意味し、茶の湯の質素であることに美学を見出した精神を、建築物にも反映したのが数寄屋造りです。
極限まで装飾をそぎ落とした素朴でありながら洗練された数寄屋造りは、人々から風流であると評価され、茶室以外の建築物にも用いられるようになりました。江戸時代以降は、質のよい建材や高度な技術が採用されるようになり、今でも歴史的建造物として残っています。
数寄屋造りの特徴
数寄屋造りに、実は明確な定義はありません。日本家屋で多く見られる長押(なげし:柱を補強するための横木)を省略するような、無駄な装飾がない、質素で素朴な意匠が特徴です。
また、遠くにある山々をまるで庭園の一部かのように見せる「借景」は、数寄屋造りでよく見られる手法で、四季折々の自然を愛でる茶人ならではのアイデアです。現代では樹皮をあえて残した杉材や竹、土壁、漆喰などの自然素材の持ち味を生かした様式をさすケースが多く、広義では和風建築を数寄屋造りと呼ぶこともあります。
有名な数寄屋造りの代表作
数寄屋造りといえば、千利休作の茶室だといわれている「妙喜庵・待庵(みょうきあん・たいあん)」が有名です。2畳という狭さと、頭を下げなければ入れないほど小さな「にじり口」が特徴です。
身分が高い武士でも、刀を差したまま入室できないようにし、「茶の湯を楽しむ者すべてが平等である」との考えが込められています。ちなみに妙喜庵は国宝に指定されており、現存する最古の茶室です。
数寄屋造りの建造物としては、ほかに「桂離宮新御殿(かつらりきゅうしんごてん)」や、重要文化財である「伏見稲荷大社御茶屋(ふしみいなりたいしゃおちゃや)」があります。近代版の数寄屋造りの建築物は角川源義の元邸宅(杉並区立角川庭園)があり、国の登録有形文化財に指定されています。
数寄屋造りと書院造の違い
平安時代の貴族の邸宅といえば「寝殿造」が主流です。板間のうえに部分的に畳を敷き、御簾(みす)や屏風で大きな空間を仕切って使っていました。
室町時代になると武家社会になり、地位や身分を表すために贅を尽くした「書院造」へと変化します。美術品や唐物を飾る違い棚や床の間を備え、床は畳敷きになり、部屋を襖や障子で区切るようになりました。
時代の流れとともに儀式の間や客間として使われるようになると、身分の違いを表すために、段差のある座敷や垂れ壁(天井から垂れ下がった壁)が生まれました。数寄屋造りが質素で装飾をそぎ落とした様式なのに対し、書院造は豪華絢爛で、格式や権威を重んじた様式です。
書院造り代表作といえば、「銀閣寺東求堂」が有名です。ほかには「慈照寺同仁斎」や、「園城寺光淨院客殿」が挙げられます。
数寄屋造りと書院造の違いを、以下のとおり表にまとめてみました。
数寄屋造り | 書院造 | |
---|---|---|
誕生した時代 | 安土桃山時代 | 室町時代 |
特徴 | 質素・素朴・ 自然との調和 |
豪華・格式・ 権威を重視 |
様式のポイント | にじり口・借景 | 違い棚・床の間 |
代表作 | 妙喜庵(待庵) | 銀閣寺東求堂 |
出典:臨済宗相国寺派│銀閣寺
数寄屋造り住宅とは?

数寄屋造り住宅は自由度が高く、現代の住宅にも取り入れやすい様式です。型にとらわれずに自分なりに解釈し、数寄屋造りのテイストを注文住宅に採用してみましょう。
オープンリビング
リビングには大きな窓を設置し、できれば天井も吹き抜けにして開放感を出しましょう。梁をそのまま生かした日本家屋のような演出や、外部と室内の境をあいまいにできる、土間や縁側の採用もおすすめです。外に向けてオープンなリビングにすれば、庭との一体感が増し、床面積以上の広さを感じられるでしょう。
モダンなキッチン
キッチンは機能性や掃除のしやすさを重視し、最新の機能や設備を取り入れましょう。自然素材はステンレスやガラスなど無機質な素材との相性もよく、モダンで洗練された印象のキッチンに仕上がります。キッチンメーカーごとに、多種多様なシステムキッチンを取り揃えています。イメージや条件に合うキッチンを探してみましょう。
庭の自然を借景として楽しめる浴室
浴室は、家族が一日の疲れを癒すための空間です。数寄屋造りならではの借景を取り入れて、非日常感を味わいましょう。例えば外部からの視線をシャットアウトできるような坪庭を浴室に隣接させるか、星空を眺められる天窓の採用を検討してみてください。
用途に応じて使い分けができる和室

リビングに隣接させるように、多目的に活用できる和室をレイアウトしましょう。和室を襖で仕切れば、独立した個室として、また、襖を開け放てばリビングの一部としても活用できます。和室は客間としての役割も担い、子どものお昼寝コーナーやプレイルームとしても使うことが可能です。襖を締めればリビングからの視線を気にせずに済むので、急な来客時もスッキリとした印象になります。
自然素材の風合いが感じられる内装
数寄屋造りといえば、自然素材を生かした意匠が特徴です。例えば無垢材や竹、漆喰などを取り入れて、自然の風合いや温もりを感じられる生活空間にすることで、ぐっと和の雰囲気に。自然素材に触れることで、忙しい日々も健やかに過ごせるでしょう。
エネルギー効率の高い省エネ設計
数寄屋造りでも、エネルギー効率の高い、省エネ設計は可能です。住宅の断熱性能を高めることで、冷暖房効率をよくでき、結露対策にもなります。窓や玄関ドアなどの開口部から、室内の暖かい空気が逃げ、また外部からの暑い空気を取り込んでしまいます。窓や玄関ドアの性能も重視し、ハウスメーカーや工務店に相談する際は、断熱性能を確認しましょう。
【実例】和風タイプの注文住宅

和モダンや純和風の注文住宅を検討している方向けに、実例5選とそれぞれの特徴を紹介します。
国産材をふんだんに使った数寄屋造りの家

日本の気候や風土に合った、国産材をふんだんに使った数寄屋造りの家です。畳敷きにした玄関ホールは、まるで旅館のような風情です。四季折々に合わせた掛け軸を飾るための床の間と、上げ下げできる雪見障子がある和室は、季節の移り変わりを楽しめる空間に。
大人数が集まった時は、6畳の和室2間をひとつの空間として利用できるので便利です。リビングやキッチンもあえて壁を作らず開放的な間取りにし、平屋の魅力を最大限に生かしています。
自然素材を生かした数寄屋の家

古い蔵を解体し、使える柱を住宅に活用したリモデル事例です。外壁は漆喰、腰板は杉の鎧張りにして、自然素材を生かした数寄屋風に仕上げました。西日を避けるために軒先を長く出し、暑い夏も快適に過ごせるように工夫しています。蔵に使用していた丸太梁を鎧張りに再利用し、施工費の節約と地球環境への配慮も実現できました。
昔ながらの純和風の家を再現

「歴史を感じさせるような純和風の家にしたい」とのご希望になるべく近づけるために、外観や屋根、内装すべてにこだわりを見せています。日当たりのよい縁側から明るさを取り込めるように、続き部屋の和室の間仕切りは襖を採用。襖を開け放てばひとつの部屋としても使えるため、明るく開放感のある空間を実現しました。玄関には飾り棚と収納、キッチンには床下収納を設けて、収納スペースを確保。ホワイトで統一されたキッチンは清潔感があり、木材を多用した内装は、自然素材ならではの温もりを感じられます。
田舎暮らしを愉しむ囲炉裏のある平屋

田舎暮らしが夢だった施主の理想が詰まった、囲炉裏のある平屋です。せっかく注文住宅を建てるなら「家事に無駄な労力をかけたくない」との思いから、平屋は絶対条件だったそう。一番のお気に入りは、玄関入ってすぐの場所にレイアウトした板の間で、来客時は戸を開け放ち、腰掛けとして利用しています。板の間に続く和室には、和モダンスタイルの掘りごたつを設け、友人招いては家飲みを愉しんでいるそうです。
畳と木が調和する和モダンな家

システムキッチンと和室の間に特製カウンターを設置することで、和のテイストを損なわずにキッチンと和室を上手に調和させた事例です。弧を描いた垂れ壁も、空間を緩やかに区切るのに役立っています。縁のない琉球畳は和モダンと相性がよく、洗練された印象を演出します。玄関からリビングへ続くスペースを土間にすることで、室内でありながら庭のようにも利用できる空間になりました。
まとめ
最後に、数寄屋造りのおさらいをします。
数寄屋造りとは?
数寄屋造りとは、日本の伝統的な建築様式のひとつで、千利休が確立したといわれています。茶道の精神が反映された質素でありながらも洗練された様式で、自然素材を生かした意匠が魅力です。遠くの景色をまるで庭の一部のように見せる「借景」も、数寄屋造りで多く採用されています。
数寄屋造りの歴史は?
数寄屋造りは、茶の湯(茶道)が確立された安土桃山時代に誕生しました。時代の移り変わりとともに変化しながらも、今でも多くの日本家屋に継承されています。
数寄屋造り住宅の特徴は?
数寄屋造りの住宅には無駄な装飾がなく、樹皮をあえて残した杉材や竹、土壁などの自然素材を多く採用しているのが特徴です。数寄屋造りに定義はなく、現代では和風建築のことを数寄屋造りと呼ぶこともあります。
無駄な装飾をせず、自然素材を多用する数寄屋造りは、素朴でシンプルなデザインが魅力です。注文住宅をオーダーする際は、依頼先をよく吟味する必要があるでしょう。特に本格的な和風建築を希望する場合は、技術力のあるハウスメーカーや工務店を選ぶようにしてください。
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