中学生で小説家としてデビューするも、SNSで作品を酷評され、自分を見失ってしまった高校生小説家・千谷一也(ちたにいちや)。彼は同じ高校生小説家ながらヒット作を連発する小余綾詩凪(こゆるぎしいな)と共作を行うことになる……。美術監督の松塚隆史さんは、『小説の神様 君としか描けない物語』に登場する千谷一也の書斎を、どのように具現化していったのか。
ディテールよりも、ひきの画のイメージを大切にした空間
高校生小説家・千谷一也が、執筆のために使う部屋。ここは同じ小説家だった一也の亡き父・昌也が使っていたという設定。
「劇中には登場しないのですが、夫婦の寝室は別にあって、昌也はこの広い部屋を書斎としてのみ使っていた。昌也が亡くなったあとに、一也が使い始めたんです」
一也の書斎兼勉強部屋として使うようになり、ベッドが置かれ、デスクトップのパソコンは、ノートパソコンになるなど少しは変化した。だが、一也も同じ小説家なので、大量の本と資料、そして壁に貼られたメモなど、大きく変わったわけではない。
「劇中には登場しないのですが、夫婦の寝室は別にあって、昌也はこの広い部屋を書斎としてのみ使っていた。昌也が亡くなったあとに、一也が使い始めたんです」
一也の書斎兼勉強部屋として使うようになり、ベッドが置かれ、デスクトップのパソコンは、ノートパソコンになるなど少しは変化した。だが、一也も同じ小説家なので、大量の本と資料、そして壁に貼られたメモなど、大きく変わったわけではない。

昌也から一也の部屋になり、置いてある本や資料が実は変わっている。昌也のときは古い本、一也のときは新しい本に。
「今回、新しい本は講談社さんから提供してもらいました。お父さんが使っていた頃の本棚には、古い本を置きたかったので、古本屋さんから借りてきました。資料の山は一也か、お母さんが、片付けて押入れにしまったという設定です。机の横の戸棚には、扉を外して、資料の一部はそこに積み上げてあります」
「メモは、助監督さんが書いてくれました。ただ、文字ばかりでは単調かなと思ったので、スケッチも足してもらったんです。なにか思いついたらメモをとらないと気が済まないというお父さんなので、その雰囲気が出ればと思いました」
書斎の暗い雰囲気は、のちに一也を変化させていく詩凪の部屋とは対照的だ。
「とくにお父さんの時代は、窓すらもふさいでいましたが、本を背負って黙々と書いているというイメージです。詩凪の部屋は、明るい光が差し込んでいて、対比となっています」
書斎の暗い雰囲気は、のちに一也を変化させていく詩凪の部屋とは対照的だ。
「とくにお父さんの時代は、窓すらもふさいでいましたが、本を背負って黙々と書いているというイメージです。詩凪の部屋は、明るい光が差し込んでいて、対比となっています」
数多くのMV(ミュージックビデオ)を手がけてきた久保茂昭監督。そのイメージは明確だったと言う。
「どのシーンでも、『こういうイメージです』と、参考にする写真が用意されていました。それはMVではよく用いられる伝達方法なんだと思います。街を歩いているシーンについても、横断歩道の写真を持ってこられたり、監督の中でイメージがかなり固まっていました」
松塚さんにとって、キラキラした青春映画はほぼ初めてで、挑戦だったようだ。
「どのシーンでも、『こういうイメージです』と、参考にする写真が用意されていました。それはMVではよく用いられる伝達方法なんだと思います。街を歩いているシーンについても、横断歩道の写真を持ってこられたり、監督の中でイメージがかなり固まっていました」
松塚さんにとって、キラキラした青春映画はほぼ初めてで、挑戦だったようだ。
「いままでキラキラした映画のお話をいただいたことはあるのですが、断っていたんです。今回も、正直、僕向きではないだろうと思って躊躇しました。でも、プロデューサーの佐藤圭一朗さんは、園子温監督の作品で一緒にやっていた縁もあったし、映像派のMVの監督さんとやるのも、面白いかなと思って引き受けました。実際、普段お仕事をしている監督たちとは、こだわるところが違ったので、新鮮でした」
美術は芝居のためにあると断言する松塚さん。
「リアルに考えれば、机は壁に向けると思うんです。でも、佐藤(大樹)さんが、芝居でいろいろ動けるようにと思い、この配置にしました。本当は本で埋め尽くしたくなるのですが、あえて空っぽの空間をつくっています」
美術は芝居のためにあると断言する松塚さん。
「リアルに考えれば、机は壁に向けると思うんです。でも、佐藤(大樹)さんが、芝居でいろいろ動けるようにと思い、この配置にしました。本当は本で埋め尽くしたくなるのですが、あえて空っぽの空間をつくっています」
そのやり方は、園子温監督作品での経験からだそう。
「園子温監督の作品では、中央をがっつりつくりこんでも、本番前になると空っぽにしてしまうんです。それは園監督が舞台のような演出をするということもあります。部屋としては、変なんですけど、俳優はどんどんその空間に出てくる。すると、いい芝居が生まれる瞬間があるんです。リアルかどうかを言い始めると、複雑ですけど、それを期待して空間をあけてしまうんです」
「園子温監督の作品では、中央をがっつりつくりこんでも、本番前になると空っぽにしてしまうんです。それは園監督が舞台のような演出をするということもあります。部屋としては、変なんですけど、俳優はどんどんその空間に出てくる。すると、いい芝居が生まれる瞬間があるんです。リアルかどうかを言い始めると、複雑ですけど、それを期待して空間をあけてしまうんです」

4LDK部室には図書館や音楽室から出たと思われる廃材が。
「歴代の部員が、気に入ったものをどこかから拾ってきたという設定です。自分たちでつくった部室というテーマで。だから、高校生が学校のゴミ捨て場などで拾ったものに、手を加えました、という範囲でつくりました」
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#124(2020年6月号 4月18日発売)
『小説の神様 君としか描けない物語』の美術について、美術の松塚さんのインタビューを掲載。
『小説の神様 君としか描けない物語』の美術について、美術の松塚さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術
松塚隆史
matsuzuka takashi
68年北海道生まれ。『愛のむきだし』(08)、『ヒミズ』(12)、『映画 みんな!エスパーだよ!』(15)、『愛なき森で叫べ』(19)など園子温監督作に多数参加。近作に『超・少年探偵団NEO Beginning』『岬の兄妹』(ともに19)。公開待機作に『まともじゃないのは君も一緒』(11月公開予定)がある。
Movie
映画情報

小説の神様 君としか描けない物語
監督/久保茂昭 原作/相沢沙呼「小説の神様」(講談社タイガ刊) 脚本/鎌田哲生 出演/佐藤大樹(EXILE/FANTASTICS) 佐藤流司 杏花 莉子 ほか 配給/HIGH BROW CINEMA (20/日本/106min)
小説がSNSで酷評され、自分を見失った売れない高校生小説家・千谷一也。彼はヒット作を連発する高校生小説家・小余綾詩凪と共作をすることになり……。10/2公開
©2020映画「小説の神様」製作委員会
小説の神様 君としか描けない物語公式HP