Room89

愛がなんだ

2019.04.12

リアルな東京に暮らす

重なることはないふたりの部屋

美術監督禪洲幸久

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平凡なOLテルコの〈究極の片思い〉を描いた角田光代の恋愛小説を、『サッドティー』『パンとバスと2度目のハツコイ』の今泉力哉が映画化した『愛がなんだ』。マモルを盲目的に愛するテルコを岸井ゆきの、そんな彼女の想いをズルイまでにはぐらかすマモルに成田凌と、注目が高まる俳優陣を迎えた本作。今泉作品2度目の参加となった美術監督の禪洲幸久さんは、つかみどころのないキャラクターたちの住まいにどんなエッセンスを加えたのか?

キャラクターの性格に寄り添う部屋づくり

マモルに全力片思い中のテルコ。そんな彼女を翻弄するもどこか冴えない男、マモル。そしてテルコの唯一の女友達・葉子。『愛がなんだ』に登場するキャラクターたちは、東京に実際に存在する街に暮らしている設定だ。その住まいは角田光代の原作小説にも具体的に示されている。
マモルは、小田急線世田谷代田駅周辺住んでいる。「衣装合わせや今泉監督が実際に演じる成田凌さんと話していることを聞きながらマモルのキャラクターの要素を拾い集めていきました」と禪洲さん。

ブルーやグレーなど“冷めた色合い”を意識して、木目も生かしたと言うマモルの部屋。「カッコよく見えないように気を配った」と禪洲さん。


玄関にはたくさんの靴が並ぶ。靴の箱を重ねて収納するのは禪洲さんの提案だとか。


「ヒントは、『あまりかっこよくしてはいけない』こと。ただ、成田さんが入ることで、どうしても見た目にカッコよく見えてしまうから(苦笑)、その〈ズラし方〉は気をつけました。劇中のお芝居にもありますが、マモルは外見を気にするタイプだと思ったので、ものはきれいにしまってあるけど、実はタンスの中は靴下なんかがぐちゃぐちゃに入れてあったりして。寝室にシングルベッドを置いたのは、岸井さん演じるテルコとマモルが窮屈そうに寝ているのがいいのかなと思ったからです」

男性の一人暮らしという生活感を感じる、ものは少なめの台所。料理はあまりしないのか、調味料も最小限で、冷蔵庫の上にはインスタント食品も。


「ワークスペースもつくってはいますが、マモルは〈仕事ができる男〉ではないので、『持ち帰って家でも仕事するぞ!と思っていたけど、結局使っていない風』のデスク周りにしています(笑)」


マモルの部屋に漫画が多く並ぶのは、時間を持て余している感じを出したかったから。「生活感を出すのにも一役買っていると思います」。


一方、岸井ゆきの演じるテルコの住まいは西荻窪にある2Kのアパート。マモルに冷たくされても飽きられても、その想いは止まらないテルコのキャラクターは「最初に台本を読んだ段階ではなかなかつかみきれないところがあった」と禪洲さんは振り返る。
「生活レベルはどうなんだろう?とか、まだ親から仕送りをもらっているんじゃないか?とか、いろいろ模索して、最終的には『そこそこいい物件』に決まりました。部屋のなかの飾り込みも悩んで、美術スタッフと常々話し合っていました。何かを置いて、彼女のキャラクターに色をつけすぎても違うだろうと。ですから、まずはシンプルにしよういうところからスタートしました。恋愛依存症という側面もあるので、画面には写り込んでないかもしれないですが、占いの本などは並べたりしています」
テルコの友人で、年下の男性を振り回す自由奔放な女性・葉子は、高井戸の一軒家で、母との二人暮らし。
「葉子は主人公の二人とは違う部分で、少し広げられるかなとも思いました。実家暮らしでちゃんと仕事もしているので、お金に余裕があるだろうから、海外旅行好きな女性のイメージで、部屋には東南アジアの雑貨を飾ったりしています。このロケセットは、もともと農家だったお宅で古民家っぽい雰囲気なんです。大きな家ではありますが、そうは見せないようにと今泉監督とカメラマンの岩永(洋)さんはアングルを絞って撮影していたようです」
『亜人』『曇天に笑う』など大作も手がける一方、小規模な作品にも参加する禪洲さんは「どちらもそれぞれの面白さがある」と言う。
「規模が大きい場合はセットも大掛かりなので、誰かに委ねる部分が出てきます。すると、こんな風に出来上がったんだという発見があります。逆に『愛がなんだ』のように小規模の作品は、現場に自分も居られて実際お芝居を観られるのがいいですね」

3階建マンションの2階にある2K。縦に長い間取りで、2部屋の間の襖を外して広いワンルームのように使っている。築年数を感じるつくりではあるが、台所は光を取り入れやすそうな大きな窓で広々と使えそう。


映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#118(2019年6月号 4月18日発売)
『愛がなんだ』の美術について、美術監督 禪洲さんのインタビューを掲載。

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Profile

プロフィール

美術監督

禪洲幸久

Satosu Yukihisa

静岡県生まれ。2006年『酒井家のしあわせ』で美術監督デビュー。おもな作品に、『武士道シックスティーン』(10)、『大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇』(11)、『リトル・フォレスト』(14-15)、『幕が上がる』(15)、『セーラー服と機関銃 −卒業−』(16)、『亜人』(17)、『パンとバスと2度目のハツコイ』『曇天に笑う』(ともに18)など。『初恋 お父さん、チビがいなくなりました』は5月10日公開

Movie

映画情報

愛がなんだ
監督/今泉力哉 原作/角田光代 脚本/澤井香織 今泉力哉 出演/岸井ゆきの 成田凌 深川麻衣 若葉竜也 江口のりこ ほか 配給/エレファントハウス (19/日本/123min) マモルに一目惚れしてからというもの、28歳OLのテルコの毎日はすべてマモル中心となってしまった。どこにいても彼からの電話を待ち、どんな状況でも呼ばれたらすぐに飛んでいく。そんな想いとは裏腹に、マモルはテルコをまるで“都合のいい女”扱い。それでもテルコはマモルのことが大好きで……。4/19~テアトル新宿ほか全国公開 (C)2019映画「愛がなんだ」製作委員会
愛がなんだ公式HP