『GANTZ』から7年、原作・奥浩哉×監督・佐藤信介のタッグが再び実現した『いぬやしき』。これが16年ぶりの映画主演となる木梨憲武、悪役へ初挑戦となる佐藤健をメインキャストに迎え、現代の新宿を舞台に、息もつかせぬ空中戦を繰り広げる。『図書館戦争』『アイアムアヒーロー』などこれまでも佐藤監督作品に数多く参加してきた美術監督の斎藤岩男さんは、原作漫画の持つ世界観を徹底的に研究し、ファンの期待を裏切らない犬屋敷家をつくりあげた。
原作をリスペクトしているからこそ生み出せた世界
初老のサラリーマン・犬屋敷壱郎(木梨憲武)が建てた、念願のマイホーム。自らも「原作のファンだった」という美術監督の斎藤さんは、実写化にあたり「原作にあった犬屋敷の家をそのまま再現しよう」と決めていた。しかし、「漫画と現実は違う。なかなかうまくいかない部分もあって、かなり苦労はしました」。
最初に斎藤さんを悩ませたのは、犬屋敷家の立地。一家がタクシーで新しい家の近くにやってくると、目の前には立派な豪邸が建っている。しかし、犬屋敷家は、その豪邸から路地に入った奥に建つ、日当たりの悪い小さな建売住宅だった――。斎藤さんは「原作にも描かれるその冒頭シーンをそのまま再現したい」という思いから、同じシチュエーションの場所を探すところから始めた。
最初に斎藤さんを悩ませたのは、犬屋敷家の立地。一家がタクシーで新しい家の近くにやってくると、目の前には立派な豪邸が建っている。しかし、犬屋敷家は、その豪邸から路地に入った奥に建つ、日当たりの悪い小さな建売住宅だった――。斎藤さんは「原作にも描かれるその冒頭シーンをそのまま再現したい」という思いから、同じシチュエーションの場所を探すところから始めた。
「原作にはありませんが、場所は練馬区の石神井公園駅や大泉学園駅あたりを想定していて、最初はその辺りもロケハンしたのですが、イメージ通りの場所はなかなかなかったんです。豪邸があるところを探して世田谷、田園調布あたりまで足を伸ばしました。しかし、すべての条件が揃う建物は見つからなかったので、最終的には、豪邸から犬屋敷家へとつながる路地はロケ、路地と犬屋敷家をセットで組むことに決めました。ロケーションとセット、その違いを観客に感じ取られないようにつなげるのは、結構難しい作業でした」
“原作の持つ表情”を大事にしながらも、実写だからこその“リアル”を投影するために、斎藤さんは「建売住宅を知りたい」と展示場へも足を運んだという。
「外壁にはサイディング(セメント質と繊維質をおもな原料とした、板状の外装材)を使っているのですが、専門の方に頼んで建売風のサイディングを特注でつくってもらい、玄関のドアは建売でよく使われている中から原作と似たデザインのものを探しました。入り口の塀は原作ではレンガ風なのですが、映像にすると豪華な印象になってしまうので、サイディングっぽいブロックに変えています」
「外壁にはサイディング(セメント質と繊維質をおもな原料とした、板状の外装材)を使っているのですが、専門の方に頼んで建売風のサイディングを特注でつくってもらい、玄関のドアは建売でよく使われている中から原作と似たデザインのものを探しました。入り口の塀は原作ではレンガ風なのですが、映像にすると豪華な印象になってしまうので、サイディングっぽいブロックに変えています」
犬屋敷家の中を見てみると、キッチンの冷蔵庫、電子レンジ、窓の位置。そして、ダイニングテーブルのクロスから椅子のデザインに至るまで、原作に描かれるそれと酷似していて、原作を知るファンはきっと驚くに違いない。「漫画を見ながらひとつひとつ、家具のオーディションをしたんです」と笑いながら振り返るが、それは途方もない作業だっただろう。
「逆に漫画にはない細やかなディテールや色、そういった部分は佐藤監督と相談しながら肉付けしていきました。たとえば、リビングは家庭のイニシアチブをとっているお母さんの趣味を想定しています。グリーンのソファもお母さんが気に入って新しく買った設定に。家具は茶色ばかりだと、あまりにも揃いすぎてしまうので、その中の一つは白にしよう、とかメリハリはつけました」
「逆に漫画にはない細やかなディテールや色、そういった部分は佐藤監督と相談しながら肉付けしていきました。たとえば、リビングは家庭のイニシアチブをとっているお母さんの趣味を想定しています。グリーンのソファもお母さんが気に入って新しく買った設定に。家具は茶色ばかりだと、あまりにも揃いすぎてしまうので、その中の一つは白にしよう、とかメリハリはつけました」

家族や会社から疎外されている父・壱郎の部屋も、クーラーのダクトの位置に至るまで原作に揃えた。既製のベッドのサイズが大きく、セットの壁に合わせるためにベッドをカットして小さくしたのだとか。
「壱郎はもともと地味な人なので、彼の部屋はカーテンをグレーに。
「壱郎はもともと地味な人なので、彼の部屋はカーテンをグレーに。
気の強そうな娘の麻里(三吉彩花)は、今時の女の子風にピンク系を使ってかわいらしくしています。漫画家志望なので、部屋には漫画を描く道具や漫画本を置いて、壁には彼女が書いたであろう絵を飾っています。建売住宅ひとつにこんなに悩む必要があるのかというくらい悩みました(笑)。でも、それもすべて原作をリスペクトしているからこそです」
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#111(2018年4月号 2月18日発売)『いぬやしき』の美術について、美術監督 斎藤さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術監督
斎藤岩男
saito iwao
青森県生まれ。82年美術監督デビュー。木村威夫氏に師事し、数々の作品に携わる。おもな作品に『リング』(98)『ジョゼと虎と魚たち』(03)、『THE JUON 呪怨』(05)、『輪廻』(06)、『呪怨 パンデミック』(07)など。佐藤信介監督作では『LOVE SONG』(01)をはじめ、『図書館戦争』(13)、『万能鑑定士Q モナ・リザの瞳』(14)、『アイアムアヒーロー』『デスノート Light up the NEW world』(ともに16)など数多く参加。『BLEACH』は7月20日公開。
Movie
映画情報

いぬやしき
監督/佐藤信介 原作/奥浩哉「いぬやしき」(講談社「イブニング」所載) 出演/木梨憲武 佐藤健 本郷奏多 二階堂ふみ 三吉彩花 配給/東宝 (18/日本/127min)
冴えない初老のサラリーマン・犬屋敷壱郎は、定年を間近にようやく念願のマイホームを手に入れた矢先、医師から末期ガンによる余命宣告を受ける。深い虚無感に襲われていたその夜、謎の事故に巻き込まれた彼は、気がつくと人間をはるかに超越する力を手にしていた……。4/20〜全国東宝系で公開
©2018「いぬやしき」製作委員会
©奥浩哉/講談社
いぬやしき公式HP