不器用だけど、自分の気持ちにまっすぐな姉・より子と、弟・進。それなりに穏やかに暮らしていた姉弟の日常が、それぞれの恋をきっかけに大きく動きだす。『小野寺の弟・小野寺の姉』の原作小説の著者であり、脚本、初監督を務めたのは、『怪物くん』『妖怪人間ベム』の脚本家でも知られる西田征史。監督の愛する「昭和の雰囲気」をもとに、個性的なふたりのキャラクターを、美術監督の五辻圭さんは住まいでどう表現したのだろうか?
良いものを長く、丁寧に使う暮らし
向井理と片桐はいりが演じる個性的な小野寺姉弟が暮らす街のイメージは、西田征史監督曰く江古田。昭和の空気が残る町並み、家もそんな雰囲気のある場所を探していたところ、外観の撮影は永福町(東京都杉並区)にある一軒家に決まった。内部はセットで建てられ、古いものも大事に使う、住む人の几帳面さが感じられる作りになっている。
「リビングは昭和のちょっと良いお家をモデルにしました。暖炉のような、ガスストーブを置く場所を作ったり、壁は壁紙ではなく、いろんな幅の板を使った壁材を使ったり。装飾にも当時の小物を多用して時代感を出しました」50年近く使っている台所は、あえてリフォームしたという設定にはせずに、丁寧に使い込んだ感じを演出している。
「リアルを追求すると、通常は油の痕が付いてしまったりしますが、その辺は汚しの分量を減らしました。古いままの台所も監督の希望。明確なイメージをもっていらっしゃるので、一緒に作っていく上ではある意味やりやすかったですね」暖色系をメインに使い賑やかに飾ったリビングダイニングが家の実権を握る姉・より子の“聖域”。弟・進の部屋は対照的に、簡潔に分かりやすくしたのだとか。
「進は釣りをするわけでもなく、ゲームをする感じでもない。趣味がないので、部屋には仕事道具を置くくらい。“飾らない飾り”で彼の個性を出しました。進が調香師の役だったので、実際の調香師へお話を聞きに行ったのですが、自室にはこんな風にあからさまに仕事道具は置かないですと(笑)。だけど、映画の中には説明的なものも必要です。装飾は、『カノジョは嘘を愛しすぎてる』でもご一緒した、折戸美由紀さんにお願いしました。細々とものが置かれていて男らしくはないですが、そこが進のちまちました性格を表していて、いいなと思っています」

撮影のため、実際の外観から想定するよりも少し広めに作られた間取り。台所に小さな小窓があり、そこからダイニング、リビングも見える。以前は両親も住んでいたことから部屋数は多めだが、実際に映画には登場しない部屋も。2階の姉と弟の部屋の位置は芝居の流れを想定してのもの。
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#91(2014年12月号 10月18日発売)『小野寺の弟・小野寺の姉』の美術について、五辻さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術監督
五辻 圭
itsutsuji kei
70年東京都生まれ。池谷仙克に師事しアシスタントを経て、97年にフリーへ転身。種田陽平や山口修の助手となり、08年『ガチ・ボーイ』で美術監督デビューを飾る。以降、映画『罪とか罰とか』(09)、『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(13)や、CM、MVなど幅広く活躍。近作にショートムービー『BLUE』がある。
Movie
映画情報

小野寺の弟・小野寺の姉
監督・脚本/西田征史 出演/向井理 片桐はいり ほか 配給/ショウゲート(14/日本/114min)
両親が亡くなってから20年以上、古い一軒家で二人暮らしをしている姉のより子と弟の進。毎日一緒に食事をし、休日は自転車で買い物に出かける。いい年頃にも関わらず、姉弟ふたりきり、のんびりと穏やかに暮らしてきた。そんなある日、配達ミスで1通の手紙が小野寺家に届き……。10/25(土)〜新宿ピカデリーほか全国公開
©2014 『小野寺の弟・小野寺の姉』製作委員会
小野寺の弟・小野寺の姉公式HP