奥嶋ひろまさの人気コミック「ババンババンバンバンパイア」が実写映画化。瀕死の傷を負ったバンパイアの森蘭丸(吉沢亮)は銭湯の4代目である少年、立野李仁(板垣李光人)に命を救われる。それから数年後、蘭丸はその銭湯に住み込みで働きながら、李仁の純潔を守るためにさまざまな画策をこらしていた。それは至高の味わいである「18歳童貞の血」を得るためで……。このコメディの美術を担った中川理仁さんに制作秘話をお聞きした。
奇をてらうより、役者の演技や映像を邪魔しないもの
本作の美術を手がけたのは丸尾知行さんと中川理仁さん。ふたりとも単独で美術を担うことが多いベテランだが、過去には『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』など、一緒に取り組んだ作品も少なくない。今回はどのような役割分担があったのだろう。
「屋外と屋内、部屋と銭湯など、シーンで分担しているわけではなくて、すべて一緒につくっています」
蘭丸と李仁の部屋は、使われていない体育館にそれぞれセットでつくられた。蘭丸の部屋はバンパイアらしく薄暗く、ブラックライトが怪しげに光っている。
「蘭丸はたつの湯で住み込みで働いています。基本的には原作通りですが、実際に銭湯に住み込みで働いている方の部屋を調べて参考にしています。撮影のために少し広めにつくりましたけどね」

壁には、どこかで見たような気もしなくはないレコードジャケットの数々が。
「ジャケットは蘭丸が生きてきた時代の一部を表すものなので、実物を飾りたかったのですが、許諾の関係でかないませんでした。そこでオリジナルでデザインしたものを配置しました」
その一方で原作通り、電化製品は最新鋭の機器が置かれている。特に気になるのが、押入の中にあるパソコン。
「狭い部屋なので、机は置かず、押入の中段を机代わりに活用すれば狭くても広がりのある画が撮れるんじゃないかと提案しました。ただ押入の中は暗いので、電飾を上から吊るしたり、照明部さんに紫色のテープライトを仕込んでもらったりしました」



それに対して李仁の部屋はシンプルさが特徴。
「現代的な男の子で、割とおとなしくて、真面目な生徒というイメージです。部屋もそれなりにきちっと片付いていて、持っているものもそんなに派手ではない。どこにでもいるような普通の男の子ですね」
ふすまの模様が印象的だ。
「実家が銭湯なので、水をモチーフにしています。まだ若いし、これから形を変えていくんだろうというイメージもあったし、爽やかな水色が合うかなと発想しました」
李仁の実家である「こいの湯」は、原作がモデルとした東京都練馬区にある実在の銭湯、「たつの湯」を参考につくりあげられた。


「外観はたつの湯さんで撮影をおこなっていますが、内部は廃業した銭湯をお借りして撮影しました。番台はたつの湯のものを再現したというか、できるだけ近づけたんです。番台に座った蘭丸に葵(原菜乃華)や李仁が声をかけるときの視線の角度や目の高さが画としてどう写るのかは、浜崎監督がとくにこだわったところです」
荒唐無稽なファンタジーでもある本作だが、どこかリアリティを感じさせる。それは中川さんの美術に対するスタンスが関係しているかもしれない。

「映像になったときに、僕は『美術が関与しているな』と思われたくないんです。あくまで自然に写っているほうが美術として成功していると思います。『すごいのを飾ったな』というような奇をてらったものよりも、役者の演技や映像を邪魔しないものにしたい。それがおとなしいという印象につながることもありますが、そのことよりも劇中で描かれるドラマ、役者さんたちの演技をしっかり観てもらいたいので、あまり余計なことはしないように心がけています」




映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#155(8月号2025年7月1日発売)『ババンババンバンバンパイア』の美術について、美術・中川さんのインタビューを掲載。
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中川理仁
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