韓国発の大ヒットWebマンガが、日本で映画化。『女神降臨 Before 高校デビュー編/After プロポーズ編』と二部作で、主人公、麗奈(Kōki,)、俊(渡邊圭祐)、悠(綱啓永)の三角関係が描かれる。劇中、麗奈と俊が親密になっていく過程で重要な役割を果たす舞台がホラーレンタルショップの「デビルパイ」。美術の石井哲也さんに制作秘話を聞いた。
店長が興味を持ったものをとりあえず集めてきて売っているショップ
麗奈と俊が出会う場所であり、前後編を通じてキーとなる舞台でもある「デビルパイ」。二人が大好きなホラー関連の映画や漫画が所狭しと並び、カフェでもあるという風変わりなお店だ。実はこれほど個性的な空間は原作には登場しない。
「原作のWebマンガにもビデオショップが出てくるのですが、ごくありふれたお店なんです。「デビルパイ」については星野監督と古林プロデューサーがアイデアをたくさんお持ちだったので、一緒に膨らませていきました」
石井さんが参加したタイミングでは、撮影用にお借りするスペースがすでに決定していた。
「もとはいわゆるおしゃれなカフェです。それを雑貨も扱っているような、ちょっと特殊な面白い空間に持っていくにはどうしたらいいのかを考えました。結果、今回は思いっきりファンタジーに振ることにしたんです」
全面ガラスだった入口側の面には扉と壁をつけた。そのことで中がはっきりとは見えず、少々怪しげな雰囲気に。それは撮影のしやすさも考えての建て込みでもあった。
「昼でも夜のシーンを撮らなきゃいけないスケジュールだったんです。壁をつけることで日光を遮断するのが楽になりました」
内観を考える上で重要だったのは、店長・依田茂通(佐藤二朗)のキャラクターだ。
「『佐藤二朗さん演じる店長だったら、こういう店で、こういう雑貨を扱っていて、こういうものも扱っているはず』と、自分なりに想像を膨らませていきました。言ってしまえば、もう『何でもかんでも』だと思うんです(笑)。興味を持ったものなら、とりあえず集めてきて売っているはず」
「何でも」と言いつつも、方向性は定まっていた。石井さんは美術をオファーされたその翌日、自主的にこのカフェをロケハンしてイメージを固めていたのだ。

「自分がキャメラマンになった気持ちで、ロケハンの段階から『こっちから撮るだろうな』と想定してラフを描いていきました。『ここにはこういうものを飾るから、こういうものが必要だ』と明確なビジョンのもとに買い集めていったんです。そして実際に飾る作業をしながら、『ここだと映らないから、場所を変えよう』という風に修正をしていきました」

店で扱う個性豊かなアイテムはどのような店で買い集めたのだろう。
「ヴィレッジヴァンガード、Seriaなどの100円ショップ、街中の個人経営の雑貨屋さんなど、いろいろなお店を回りました」
店内は大量の電飾も目を引く。
「多少の電飾はカフェにもすでにあったんですけど、それでは足りませんでした。それに夜のシーンがありますから、雰囲気を出すためにはもっと必要だったんです。直接光を当てる照明だったり、スタンドライトや間接光などをプランニングしていきました」
作品には麗奈の住まいも登場する。撮影は千葉のハウススタジオでおこなわれた。その美術について、星野監督にも話を聞いた。
「『麗奈の家族はみんな仲がいいし、アットホームな家にしたい』というイメージを描いていました。ただしホラー好きの麗奈の部屋は多少おどろおどろしくて、少し変わった女子高生の部屋に見えた方がいいと考えたんです」(星野)
かといって、暗いだけでは本作の持ち味であるポップさが失われてしまう。
「リビングなどほかの部屋はアンバー系の暖かい照明なのですが、麗奈の部屋は、カーテンをブルーにしてもらったり、若干青みがかった色をリクエストしました」(星野)

麗奈はこの部屋で、ホラーメイクをきっかけに、ビューティーメイクにのめりこみ、女神へと変身する。
「メイクの練習をして、覚えて、綺麗な女性になっていく麗奈。なので時間とともに、部屋にはメイク道具が増えていく。大学生時代には、服などの室内に置いてあるものも少し変えています。また動画配信を始めるので、そのための機材も増えていきます」(星野)
そうして監督が満足する空間がつくり上げられた。

石井さんに映画美術の醍醐味を聞いた。
「役者の芝居や演出、キャメラマンのアングル、照明など、映画は総合芸術だと思っています。その芸術に美術として作品に貢献できる。そこにやりがいがありますし、参加できたことの喜びもあります」
なかでもとくに面白く感じるところとは?
「現実にはあり得ないような空間をつくれることです。フェイクであってもそこにリアリティを込めたり、逆にリアリティがベースであってもファンタジーを入れ込むことができる。やっぱり観ている人に楽しんでもらいたいですし、SNSで反応を目にしたときはうれしいですね」

今作は準備スケジュールがタイトだったこともあり、撮影が終わったあとに「キレてしまった」と語る石井さんだが……。
「いや、怒りではなく、緊張の糸が(笑)」
大変な仕事だが、やめられないという。
「妙な言い方になってしまいますが、中毒性があるんです。もういいかなと思いつつも、しばらく経つと『もう一回やれないかな』とか、『同じような規模の話が来ないかな』とか、欲が出てきちゃうんです(笑)」


映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#153(4月号2025年2月21日発売)『女神降臨 Before 高校デビュー編/After プロポーズ編』の美術について、美術・石井さん×監督・星野さんのインタビューを掲載。
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石井哲也×星野和成
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