テーマ:一人暮らし

「電話」他五篇

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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「本人は、これ置いてくんで処分してくれと言ってました」
「えっ?ええ!そ、そーなんですか?」
「ええ」
「・・・じゃあ、もういいんですね。きっと」
「そ、そういうことな気がしますね、要らないと言うことは」
「ええ・・何だか」
「ほんと何だかですね」
「あの、今夜ひまですか?」
「え、ひまですよ」
「良かったら飲みに行きませんか?」
「本当ですか?いいですけど、あの」
「〇〇の駅前のローソンで7時にアンアン読んでるんで、声かけて下さい。あの、シマシマの服を来てます」
「オ、オッケーです」
「私、島田です。じゃあ、後で(プー、プー)」
「・・・」

彼は一旦受話器を置くが、改めてもう一度手に取り、耳に当てた。彼女は電話を切ると隣
のおばさんに「もう、こんな仕事辞めます」と言い残し、席を立った。おばさんは無視し
て、じゃがりこを食べている。店に戻った彼は、席でヤシマ電気のHPを眺めた。壁の時
計は午後四時を回ったところだった。

駅前のコンビニには、アンアンを立ち読みするシマシマの女性がたくさんいた。彼は、店の入り口で立ち尽くす。







2「犬」

夜九時の同じ道にあの人はいる、可愛い犬を連れて。小さな犬だ。種類は分からないが、
多分流行りのお洒落な奴で色は白に近いグレイだったと思う。背の高い飼い主の持つリー
ドを精一杯の小さな力で引っ張り、何となく(としか思えないほど、鼻先の動きがいいか
げんだった)地面の匂いを嗅いでいる。一体、何の匂いがすると言うのか?飼い主の彼女
はそんな顔をしていた。ピタッとした薄めのイエローのTシャツにデニム、足元は少しヒ
ールのあるサンダルだったと思う。

夜九時の同じ道にあの人はいる、可愛い犬を連れて。その道を右目に見て通る時、彼女と
分かった。長い髪の毛が風に揺れていた。この時間になっても今日はまだ暑い。夜になっ
て少し風は出てきたが、彼女の首や額は少し汗ばんでいた。立ち止まらず通り抜けた自分
が、数秒間に察することの出来たのは以上だ。振り返らずに真っ直ぐ歩く。いかにも家路
を急ぐ人だ。

夜九時の同じ道にあの人はいる、可愛い犬を連れて。男といた。焦った。勝手にこっちで、
彼女に恋人がいないと思い込んでいたようだ。実際、まだそんな想像すらしていなかった
けれど不意を突かれた。でも、不思議と恋人じゃない気がした。何かがしっくりきてない
ように思えたのだ。男は同じくらい背が高かった。僕はただの通行人であり、彼女から見
れば風景の一部に違いない。どうして、こんなにも気分が高揚するんだろう?僕はバッと

「電話」他五篇

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