部屋交換
たぶん俺のことを笑わせるイベントを考えておいてくれたんだろう。手の込んだことをするなと思った。
チャットの前に読んでいたら話題にしたんだろうが、残念ながらもう遅い。あとで、面白かったよ、と言ってやろうと思った。そうだ、そんなに好きならスイカを買っておいてやろう。こんな時間だとコンビニくらいだろうか。でも今の時期じゃコンビニでスイカって売ってないよな。散々考えた挙句、コンビニまで行ってアイスを買って帰る。冷凍庫にアイスのスイカバーを一〇本入れておいた。これで我慢してもらおう。
そんなことをしていたら夜の一二時近くになっていた。そろそろ寝ようかと思った。
この布団で寝るのか、そう思いベッドを見る。ベッドの上の布団をめくるだけでなぜだか心拍数が高まる。体を入れる。大きめの枕が深く沈む。正直落ち着かない。渚がいつもここで寝ていると考えると、なんだかいけないことをしているように感じる。それでも変に匂いを嗅いだり、あるいはもっとやましいことをしようとか、そんな考えはなかった。この部屋では禁欲を貫こうと決めていた。それが渚に対する礼儀でもあると考えたからだ。
とはいえ、この状況ではもんもんとしてしまう。ひたすら羊の数を数える。数える速度がやたら早い。だが疲れていたのでその速度もすぐに遅くなる。じきに睡魔が襲ってきた。
ずっと緊張続きだったのだ。いつの間にか寝入ってしまった。気が付くと明るくなっていた。こんなに熟睡したのも久しぶりかもしれない。東小金井駅から大学へと向かう。慣れない道のりに、朝帰りをしてしまったようなそんな気分だった。それと同時に、これでいつもと違う日常が終わってしまったのかという残念な気持ちもあった。
大学の講義を終えて自分のアパートに戻ってきた。たった一日なのに、なんだか一週間くらい留守にしていた気分で懐かしく感じた。郵便ポストを開けて自分の部屋の鍵を取り出す。メモ書きがあった。「プリンはいただいたぞ。美味しかったよ」とあった。
いつもの外階段を上り、部屋の前までやって来た。やっぱり慣れた自分の部屋が一番だな、そんな風に思いながら鍵を差し込みドアを開けた。一歩足を踏み入れる。その瞬間見たこともない景色が視界に広がった。思わず部屋を間違えたのかと思った。
部屋はまるで誕生日の飾り付けのように折り紙で作った輪っか飾りがカーテンレールと天井を這っている。床は風船で埋め尽くされている。壁には折り紙で作った花がたくさん貼り付けられている。俺の部屋がメルヘンな感じに変わっていた。
部屋交換