テーマ:一人暮らし

部屋交換

この作品を
みんなにシェア

読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

閉じる

 携帯を手にして一旦、安藤の部屋は狭いな、と書きかけてから消す。
 ――安藤の部屋、おしゃれだね。と書き直した。
 すぐに返事が届く。
 ――そうでしょ! 時間かけて熟成したからね! 自信作です。
 やはり部屋を見て欲しいという気持ちもあったのかもしれない。チャットからはそのことが伝わってきた。
 そのあとはお互いの部屋の褒め合いだった。トイレと風呂が別でいいね。とか、駅前が栄えていていいね、いや安藤の駅は落ち着いていていいと思うとか。半分は社交辞令だが、半分は本気で褒めていた。ぎこちない会話からは、まだ互いの部屋に慣れていない様子が伝わってくる。
 会話の終盤になって渚が聞いてきた。
 ――ところで、冷蔵庫は開けた?
 ――いや。開けてないよ。
 渚の返事には少し間があった。
 ――ふーん。もう寝るね。おやすみー
 ――わかった。おやすみー
 なんで冷蔵庫のことを聞いてきたのだろうか。言われてみて不自然に部屋においてある冷蔵庫が気になった。キッチンに置き場がないため冷蔵庫が部屋置きなのだ。気になってしまうとそれが目についてしまう。
 これがなかったら完璧な部屋なのに、と残念に思ってしまう。
 冷蔵庫なんてわざわざ開けてみることもないのだが、気になったので開けてみた。渚が普段どんなものを食べているのか少し興味もあった。だが冷蔵庫を開けた途端、一瞬思考が止まった。
 そこにあったのは本来冷蔵庫になんて入れないもの。ぬいぐるみとノート。ぬいぐるみがノートを囲んでいた。なんで冷蔵庫の中にぬいぐるみ? ノート? 少し混乱する。そしてノートを手にする。「秘密の日記」とあった。
 なるほど。これを見せたかったのか、と思った。
 ノートを開いてみる。「○月□日、今日は私の好きなフルーツをランキング形式で紹介します」。この言葉から始まる。
 しばらくランキングについてぐだぐだと解説が入って、「1位 すイカ! 甘くて、みずみずしくて、おいしいよね!」とある。2位はキウイだ。なぜかフルーツの一文字目はひらがなで書いてある。なんでキウイを「きウイ」と書くんだ。女の子の感性はわからない。
 面倒なので、2位のキウイ、3位のデコポン、4位のスモモと流し読みする。最初の一文字がひらがなで書かれていたのと4位という中途半端なところで終わっているのが気になったがページをめくる。
 そこにあったのは「見いーたーなー! 人の日記を見ちゃだめでしょ!」。それで終わっていた。

部屋交換

ページ: 1 2 3 4 5 6 7 8

この作品を
みんなにシェア

7月期作品のトップへ