7月期
雨の魚
大気が震え、手の甲に当たる粒が大きく多くなってゆくのを感じた瞬間、蒸された地面が一気に毛羽立った。交差点の向こうの渋谷駅もガードも灰色の輪郭だけになり、信号の赤い光がぼやけて放射状に広がった。濡れたアスファルトの匂いが立った。頬に髪が貼り付いて、足の先が濡れた。あたりいちめんで傘が開き、雨の向こうで赤が青に変わった。競うように人々は歩き出したが、彼女は額から鼻の横を伝ってきた雨粒を口に含むと、一尾の赤い金魚になって交差点をゆく人々の傘の森を泳いでいった。
雨の魚