テーマ:一人暮らし

ピーチティー

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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「いいよ。一人分しか布団ないんだけど、それでもいいかな。」
春香はホッとした表情を見せる。
「大丈夫!床で寝る!お邪魔します。」
こうして、我が家に初めて来客を招くことになった。

初めて人を招くので多少緊張したが春香は物珍し気に部屋を見渡し、部屋のレイアウトや雑貨の一つ一つを珍しそうに眺めて「畳って落ち着く」「あ、フォションがあるの素敵!」とコメントをくれる。社交辞令かな。違うかな。でもどちらにせよ、黙っていられるよりずっといい。それに、自分で選んだフォションの紅茶コレクションを誰かに褒められるのは、内心とても嬉しかった。
「そうだ、何か飲む?紅茶しかないけど。」
私は戸棚にコレクションしている紅茶を指さした。
「え、いいの?ありがとう。」
「アールグレイ、ダージリン、アップル、ピーチ、セイ…」
セイロンティーを読み上げる前に春香は返答した。
「ピーチがいい!フォションのピーチ、私大好き!」
こうして、部屋にピーチティーの香りが充満した。普段は甘すぎると思っていたその香りが、人を招くと不思議に華やかさを演出する。和やかな雰囲気になり、会話が自然と弾むようになった。
「やっぱ一人暮らしいいなあ。こういうお洒落な紅茶を淹れて、まったり会話するのって素敵。私一人暮らししたら絶対女子集めてご飯会したい。」
「じゃあ、する?うちで。スペイン語の女子集めてさ。」
「本当?いいの?めっちゃやりたい!」
まだ距離がある私たちにとって、女子会ネタは会話が続きやすい話題だった。フォションに合うクッキーや、女子会を盛り上げるインテリアなど、私たちはどんな女子会がいいか意見を言っては、「それいいね」と褒めあった。春香ともっと仲良くなりたいな。ちゃんと話すまでは知らなかったけれど、見た目の派手さとは裏腹に、彼女は気遣いができる明るい子だった。
翌週、午後のスペイン語のクラスで春香を見つけた。目が合って微笑んだあと、彼女の席へ向かう。春香はすでに他の人と座っていたが、勇気を出して聞いてみる。
「私も一緒に座ってもいい?」
もちろん、そう言って春香は笑った。奈央は内心ホッとし、そして春香の隣に座っているみのりにも声をかけた。
「すいません、お邪魔します。みのりちゃん、だよね。一回スピーキングのペアが一緒だったね。」
春香がすかさず紹介する。
「あ、奈央知ってるんだ?みのり。帰りの電車が同じで、よく一緒に帰っているの。」
みのりは長い髪を傾けて奈央を見た。

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