テーマ:二次創作 / ヘンゼルとグレーテル

ヘルとテル

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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「あんたたちはここにいてね。お母さんとお父さんはちょっと出口探してくるから」とヘルとテルの母親がいったとき、予定よりずいぶん早いじゃないかとおばあさんが怒ったために落っこちそうになったドローンが木の葉を揺らした。猫でもいるんじゃないかとテルが音がした方にいきそうになったけれど、ヘルが足をかけたからとっくみあいがはじまった。おばあさんはほっとした。けれどおばあさんは怒っているのだ。
 打ち合わせどおりなら、父親と母親がヘルとテルといっしょに森のなかをざっとひとめぐりしてから、ふたりは置いてけぼりになるのだ。でも父親と母親は段取りを無視して、森の奥にいくふりをしてふたりを見守っている。あとで追加料金をもらわないとおばあさんとしては納得ができない。これから大急ぎでお菓子の家を作らないといけないのだから。
 ヘルとテルの背丈はほとんど変わらないけれど、それでも弟のテルの方が強かった。ヘルはいつも、兄なのだからと本気を出すことができなかったし、テルは本気を出さないということを知らなかった。ヘルはこかされて、森の土が顔につき、顔の横を蟻が這っていった。ヘルは泣きそうになったが、ドローン越しに見られているんじゃないかと大人たちの目を気にした。ドローンはもうおばあさんが事務所に向かわせていたのでいなかった。ヘルはそのことで涙をこらえることができなくなった。木陰で見ていた母親が飛び出しそうになったけれど、父親がそれを抑えた。今回のことをやろうといいだしたのは、おまえじゃないか、と。
 打ち合わせはスカイプで行われた。ヘルとテルの両親は機械に疎く、なんだか自分たちがハイテクになったような気がして、インストールが完了するのを待つあいだ少しにやけていた。指定されたところからコールがかかってきたので出てみると、画面の向こうにはおばあさんがいて、間違いスカイプだろうか、という風にふたりが顔を見合わせると、間違ってませんよ、とおばあさんがいった。おばあさんは名刺を画面に向けた。

株式会社メルヘンランド
しつけ担当キャスト
魔女

 魔女さん、ですか、と両親がいう前に、おばあさんは、もちろん源氏名です、といった。では早速、奥さんが送ってきてくださったメールに基づいて、打ち合わせをさせていただきますね。ああ、そんなに身構えないで。確かに、弊社の倍率は高いですが、選ばれたどのご家庭も、奥さんたちのご家庭となんら変わりはありません。私どもは、ごく普通のご家庭の手助けをさせていただきたいのです。

ヘルとテル

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