海と山に囲まれた風光明媚な愛知県蒲郡市にIさん家族が暮らすコートハウスがある。ご主人は大学卒業後、会社員を経て、家業のイチゴ農家を継いだ。奥さまは保育士。子どもは小学生と幼稚園児の元気な男の子が2人。これで忙しくないはずはない。
奥さまは保育園で午前中の勤務を終え帰宅すると、山のような家事をこなさなければならない。「仕事から帰るとすぐに夫と自分の昼食の用意。午後は、幼稚園のお迎えや習い事の送り迎え。帰ると夕飯の準備。同時に洗濯などもしているので、夕食を終えるまでは、キッチンに立ちっぱなしですね」と話してくれた奥さま。
道路から見た外観。背の低い塀や植栽で緩やかに仕切られている。右側イチゴハウスの横から裏動線へ通じる。左はご主人の事務室と趣味室を兼ねた「離れ」 |
そんな忙しい家族の生活の中心がこのキッチン。ここに立つと、廊下に設けられたスタディコーナーへ視線が通り、中庭の緑を眺めながら、家事をこなすことができる。 ご主人は「畑の一角に建てる職住一体型の家なので、オンとオフは分けたかったですね。ならば中庭のある家がいいのかなと。でも閉塞的になるのではなく、光や風を取り込んだ開放感のある家にしたかった」という。
リビングからDKを望む。リビングは2段ほどスキップしているので、平屋でありながら、高低差のある空間の変化も楽しめる。リズミカルな現しの梁も印象的 |
設計を任されたのは、松原建築計画の松原知己さん。提案したプランは、コの字型に中庭を囲んだ「母屋」と、ご主人の事務室と趣味室を兼ねる「離れ」を組み合わせた平屋のプラン。回りは背の低い塀と常緑樹で囲い、外部と程よくつながりながらプライバ シーも守られるよう計画した。
また、ご主人が農作業から帰ってくるための裏動線も設けた。職住一体型住宅だからこそ、オンとオフをうまく切り替えるための仕掛けが必要というわけだ。「母屋」と「離れ」からは、いつでも中庭の様子を眺めることができる。
キッチン、リビングの外壁側に設けられたハイサイドウインドーからは、イチゴのハウスや遠くに里山の風景を望むことができる。内を見ても、外を見ても、場所によって変化に富んだ景色に出会うことができるのだ。 小学三年生の長男の将来の夢は「イチゴ農家になって、お父さんと一緒に働くこと」。親の働く背中を見て育つ。職住一体の住宅は自然とそんな環境を整えてくれる。
趣味のガーデニングを楽しみながら、大らかな景色を堪能する草原での暮らし
朝5時に起床して朝食を済ませると、早速庭へ。夜、灯りがつくまで草花と過ごす。 「庭仕事は木々や球根を植えるだけではありません。雑草を取ったり、咲き終わった花を摘んだり、肥料を施したり、害虫駆除をしたり、やることがいっぱい。この辺はモグラやアナグマが根をダメにしてしまいますので、彼らとも戦わなければなりません。1日があっという間に過ぎてしまいます」 そう話す伏見さんは、今では毎日ガーデニング三昧の日々を送っているが、以前は東京都に住む公務員だったそう。
「定年後はどこに住もうかと、海外も視野に入れて考えたのですが、結局、近場の山梨に。ここは母の土地なのです」と、庭を育てながら、草原の中に暮らすライフスタイルを選んだ。 新居の設計は、家づくりのセミナーに参加して出会ったacaa建築研究所の岸本和彦さんに依頼。草原となじむレッドシダー張りの小屋のような外観。それとは一転、室内は光が美しく拡散する白い世界。コンパクトだが、内壁が複雑に入り込み、全体を見通せない奥行きのある空間が広がる。そして外と接する「外の間」が4つ、DKや寝室など生活を営む「中の間」が3つある。 「風景を求める、つまり外に向かって開く開放感と、シェルターとしての安心感を18坪の小さな家の中に共存させています」(岸本さん)
ここでの生活の最大の魅力は「景色」だと伏見さんは言う。濃い霧に包まれた雲海の景色は、とても幻想的で感 激 するそう。一方、不便なことは、店舗や病院などが近くにないこと。買物は1週間に1度車で買出しに行き、まとめ買いしている。 ちょっとあれが欲しいなんていうとき困りますけどね」(伏見さん)自然な感じできれいだな、気持ちいいな」という庭を目指しているが、まだ目標とする庭の30〜50%しか達していないという。カメラを勉強して、庭の木々や花々、庭を訪れる小鳥や蝶々などを撮るのが次の楽しみだ。
2つ並ぶシンプルな三角屋根の小屋は、 内部で行き来できるカフェと住居
以前は筑波大学の近くで、カフェを営んでいた池田弘江さん。このときはテナントで、「いつか筑波山が見えるところに独立店舗と住居を構えたい」と考えていた。その夢を実現したのは昨年11月。お父さまから譲り受けた緑地に「ジャーナルカフェ」と名前を改め移転オープンした。 設計を依頼したのは、「友人の家を手掛けていて、とても素敵だった」(池田さん)というナンバーファイブス一級建築士事務所の土田拓也さん。 「まわりに立つビニールハウスの形状を取り入れ、三角屋根の小屋が並ぶように住居とカフェをつくりました。また、元の緑地の余韻を残すように、カフェ内の柱を木に見たて、ランダムに配置しています」(土田さん)
カフェには、オープンなテーブル席のほか、ところどころに半個室的な席や2階席もある。これは、「お客さまが来られるたびに、いろいろな雰囲気を味わえたほうが楽しいと思って…」という池田さんのアイデア。どの席からも緑豊かな風景が楽しめ、筑波山が正面に見える特等席もある。
裏の畑では、有機栽培で野菜や果物を作り、採れたての素材を使った料理やデザートをお客さまに提供している。一番人気のメニューは「JOURNAL野菜たっぷりヘルシーセット」。 30品目の食材が摂れ、ご飯は五穀米と7分づき胚芽米のブレンド。手の込んだ健康食で1日20食限定だ。酵素たっぷりのジュースを目当てに来店するお客さまも多い。 「スタッフが料理をつくっているところが見えたほうが、お客さまが安心される」(池田さん)とオープンに設けた厨房を抜けると、住居につながる。
「住まいは、家族でくつろぐLDKを広くとって、あとは寝る場所があればいいと割り切りました。小さな子どもがいるので、すぐにカフェと住居を行き来できるのが便利で、とても助かっています」(池田さん) 今後は、裏の芝生でヨガやフラダンス教室を開くなど、人が集まる場にしていきたいと話す池田さん。休みの日も、常に「健康にいいこと」を考えている精力的な毎日だ。
夫婦での庭づくりが、毎日の楽しみ どこに居ても、庭に包まれる住まい
千葉県佐倉市に約200坪の土地を所有するMさんご夫妻。6年前、ご主人が定年を迎えたとき、残りの人生を2人で楽しむ家に建て替えた。家づくりのテーマは、奥さまの唯一の希望であった「庭と一体になる家」。 「土をいじっていると、ストレスがなくなるんです。以前もよく苗を買ってきて植えていたのですが、なんせ、家は古い和風。建物と庭の雰囲気がちぐはぐで、ガーデニングを心から楽しめませんでした」と話す、奥さまの希望を形にしたのが、建築家の山﨑健太郎さん。 「敷地形状に合わせて5つの部屋を南北に細長く配置し、それぞれの部屋をずらして並べました。すべてのズレた部分にガラスをはめ、南からの日射が家や周辺の庭に行きわたるようにしました」(山﨑さん)
かくして出来あがったのは、どの場所からも庭が見え、広い庭の中に住むような家。部屋と部屋の間仕切りは一切なくし、庭の中を散歩しながら、料理をしたり、食事をしたり、お風呂に入ったり…。そんな感覚を覚える空間となった。 奥さまの今の生活は、目が覚めるとまず庭へ。2時間半、たっぷり、庭の手入れをする。「庭仕事は、苗や球根を植えるだけではありません。雑草を取ったり、咲き終わった花を摘んだり、害虫駆除をしたり…。そんな隠れた努力がいい庭をつくるんです。夢中でやるから、時間はあっという間に過ぎてしまうけれど、本当に癒されます」(奥さま)
最近は、農業ボランティアに参加しているという奥さま「緑豊かな自然の中で農業体験や生き物との触れ合いを通じて、 子どもたちに豊かな人間性を育んでほしいと設立された市の公共施設なのですが、ここで知り合った仲間から教えられることも多いですね」 『◯◯風』の庭は目指していない。大切にしているのは、家と調和させること。「家と庭は一体であるべき」がご夫妻の信念。そのためにどんな花や木を植えようか、考えるのも楽しい。DIYが得意なご主人が、パーゴラやベンチをつくって、理想の庭づくりを陰ながら応援してくれている。
住人が豊かな関係を育む 「みんなのみち」がある暮らし
名古屋市の郊外、日進市の住宅地に、6軒の住宅が塀で区切られずに建っている一画がある。ある小春日の昼下がりに訪ねてみると、家と家の間に、カラフルな石の道があり、そこに住人が集まって、楽しそうに話をしたり、子どもたちが追いかけっこをしたりしている。
建築家の間宮晨一千さんは、3年前、不動産会社から、250坪の敷地に6軒の家を建てるプロジェクトのプロデュースを依頼された。以前から住宅の隣地境界線に疑問を持っていた間宮さんは、「民法上、家を建てるには、境界線から50㎝以上離さなければなりません。この50㎝は塀を建てるくらいにしか使われないもったいないスペースです。そこで塀を立てずに50㎝ のうち、40㎝を住人のみんなが共有するスペースにしたら、豊かな環境の家がつくれるのでは、と提案しました」
1軒が40㎝ずつスペースを提供すれば、隣と併せて幅80㎝の通路ができる。「この80㎝を『みんなのみち』として生かし、人のにぎわい、つまり人々のコミュニケーションの場にしようと企画したのです。塀がないから、どの家も風の通りがよくなり、光もよく入る、という利点も生まれます」 住宅は建売りではなく、1軒1軒設計して建てられた(5軒を間宮さんが担当)。腰掛けて井戸端会議ができる出窓を設けたり、住人が顔を合わせることができる玄関ポーチを作ったり、それぞれの家で『みんなのみち』に対して開く工夫が施されている。
隣の市からここの住人になったOさんは、奥さまの知り合いの紹介で間宮さんに設計を頼むことに。「みんなのみち」計画のことを聞いたとき、Oさんは、塀がないので、景観がすっきりしていいな、と思ったという。実際に2年住んでみて、「まず、道を歩くのが楽しいですね。約束もしないのに、自然に会話が盛り上がって、思わぬ情報が入ることも。何といっても、近所にどんな方が住んでいるか分かっているので安心なのがうれしいですね」(奥さま)。 仕切りが少なく、広々とした住まいもお気に入り。近所の住人との絆も大切に、豊かな毎日を過ごしている。
70代で建てる終の住処
平屋で、夫婦の趣味を満喫
子を巣立たせ、仕事も無事勤め上げた後、第二の人生を過ごす「終の住処」づくりにあこがれる熟年層は多い。70代の石渕利男さんと奥さまもそんな一組だった。小学校の教員だったご主人は26歳で結婚。3人の子どもに恵まれ、結婚10年目には2階建ての一軒家を建てた。若い頃からさまざまな趣味に没頭してきたご主人だったが、40代にさしかかる頃、旅先で偶然、オカリナ奏者の宗次郎氏に出会ったことから人生が一変する。
「目の前で吹いてくれたオカリナの音色に感動し、自作していると聞いて自分でもつくりたくなりました。それで何も分からないのにすぐ土を買って帰ったんです」(ご主人)。
まったくの独学で土をこね、試行錯誤をくり返すうちに音が出るようになり、さらに吹き方も独自で研究を重ねた。そのうちに地域の公民館でオカリナ教室を開講してほしいと声がかかり、あちこちでコンサートも行うまでになった。一方、奥さまは土いじりを趣味としていたが、庭が狭く、広い畑で思い切り野菜や花を育てたいと思っていた。
「足腰が弱く、階段の昇降がつらくなってきたし、子どもたちが独立してからは広い家を持て余していました。それで、ゆくゆくは畑仕事ができて程よい狭さの平屋で暮らしたい、と話していたんです」(奥さま)。
ご主人の退職を機に、趣味を存分に楽しめる家づくりを考えるようになり、最初の家からほど近く、庭が広く取れる土地を探した。設計は、以前住まいの修理を頼んだことのある馴染みの工務店に依頼。間取りはシンプルでも互いの趣味が楽しめ、人を呼びやすい平屋の住まいに、という希望を伝えた。子どもたちも、両親が充実した老後を過ごせるなら、と生まれ育ったわが家を手放すことに同意してくれた。ご主人は杉の無垢材の床やオカリナの製作作業ができる広い土間の玄関が、奥さまは畳敷きの和室と、落ち着ける洋間の寝室がそれぞれ気に入っているという。庭で育てた新鮮な野菜や果物を使って料理の腕を振るい、軒先に構えた窯でオカリナを焼く。新たな住まいで趣味を満喫する2人には、これからもますます充実した毎日が待っているようだ。
ペイントとシンプル家具で作り上げた愛着が生まれるDIY賃貸
「賃貸なのに改装OK」という、ユニークな物件に暮らすのは、映像作家のUさん(24歳)。
現在、専門学校で非常勤講師を務めながら、企業のプロモーション映像などを作成している。
以前は、横浜の実家に暮らしていたが、通勤や仕事の打ち合わせに便利な都内に住みたいと思い、インターネットで物件を探し始めた。
「事務所を兼ねたかったので、安くて広い物件を探していました。初めて内見したのがここ。43m²と広く、専用庭に緑もあり、何より『改装OK』という条件にひかれました。部屋を改装するなんて大変そうだなとも思いましたが、もともとモノづくりは好きでしたし、その場で書類にサインしました」
改装は、その内容を事前にオーナーに相談して承諾が得られれば、原状回復義務なしという条件だった。
Uさんは物件をひと目見た段階で、壁と天井は白く塗ろうと決心。
6畳2間ほどある居室の壁と天井は、友人に手伝ってもらい、丸1日で塗り上げたという。
キッチンと浴室、洗面室、トイレは、1人で2日間かけてペイントした。
壁と天井を白く塗っただけで、部屋が見違えるように明るく、清潔感あふれる空間になった。
リビング兼寝室の床はインターネットの通販でプリント床材を購入し、自分で敷き込んだ。
「使ったペンキは相当な量ですね。身体に悪いものは使いたくなかったので、かなり吟味して良いものを選びました。それでもDIYにはあまりお金はかかっていません。ペンキ代が約3万円、床材は1万円程度。あとはカーテンレールを付け替えたぐらいでした」
家具は壁の色に合わせて白で統一。
今後は友人とこの家で一緒に仕事をする予定とのことで、仕事スペースとなるダイニングには、大きな机を置いたという。かくして仲介した不動産会社も驚くスタイリッシュな部屋が完成した。
「思い通りの部屋づくりができて、かなり気に入っています。そのせいなのか、以前は夜型の生活だったのが朝型に変わりましたね」
住まいに愛着を持ち、暮らしを楽しめる「DIYが可能な賃貸」。賃貸住宅の新スタイルだ。