【2025年改正】学生アルバイトの年収の壁はどうなった?変更点や税負担を抑える働き方を解説
本記事では、「年収の壁」の概要や改正された具体的な内容をわかりやすく解説します。変更された点を正しく理解し、税負担を抑えるための働き方を知っておきましょう。
記事の目次
年収の壁とは何か

ニュースで「年収の壁」というワードを耳にすることがあるのではないでしょうか。年収の壁とは、税金や社会保険料の負担が発生する収入のラインのことです。年収の壁には大きく、税金に関わるものと、社会保険に関わるものの2つがあります。
このラインを超えると、税金や社会保険料の負担が増えるため、ご家族から働きすぎないように言われ、働く時間を短くして調整している学生アルバイトの方もいるでしょう。少子高齢化が進み、人手不足が深刻な状況になっているため、年収の壁を気にせず働くことができる環境づくりの一環として、年収の壁のラインが変更されました。
年収の壁には4つある

前章で、年収の壁には税金に関わるものと、社会保険に関わるものの2つがあることを解説しました。まずは税の仕組みを理解するにあたって必要な、収入と所得の違い、控除とは何かを押さえておきましょう。そして、具体的な金額を挙げながら、何の負担が増えるのかを解説します。
収入と所得の違い
日本は累進課税制度が採用されており、所得が多いほど納めなければならない税金も多くなります。税金の計算をする際には、アルバイト先から支払われた収入ではなく、必要経費や控除などを差し引いた所得が用いられます。
控除は「差し引く」という意味で、控除できるものが多いと税金を計算する際の所得が少なくなるため、税金の負担を抑えられます。本章で紹介する壁は、年収(収入)を指しているので、所得と混同しないようにしましょう。
110万円の壁:住民税がかかる
最初の壁は110万円で、これを超えると住民税がかかるようになります。住民税は、所得に応じて納める所得割と、所得に関わらず一定の金額を納める均等割の2つからなっています。
なお、所得割は所得に税率10%をかけた金額で、均等割は5,000円です。ただし、均等割は地域社会の会費のようなものであることから、自治体によって金額が異なる点に注意しましょう。
2024年までは、基本額などの45万円と給与所得控除の55万円を合わせた100万円が非課税ラインでした。税制改正により、2026年度(令和8年度)分からは給与所得控除が10万円に引き上げられ、65万円になったため、110万円が非課税ラインになりました。2025年内の所得が、110万円を超えると住民税がかかるようになります。
134万円の壁:学生に限り住民税がかかる
先ほど、110万円を超えると住民税がかかると説明しましたが、一定の条件を満たすと、非課税ラインを134万円に引き上げることができます。これは勤労学生控除と呼ばれるもので、控除を受けるための条件は次のとおりです。
- 給与所得などの勤労で得た所得があること
- 合計所得金額が85万円以下で、かつ勤労によらない所得が10万円以下であること
- 特定の学校の学生や生徒であること
これら3つの条件すべてに該当する人が受けられます。なお、特定の学校とは次のいずれかです。
- 学校教育法に規定する高等学校や大学、高等専門学校など
- 国や地方公共団体、学校法人などにより設置された専修学校または各種学校のうち一定の過程を履修させるもの
- 職業能力開発促進法の規定による認定職業訓練をおこなう職業訓練法人で一定の過程を履修させるもの
この134万円は、基礎控除43万円、給与所得控除65万円、勤労学生控除26万円の3つを合わせた金額です。
150万円の壁:親の所得税が増える・社会保険の扶養を外れる
学生がアルバイトで得た収入が150万円を超えると、あなた自身にかかる税金や保険料ではなく、あなたを養っている親の税金の負担が重くなります。これは、税制改正によって新しくできた特定親族特別控除によるものです。特定親族特別控除については、次章で詳しく解説します。
また、150万円を超えると、親の社会保険に加入できないケースがあり、あなた自身が国民年金・国民健康保険に加入しなければなりません。国民年金の保険料は1カ月あたり1万7,510円と決して安い金額ではないため、よく検討しましょう。
160万円の壁:子どもに所得税がかかる
学生がアルバイトで得た収入が160万円を超えると、あなた自身に所得税がかかるようになります。2024年までは、基礎控除48万円と給与所得控除55万円を合わせた103万円が、所得税が発生する年収のラインでした。
しかし、税制改正により2025年から基礎控除が最高額95万円、給与所得控除が65万円に引き上げられたため、160万円を超えると所得税が発生します。
【2025年】年収の壁はどうなった?税制改正のポイント

前章では、「年収の壁」を基準にどのような税金などの負担が増えるのかを解説しました。本章では、「令和7年度税制改正」の変更点を解説します。前章では年収(収入)に焦点を当てましたが、本章では必要経費や控除を差し引いた所得が中心となるため、気を付けましょう。
特定親族特別控除の導入
税制改正により、特定親族特別控除が創設されました。特定親族とは年齢19歳以上23歳未満の親族で、合計所得の金額が58万円超123万円以下の人のこと。なお、この親族には児童福祉法の規定により養育を委託されている里子を含みます。
該当する人がいる場合、特定親族を有する人(親など)の所得から特定親族の合計所得に応じた金額を差し引くことができます。特定親族の合計所得金額と控除額を、所得税と住民税に分けて下表にまとめました。
<所得税における特定親族等別控除の合計所得金額と控除額>
| 特定親族の合計所得金額 (収入が給与だけの場合の収入金額) |
特定親族特別控除の金額 |
|---|---|
|
58万円超85万円以下 (123万円超150万円以下) |
63万円 |
|
85万円超90万円以下 (150万円超155万円以下) |
61万円 |
|
90万円超95万円以下 (155万円超160万円以下) |
51万円 |
|
95万円超100万円以下 (160万円超165万円以下) |
41万円 |
|
100万円超105万円以下 (165万円超170万円以下) |
31万円 |
|
105万円超110万円以下 (170万円超175万円以下) |
21万円 |
|
110万円超115万円以下 (175万円超180万円以下) |
11万円 |
|
115万円超120万円以下 (180万円超185万円以下) |
6万円 |
|
120万円超123万円以下 (185万円超188万円以下) |
3万円 |
出典:総務省「説明資料[個人住民税について]」
<住民税における特定親族等別控除の合計所得金額と控除額>
| 特定親族の合計所得金額 | 特定親族特別控除の金額 |
|---|---|
|
58万円超95万円以下 (123万円超160万円以下) |
45万円 |
|
95万円超100万円以下 (160万円超165万円以下) |
41万円 |
|
100万円超105万円以下 (165万円超170万円以下) |
31万円 |
|
105万円超110万円以下 (170万円超175万円以下) |
21万円 |
|
110万円超115万円以下 (175万円超180万円以下) |
11万円 |
|
115万円超120万円以下 (180万円超185万円以下 |
6万円 |
|
120万円超123万円以下 (185万円超188万円以下) |
3万円 |
これまで扶養控除を受けられる要件の一つに、扶養親族の年収が103万円以下であることが盛り込まれていました。しかし、特定親族特別控除ができたことで、あなた自身がアルバイトである程度稼いでも、親の所得税の負担を減らせることになります。
例えば、アルバイトで得た収入が150万円までであれば、親の所得から特定親族特別控除として所得税では63万円、住民税では45万円を差し引けます。
基礎控除と給与所得控除の引き上げ
「令和7年度税制改正」により、基礎控除と給与所得控除が引き上げられました。基礎控除とは、税金の対象にあたらないものとして、所得から差し引ける金額のこと。給与所得控除とは、給料から必要経費に相当する金額を差し引けるものです。
基礎控除は、税金を納める人の合計所得に応じて異なります。具体的には、次の表のとおりです。
| 納税者本人の 合計所得金額 |
控除額 | ||
|---|---|---|---|
| 2024年(令和6年)分以前 | 2025年(令和7年)分 2026年(令和8年)分 |
2027年(令和9年)分以後 | |
| 132万円以下 | 48万円 | 95万円 | 95万円 |
| 132万円超 336万円以下 |
88万円 | 58万円 | |
| 336万円超 489万円以下 |
68万円 | ||
| 489万円超 655万円以下 |
63万円 | ||
| 655万円超 2,350万円以下 |
58万円 | ||
| 2,350万円超 2,400万円以下 |
48万円 | 48万円 | |
| 2,400万円超 2,450万円以下 |
32万円 | 32万円 | 32万円 |
| 2,450万円超 2,500万円以下 |
16万円 | 16万円 | 16万円 |
| 2,500万円超 | 0円 | 0円 | 0円 |
出典:国税庁「基礎控除」
※2025年(令和7年)・2026年(令和8年)分だけ一部の控除額が高い理由は、物価上昇に賃金の上昇が追いついていない状況を踏まえたため
例えば、アルバイトで得た所得が148万円だった場合、2024年までは48万円を差し引くことができ、所得を100万円として税金の計算をしていました。それが、2025年と2026年は88万円を差し引け、所得を60万円として計算します。
給与所得控除は55万円だったものが、収入金額190万円以下の方は、65万円に引き上げられました。
| 収入金額 | 2024年(令和6年)分以前 | 2025年(令和7年)分 |
|---|---|---|
| 162万5000円以下 | 55万円 | 65万円 |
|
162万5000円超 180万円以下 |
収入金額×40%ー10万円 | |
|
180万円超 190万円以下 |
収入金額×30%+8万円 |
なお、収入金額が190万円超の方は、変更されていません。
学生がアルバイトで年収の壁を超えないための働き方

学生がアルバイトをすることで、自由に使えるお金が増えますが、一定の金額を超えると、税金の負担が重くなってしまいます。本章では、税金の負担を抑えたい方に向けて、どのように働くといいのかをご紹介します。
勤労学生控除を活用する
勤労学生控除を活用すると、自分自身の住民税と所得税の負担を減らせます。2025年からは合計所得が85万円以下(収入金額150万円以下)かつ、給与所得以外の所得が10万円以下であれば、適用できます。
しかし、自動的に適用されるわけではないため、申告を忘れないようにしましょう。申告方法は、年末調整の際に、アルバイト先から提出を求められる「扶養控除等(異動)申告書」に勤労学生控除に関する事項を記載します。
年収150万円以内に抑える
アルバイトで得る収入を150万円以内に抑えると、親の税負担も軽くすることが可能に。一方で、150万円を超えると親が受けられる控除額が少しずつ減っていきます。例えば、自分の収入が182万円だった場合、特定親族特別控除の控除額は6万円。もし、アルバイトの収入が140万円だった時の控除額は63万円となるため、57万円もの差が生じます。
自身のアルバイトでの収入が150万円を超えると親の税金の負担が増えるので、結果的に世帯全体で見た時の手取りが減ってしまうかもしれません。節税を優先するのか、ご家族で一度話し合いをするといいでしょう。
扶養手当に注意する
親が勤めている企業に扶養手当がある場合、子どもが一定の収入を得ると、支給が打ち切られる可能性があります。扶養手当は、法律で定められた制度ではなく、企業が福利厚生として独自に設けているもの。
多くの企業では、この手当の支給基準を「年収の壁」と同様にしているケースがあります。つまり、一定の収入を超えると、「もう扶養する必要性はない」と判断され、支給が打ち切られることに。現在、親が扶養手当を受給している場合は、支給基準も確認するようにしましょう。
学生アルバイトの年収の壁に関するよくある質問
学生アルバイトにおける年収の壁に関するよくある質問をまとめました。
「103万円の壁」は2025年に廃止される?
「103万円の壁」は、2025年分から廃止されます。2024年までは、基礎控除額48万円と給与所得控除額55万円を合わせた103万円が「年収の壁」の一つで、これを超えると所得税が発生しました。
2025年からは基礎控除額が最高95万円に、給与所得控除が65万円に引き上げられたため、2つを合わせた160万円が、所得税が発生する「年収の壁」となります。
2025年に扶養がなくなるのはいくらの年収から?
学生アルバイトが扶養から外れてしまう年収は、150万円です。19歳以上23歳未満で収入が年間150万円以上であれば、国民年金では親の扶養から外れ、自分自身で国民年金の保険料を支払う必要があります。
また、健康保険は親が加入している加入先によっても変わりますが、150万円が一つの目安です。例えば、全国健康保険協会の場合、19歳以上23歳未満で年収150万円以上の方は親の扶養から外れます。
学生アルバイトの年収の壁はどうなった?
「令和7年度税制改正」によって、学生アルバイトにおける「年収の壁」は大きく変わりました。基礎控除と給与所得控除が引き上げられ、特定親族特別控除が導入された結果、収入が150万円までであれば、扶養を外れることなく、親の税金の負担も軽くすることができます。
まとめ
今回は、「令和7年度税制改正」に関して、学生アルバイトにおける「年収の壁」について解説しました。学生アルバイトにおける「年収の壁」は大きく4つあり、収入が一定のラインを超えると、所得税や住民税の負担が増えたり、親の社会保険の扶養から外れます。
アルバイトで得た収入が150万円以下であれば、親の扶養から外れることもなく、親の税金の負担を最大限軽くすることがでるでしょう。働くほど自由に使える金額も増えますが、扶養から外れると自分自身で税金や社会保険料を負担しなければならず、結果として手取りが減ることもあります。
働き方によって、世帯全体としての手取りが減る可能性もあるため、ご家族と話し合いながら働き方を検討しましょう。

執筆者
民辻 伸也
宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
大学を卒業し、投資用不動産会社に4年勤務後、選択肢を広げて一人ひとりに合わせた資産形成をおこなうため、転職。プロバイダー企業と取引し、お客様が安心感を持って投資できる環境づくりに注力。不動産の仕入れや銀行対応もおこなっている。プライベートでも、自ら始めた不動産投資でマンション管理組合の理事長に立候補。お客様を徹底的にサポートできるよう、すべての経験をコンサルティングに活かしている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ