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パートナーシップ制度とは?結婚と何が違う?

パートナーシップ制度とはどのような制度なのでしょうか?
「パートナーシップ制度」という言葉を聞いたことがある人もいらっしゃるでしょう。
この制度に関しては、同性カップルの人たちを対象としたものということは知っていても、制度の詳細についてはわからない人も多いのではないでしょうか。そこで、今回はパートナーシップ制度の概要や、婚姻届けを提出する「結婚」との違いについて解説していきます。

パートナーシップ制度とは?

日本においてのパートナーシップ制度とは?
日本においてのパートナーシップ制度とは?

パートナーシップ制度とは、一般的に戸籍上同性同士のカップルに対して、地方自治体や民間企業が婚姻と同等の関係を承認する制度のことを指します。あくまで「婚姻と同等の関係」と承認するものであって、法律上の婚姻でありません。以下では、具体的に日本のパートナーシップ制度について解説していきます。

対象となるのはどんな人?

パートナーシップ制度の対象となるのは、戸籍上同性同士のカップルです。身体も戸籍も女性同士、男性同士のカップルにパートナーシップ制度の適用があるのはもちろんのこと、例えば性別適合手術により、女性の身体となっているものの戸籍上は男性という人と戸籍上・身体上男性のカップルもパートナーシップ制度の対象となります。

日本のパートナーシップ制度

日本では2024年7月時点において、約460の自治体でパートナーシップ制度が導入されています。その形式は、東京都渋谷区に代表される「条例型」と世田谷区に代表される「要綱型」の2つです。また、企業においても、パートナーシップ制度を導入している例があります。それぞれの内容について、以下で確認していきましょう。

渋谷区の例

渋谷区は、「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」という条例を定めてパートナーシップ制度を導入しています。条例とは、いわば都道府県や市区町村における独自の法律ともいえるもので、定められている内容には国の法律には劣るものの、法的拘束力があります。
条例でパートナーシップ制度が設けられている自治体には、渋谷区の他に国立市などがあります。渋谷区のパートナーシップ制度について、手続の詳細は後ほど解説します。

世田谷区の例

世田谷区は、行政機関における要綱として、パートナーシップ制度を定めています。名称は、「世田谷区パートナーシップの宣誓の取扱いに関する事務処理要綱」です。
渋谷区との違いは、条例ではなく行政機関の要綱であるため、定められた内容に法的拘束力がないという点です。要綱型を採用している自治体には、他に札幌市や横浜市などがあります。世田谷区のパートナーシップ制度の詳細については、後ほど解説します。

民間企業の例

民間企業においても、パートナーシップ制度の導入を進めているところが増えてきています。例えば、ある企業では「同性パートナーシップ婚制度」を導入し、同性同士でパートナーシップを結んだ人に対して、異性婚をした人たちと同様の福利厚生を受けられるようにしています。また、大手の携帯電話キャリア企業においては、自治体が発行する同性パートナーシップの証明書類があれば、家族割等の各種サービスが受けられるようになっています。

海外のパートナーシップ制度

海外に目を向けると、同性同士のカップルに対してはさまざまな取り扱いがなされています。まず1989年にデンマークでは、初めて同性カップルに対して異性カップルと同等の権利を認める「登録パートナーシップ法」が制定されました。
また、2001年には、世界で初めてオランダで同性婚が法的に認められました。現在では、世界で約38の国と地域で法的に同性婚が認められています。アジアにおいても、2019年に台湾で同性婚が可能となりました。
「同性婚」が認められておらず、登録パートナーシップ制度を採用している国も多数ありますが、日本との違いは「法律」で制度がつくられているという点です。日本では国レベルの法律でパートナーシップ制度は認められていないため、海外と日本では、パートナーシップといっても大きな違いがあります。

同性婚を合法化している国
国名 法律施行月
オランダ 2001年4月
ベルギー 2003年6月
スペイン 2005年7月
カナダ 2005年7月
南アフリカ 2006年11月
ノルウェー 2009年1月
スウェーデン 2009年5月
ポルトガル 2010年6月
アイスランド 2010年6月
アルゼンチン 2010年7月
デンマーク 2012年6月
ブラジル 2013年5月
フランス 2013年5月
ウルグアイ 2013年8月
ニュージーランド 2013年8月
イギリス 2014年3月
ルクセンブルク 2015年1月
メキシコ 2015年6月
アメリカ 2015年6月
アイルランド 2015年11月
コロンビア 2016年4月
フィンランド 2017年3月
マルタ 2017年9月
ドイツ 2017年10月
オーストラリア 2017年12月
オーストリア 2019年1月
台湾 2019年5月
エクアドル 2019年6月
コスタリカ 2020年5月
チリ 2022年3月
スイス 2022年7月
スロヴェニア 2022年7月
キューバ 2022年9月
アンドラ 2023年2月
ネパール 2023年6月
エストニア 2024年1月
ギリシャ 2024年2月
リヒテンシュタイン 2025年1月
タイ 未定(※)

※2024年6月18日同性婚を認める法案が可決となった

パートナーシップ制度と結婚は何が違う?

パートナーシップ制度で可能になることとは?
パートナーシップ制度で可能になることとは?

では、パートナーシップ制度と結婚は何が違うのか、以下で具体的に解説していきます。

パートナーシップ制度で可能になること・メリット

パートナーシップ制度の導入で可能になることの例として挙げられるのは、以下のようなものです。

  • 公営住宅に家族として入居できる
  • 生命保険の受取人を指定できる
  • 携帯電話等のサービスで家族割が利用できる
  • クレジットカードで家族カードが作れる

また、先にも解説したとおり、企業の中にはパートナーシップ制度に登録している場合に、異性婚の夫婦や家族に適用される福利厚生を認めているところもあります。

パートナーシップ制度ではできないこと・デメリット

パートナーシップ制度は自治体ごとで認められているものにすぎないため、転居して住む自治体が変わると、それまでのパートナーシップ制度で認められていたことが認められなくなる可能性があります。この場合には、またその自治体でパートナーシップ制度の利用申請をおこなうことが必要です。
また、法律上の婚姻関係にないため、法的に認められないこともさまざまあります。具体的には、以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • 配偶者控除を受けられない
  • 子どもが生まれてもそのままでは親権を取得できない
  • パートナーが亡くなった時、遺族給付金を受給できない
  • 遺言書を作成しない限り相手に財産を残すことが難しい

パートナーシップ制度に法的効力はある?

先にも述べましたが、日本のパートナーシップ制度には、渋谷区に代表される条例型と世田谷区に代表される要綱型があります。条例は自治体の法規範として法的拘束力を有するため、条例型のパートナーシップ制度については、その自治体限定ではありますが法的効力があります。
しかし、要綱は行政機関の取決めです。そこには法的拘束力がないので、要綱型のパートナーシップ制度には法的効力がないことになります。

パートナーシップ制度を利用するには?手続きの流れ

パートナーシップ制度の流れや必要書類について
パートナーシップ制度の流れや必要書類について

以下では、日本で最初にパートナーシップ制度を定めた渋谷区と世田谷区を例に挙げ、パートナーシップ制度利用のための手続の流れを解説します。

パートナーシップ制度条例型(渋谷区)のケース

まずは、条例型の渋谷区のケースの手続を解説します。法的効力のある条例による手続であるため、やや厳格です。

STEP1:必要な書類を準備する

まずは、申請に必要な書類を準備します。必要書類は以下のとおりです。

  • 申請者それぞれの戸籍謄本または戸籍全部事項証明書(3カ月以内に発行されたもの)
  • 原則として、任意後見契約の公正証書及び合意契約公正証書両方の正本または謄本

STEP2:区役所に申請する

区役所住民戸籍課窓口において申請します。このときは、本人が二人揃って申請に赴くことが必要です。郵送での申請は受け付けていませんので、注意してください。
申請が受け付けられると、「受付票兼証明書交付引換証」が交付されます。

STEP3:申請内容の審査を待つ

区長が申請の際に提出された書類について、要件を備えているか審査をします。書類に不備がある場合などを除いて、審査終了まで3日程度かかるでしょう。
また、申請受付後も事実関係を調査する必要があると認められる場合には、質問されたり、文書等の提示が求められたりする場合があります。

STEP4:パートナーシップ証明書の交付を受ける

申請時に交付された「受付票兼証明書交付引換証」に記載されている受取可能な日以降に住民戸籍課窓口に行って、証明書を受領します。渋谷区では、証明手数料として300円がかかります。
また、証明書は1通しか発行されず、紛失、毀損等の事情がある場合以外は再発行されません。

パートナーシップ制度要綱型(世田谷区)のケース

次に要綱型の世田谷区の手続について解説します。法的効力がない分、手続は厳格ではありません。

STEP1:宣誓の予約をおこなう

宣誓をしたい日の3日前までに、世田谷区の「人権・男女共同参画担当課」へ電話、ファクシミリ、または窓口に直接行って、宣誓の予約をおこないます。この際、職員が宣誓要件に該当するかを申込者から聴取し、宣誓手続の日時について申込者と相談のうえ決定します。

STEP2:宣誓日時・場所の通知を受け取る

宣誓日時・場所等の記載された通知が、区から申込者に郵送されます。なお、宣誓場所は原則として、世田谷区役所梅丘分庁舎です。

STEP3:必要な書類を準備する

基本的な必要書類は以下のとおりです。

  • 本人確認書類:運転免許証、パスポート、マイナンバーカード等
  • 他に婚姻関係を結んでいないことの証明:戸籍謄本または戸籍抄本
    (申込者2名分、宣誓日前3カ月以内のもの)

STEP4:指定された場所で宣誓をおこなう

カップル両名が揃って、区が指定する場所に必要書類を持参して赴き、宣誓をおこないます。宣誓に際しては、まず宣誓書に必要事項を記入のうえ署名して区に提出します。

STEP5:宣誓受領書と宣誓書の写しを受け取る

その後、区から宣誓書受領証と受領印押印済みの宣誓書の写しの交付を受けて、手続は終了します。手続の所要時間は、全体で30分程度です。

現在のパートナーシップ制度が抱える問題・課題点とは?

パートナーシップ制度は同性婚とは違って法的な効力はありません。そのため遺産相続ができないなどさまざまな問題があるのが現状です
パートナーシップ制度は同性婚とは違って法的な効力はありません。そのため遺産相続ができないなどさまざまな問題があるのが現状です

現在のパートナーシップ制度の問題点は、なんといっても、法律上の婚姻として認められる制度ではないということです。そのため、先に記載したように、法律上の利益を受けることができないケースがあります。
また、自治体ごとにルールや承認される範囲が異なるため、証明を受けたとしても公的な証明としての効果に限界があることも課題のひとつです。

パートナーシップ制度に関するまとめ

最後に、これまで解説してきたパートナーシップ制度の内容について、以下にまとめました。

パートナーシップ制度では何ができる?

パートナーシップ制度では、自治体ごとに違いはあるものの、一定範囲で異性婚をしている人と同じ法的サービスを受けることが可能となります。詳細については、引越し予定先の自治体のホームページ等で確認しましょう。

パートナーシップ制度と結婚の違いは?

結婚制度は法律で定められており、国全体に統一的なルールがあります。一方、パートナーシップ制度は自治体ごとに設けられているもので、ルールが地域ごとに異なります。また、行政機関の要綱で定められている場合には、パートナーシップを結んだことについて法的な効果が認められません。

「渋谷型」と「世田谷型」の違いは?

渋谷型は、条例でパートナーシップ制度について定めるものであり、手続が厳格ではありますが、法的な効力を有しています。一方、世田谷型は行政機関による要綱でパートナーシップ制度を定めているもので、手続は簡略ですが、法的な効力がありません。

日本では、現在多くの自治体でパートナーシップ制度が設けられています。一定程度、同性カップルの方たちが異性婚している人たちと同様に、公的なサービスを受けられるようになってきました。しかし、相続の権利がない、配偶者控除を受けられないなど、不十分な点も多いのが事実です。
先進国のなかには、同性婚を認めている国や、同性カップルに異性婚カップルと同様の権利保障をしている国も多く見られます。今後、日本が先進国として、同性カップルの問題にどのように取り組んでいくのか注目されるところです。

寺林智栄

執筆者

寺林智栄

2007年弁護士登録。札幌弁護士会所属。札幌弁護士会「性の平等と多様性に関する委員会」、日弁連「両性の平等に関する委員会」所属。両委員会での活動を中心に、LGBT+の問題に日頃より取り組んでいます。

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