
リノベーションマンション事例「ビビッドな色と無骨な素材に囲まれる登山愛好家の住まい」
雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、神奈川県川崎市のTさんご家族の事例をご紹介します。納戸からあふれるアウトドア用品を収めたい…。思い出の山小屋をモチーフに、購入から約10年後のマンションをリノベーション。(text_ Eri Matsukawa photograph_ Takuya Furusue)
Tさんご夫妻の趣味は山登り。それも、海外に遠征し、何百メートルもの高さの絶壁に繰り返し挑んできたかなりの上級者だ。山岳愛好者のサークルで出会った二人。それぞれが所有する登山用品の量は相当なもので、結婚当初からそれらが家の一部を占めてきた。 長男が高校受験を迎えるまでに個室をつくろうと、マンションの購入から10年後、今回のリノベーションに至った。納戸に納まりきらなくなっていたアウトドア用品の収納場所をつくること、パッキングや自転車のメンテナンスができる広い玄関土間を設けることも目的だった。



書棚には国内外の登山雑誌が並ぶ。次にどこに登るか、ルートはどうするかを検討するときの資料になるという。登った山の写真を眺めると思い出がよみがえる。
設計・施工を依頼したフィールドガレージの原さんには、イメージとしてある写真を提出した。それは南米パタゴニア地方に建つ小屋の写真で、剣のように切り立つフィッツロイ山群の麓にある、思い出のカフェだ。手作り感いっぱいの荒削りな小屋から刺激を受けて原さんが描いたデザイン画には、丸太を並べた壁や暖炉、そして真っ赤な床があった。


スケッチはほぼそのままの形で実現。ダイニングの壁の丸太はスギの間伐材を利用したもので、力強い素材感に山小屋のワイルドなイメージが表されている。さらに木に囲まれる心地よさを求め、梁にはスライスした足場板を張り巡らせた。真っ赤な床に加え、各室のドアにそれぞれ異なる鮮やかな色彩を施したのは、原色づかいが多いアウトドア用品が馴染むように考えてのことだ。

以前はキッチンが閉鎖的で、料理中にダイニングやリビングの様子がわからないのが不満だったので、壁を撤去することに。壁の中から出てきた動かすことができない配管を、レンガ積みの暖炉の煙突に見立てることで、違和感なく溶け込ませた。中には電気式のヒーターが組み込まれ、ゆらめく炎や薪の爆ぜる音が聞ける仕掛けを楽しめる。

バッグをぶら下げるパイプは自主施工。奥にはスキー板も。
玄関土間の壁には、気兼ねなくネジや釘を打てるOSB合板を張り、棚柱を取り付けた。自由に棚板を増やしたり、パイプやフックを付けたりしてカスタマイズし、アウトドア用品を効率的に収納している。 幼い頃から一緒に登山やキャンプをしてきた二人の息子さんは、今は成長してそれぞれの活動に忙しい。
「一緒にキャンプに行かなかった夏は初めて」
と寂しそうに言うご主人に、奥さまが
「これからはまた二人で楽しめるじゃない」
とにこやかに応じた。





建物データ
〈専有面積〉91.57㎡〈バルコニー面積〉4㎡+41㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈設計期間〉2ヶ月 〈工事期間〉2ヶ月〈既存建物竣工〉2000年〈リノベーション竣工〉2017年〈設計・施工〉原 直樹+笹原恵理/フィールドガレージ

※この記事はLiVES Vol.102に掲載されたものを転載しています。
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