
リノベーションマンション事例「奇をてらわないおだやかな空間で 美しい時間を過ごす」
雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都目黒区の岡田さんご家族の事例をご紹介します。家は暮らしを包み込む背景。光、素材、眺望をコントロールしてつくりあげた、ずっと変わらず、心地よくいられるギャラリーのような住まい。(text_ Sakura Uchida photograph_ Osamu Kurihara)
家族で一緒に過ごせる時間を増やしたい―。建築家R.E.A.D. & Architectsの岡田一樹さんと絢子さんご夫妻が住み替えを決意したのは、こんな思いが発端だった。都心の閑静な住宅地でマンション暮らしをしていた一家。緑が多く子育てもしやすい土地だったが、二人目のお子さんが産まれて手狭に感じるように。エリアは変えず、のびやかな空間で子育てがしたい。そんな条件を満たすのが、歩いてコツコツ探した築27年のマンションだった。初見時の印象は北向きで薄暗く、決して万人受けするものではなかった。デザインや仕上げも、ひと昔前の垢抜けなさが目についた。しかしメインの開口が緑豊かなお寺に向かってとられていること、薄暗い印象は居室を分断する壁のせいだと、岡田さんはポテンシャルを見抜く。マンションはデベロッパーが1棟丸ごとリノベーション後、分譲する計画が進められていたが、一樹さん自らが設計を行うことを条件に購入。新築のようにはいかない制約のなか、デザインを練り上げた。
薄暗さの原因になっていた壁を取り払い、2LDKから明るい1LDKへ。寝室・水まわり以外は思い切ってひとつながりの空間にした。


「子どもが幼いうちは個室はいらない。その分をLDKに費やしました」
と一樹さん。週末は広々としたリビングで一家でにぎやかに団らん。そんな暮らしの中心は約3mのカウンター2列からなるキッチンだ。


食事が生活の中心だという一家。オープンなキッチンで家事にいそしむ絢子さんを中心に団らんが生まれる。幕板はナラのリブ。ステンレス天板は広島の加工業者に依頼。

「食事は我が家の暮らしの中心」
と絢子さんが語るように、ここにいれば子どもに目配りがきく。目につく設備を隠し、ミニマルな家具のようにしつらえたことでリビングに溶け込み、コミュニケーションも取りやすい。もう一つ、設計のコンセプトになったのは
「ギャラリーにいるような美しい時間を過ごしたい」
ということ。そのため、見せるもの・見せないものを選別。徹底的に家電や日用品を隠す収納計画がなされた。収納は把手すら付けず、プッシュオープン式で存在感をひそやかに。子育て中はモノがあふれがちだが、器や絵や建築書など、好きなものに囲まれた暮らしを設計で叶えた。

リビングのオープン棚には建築書や器、版画など、眺めていたいものを。テレビやおもちゃは扉付きの収納に。見せる、見せないのメリハリを考えデザインした。

マントルピースを思わせるリビング北面の壁。端正なルーバーでエアコンと24時間換気の換気口を目隠し。ピクチャーレールで飾っているのは大判タイル。


大容量の収納ですっきりとした玄関を実現。扉はナラ柾目の突き板を斜め張りに。
一樹さんは、
「住宅は暮らしを包み込む存在であるべき」
と考えている。それ故にこの自邸では奇をてらったことは行わず、美しい設えや四季の移ろいが映える空間づくりに注力した。オークのヘリンボーンの床、麻クロス張りの壁、わずかにホワイトを混ぜたモルタルを塗った天井など、仕上げも主張しすぎず、自然なぬくもりが滲み出るようシンプルに。



「SNSが発達して目新しい素材や視覚に強く訴えるデザインアイデアに目を奪われがちですが、人が実際に建築に入って感じ取る空間の豊かさや、居心地のよさを追求したい」
と、一樹さんは自邸に込めたデザインの意図を語ってくれた。


建物データ
〈専有面積〉87.22㎡〈バルコニー面積〉8.82㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉 1990年〈リノベーション竣工〉2017年〈設計期間〉約6ヶ月 〈工事期間〉3.5ヶ月〈設計〉岡田一樹/R.E.A.D. & Architects

※この記事はLiVES Vol.103に掲載されたものを転載しています。
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