
リノベーションマンション事例「板張りの造作に隠し扉。見せない収納をローコストで実現」
雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、福岡県福岡市の青木さんご家族の事例をご紹介します。SPF材やフレキシブルボードを用いて、建具や収納を丁寧に造作。散らかりがちなオープンスタイルの生活空間を「隠す収納」で軽やかに住みこなす。(text_ Yukari Yuki photograph_ Masami Naito)
青木春貴さんが購入した福岡市内の中古物件は、眼下に海が広がるリゾート型の分譲マンション。リノベーションを担当したスタジオモブの中尾彰宏さんは、青木さんとは学生時代からの知り合いで、親密な信頼関係もあり、プランづくりはとてもスムーズに運んだという。


ダイニングにつながる居室は小上がりの板間に。板を持ち上げると下が収納スペースになっている。元々あった押入は、そのまま残してワークデスクに改造した。
「アウトドアリビング」と定義された空間は、生活の大半を過ごす寝室から玄関、LDKまでがひとつながり。玄関左手がロフト式のオープンなベッドルーム、右手はオープンキッチン。その先に、ダイニングとリビング、そしてバルコニーへ続く構成だ。動線として効率がよく、また住居全体を通り抜ける浜風も心地いい。そんなオープンな間取りに加え、床や壁などに使用した素材も大胆でユニーク。床材は、外壁などの下地材として使われるフレキシブルボードを採用した。ボードの質感のある表情を見せるためにあえて裏側にして使うことで、印刷された品番などの文字がそのままアクセントになっている。元々外壁用のため、頑丈で耐水性に優れており、コストも比較的抑えられるのがメリットだ。玄関やキッチン、水まわりなど、大部分の床はこのフレキシブルボードで統一。一見、コンクリートのような表情なので、空間全体もシャープでクールな印象に仕上がっている。壁やドアもローコストに仕上げることを意識して、ホームセンターなどで買えるSPF材を採用。マンション特有の圧迫感のある梁も、木材で覆うことで造作のような設えとなり、ゆるやかに空間を仕切る存在へと生まれ変わった。




[右]・リビングテーブルの天板にもフレキシブルボードを張った。凹みを付けて収納に。
住まい全体がオープンなつくりということもあり、収納に関して青木さんご夫妻がリクエストしたのは「隠す収納」と「大容量の収納スペース」だった。それを受け、居室の小上がりの下やリビングのつくり付けのベンチの中など、可能な限り収納スペースを確保。中でもベッドルームの下の収納スペースはとても役に立っているのだそう。





小上がりの板を開けると、中は大容量の収納庫に。季節の日用品などを収納している。
「自転車も置けるし、突然の来客時は邪魔なものをぱっと隠せて便利です」(奥さま)
壁の一部をクローゼットにしたり、デッドスペースを有効活用したりと収納の見え方や容量にこだわった青木邸。視覚的にすっきりと整えられた造作が、ほどよく生活感を抑え、海辺の美しい暮らしにさり気なく寄り添っている。

[右]・ドアノブは付けず、レザーのつまみを付けて壁と一体化。

レザーとポールでつくったタオルかけ。
建物データ
〈専有面積〉76.54㎡〈バルコニー面積〉19.83㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉 1989年〈リノベーション竣工〉2016年〈設計期間〉4ヶ月 〈工事期間〉2ヶ月〈設計〉中尾彰宏+齋藤慶和/STUDIO MOVE〈施工〉若杉建設〈カーテン製作〉anbaba〈家具設計〉弓削純平〈家具製作〉一樹の陰

※この記事はLiVES Vol.89に掲載されたものを転載しています。
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