
マンションリノベーション事例「十字方向に広がる開放的な空間。風景も暮らしも中央で交差する」
雑誌「LiVES」に掲載されたマンションリノベーション事例から、今回は京都府京都市の久保さんご夫妻の事例をご紹介します。マンションでありながら4方向に窓を持つ十字型プラン。物件の魅力をありのままに活かすことで、明るくのびやかな住まいにリデザイン。(text_ Akane Kitaura photograph_ Takashi Daibo)
十字形状の設計が個性的なヴィンテージマンションをリノベーション
6年ほど前にヴィンテージマンションを購入した久保さん夫妻。「住まいは周辺環境が命」という考えのもと、リノベーションを前提にエリアを絞って物件を探した。
「あらゆる方向に窓があり、敷地前の木々から遠くの山まで美しい景色が広がっている。この眺望に惚れ込みました」(久保さん)
設計を依頼した建築家の今津康夫さんとは30年来の友人。カフェやベーカリーショップを経営する久保さんの店舗デザインも手掛け、この自宅が6件目の依頼。今津さんもまた、この住居に強く惹かれたと話す。
「片廊下ではない個性的な住戸配列や十字形状の平面。新しい試みにチャレンジした当時の設計者の姿勢に心を動かされました」(今津さん)

リノベーションで壁を取り払い景色と空間がつながる
解体前は壁で仕切られて部屋ごとに完結し、窓から見える景色も空間もつながらず、物件の特長を活かしきれていなかった。今回のリノベーションで壁を取り払い、間仕切りをガラスの框戸に変更。玄関ドアをあけるとLDKから寝室、仕事部屋まで広々と視界が開ける。頭上の梁を現しにすることによって十字型のグリッドを引き立て、東西南北が交差するダイニング天井には有孔ボードを取り入れた。

ガラスの框戸が8枚並び、視界を遮ることなくゆるやかに区切る。外部と接する窓は二重窓にして断熱性にもこだわった。窓の外に広がる景色を室内に取り込む。


玄関と居室の段差をなくしてフラットにつなげた。
ワンフロアに生活のすべての機能を担わせているが、キッチンや寝室を見せないことにより、生活感を排除している。キッチンの目隠し壁はナラの突板を用いて家具調に、寝室からリビングへと続く壁面収納はバーミキュライトボードで仕上げた。もともとは下地材だが、マットな質感がシンプルな空間に自然と馴染んでいる。




全方向の窓から光が入るユニークで解放感あふれる住まい
「以前は寒くて荷物置き場になっていた仕事部屋も今は快適。雰囲気はもちろん、過ごし方も変わりました」(久保さん)
窓が多く、間仕切りが少ないため、二重窓を取り入れるなど温熱環境も大きく改善した。

「長く住んでいれば、ケガや病気もするし、年も取る。断熱は目に見えない部分ですが、終の棲家となる家を考えるなら、外せない重要な要素です」(今津さん)
全方向の窓が連動し、光を存分に取り込んでひと続きの風景が広がる。物件本来の持ち味を引き出し、ユニークで開放感あふれる住まいに生まれ変わらせた。

寝床には省スペースな二段ベッドを採用。

洗面室の壁は漆喰の重ね塗り。

ミラーと照明付きのメイクコーナーも壁面収納に収めた。

ベッドのヘッドボードの棚板をくり抜いてキャットタワーに。

●Before
間仕切り壁に阻まれて光も風も通り道がなかった。壁を抜くことで個性的な平面が持つ魅力を引き出した。
建物データ
〈専有面積〉72.20㎡〈バルコニー面積〉17.85㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉1972年〈リノベーション竣工〉2019年〈設計期間〉5ヶ月 〈工事期間〉2ヶ月〈設計〉ニンキペン一級建築士事務所

※この記事はLiVES Vol.111に掲載されたものを転載しています。
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