
リノベーションマンション事例「美しくあることを 突き詰めたモノトーンの空間」
雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、大阪府大阪市のRさんの事例をご紹介します。モルタル塗りのマットな空間に生まれる深い陰影。修道院のような静謐な光に包まれて、愛猫2匹と美しいものに囲まれて暮らす。
(text_ Akane Kitaura photograph_ Takashi Daibo)
コーポラティブハウスのメゾネット住戸をリノベーション
「機能と美しさ、どちらかを選ぶのであれば、迷わず美しさを選びます」
とRさん。築38年のコーポラティブハウスのメゾネット住戸を初めて内見した際、Rさんは修道院のような印象を持ったそう。
「ガラスブロックや傾斜窓から差し込む光のニュアンスに惹かれて。この個性的な物件を、細部まで自分の思いに近づく空間にしてみたいと思いました」(Rさん)

下・玄関を入ると左手にモルタルの階段。上階からの光が雲間から漏れる光線のよう。(間仕切り壁兼、キャットタワーになっている)
リノベーションで光の表情が見えるモノトーンの空間を目指す
目指したのは光の表情が見えるモノトーンの空間だ。想いを託したのはアートアンドクラフト。すべては「美しいと思えるかどうか」を判断基準に、作家と編集者のような関係性でリノベーションが進んでいった。
壁、天井、梁や柱の隅々まで、すべて薄塗りしごき材による左官仕上げ。上下階とも床面は墨入りモルタル塗りで、ワックスを上塗りすることで艶感を加えた。モルタルはクラックが発生しやすいが、あらかじめ墨を練り込んでいるため深部も墨色。ひび割れ一つにも奥行きが宿るのは、こうした理由からだ。

壁面はグレーとホワイト。モルタルは水分の抜け方で発色が変わるため、複数の職人で一気に塗りあげた。コテむらを最小限に抑える職人技はもちろん、乾き方を均一にすることで色の違いはほぼなし。こうして生まれたマットで無機質な壁面が、ガラスブロックから差し込む自然光をやわらかく受け止めている。

生活感を排除するため、さまざまな電源スイッチを集約して隠せる収納スペースを確保。(家中のスイッチが収まる制御室)
オーダーメイドや作家による1点もの、アンティークで構成される住まい
Rさんの住まいは、造作されたものか作家による1点もの、もしくはアンティークで構成されていることも特徴だ。ドレッシングルームのシャツケースはイギリス製のアンティーク品。
「家具や部材を探して、全国を旅しました。アンティークは同じものが2つとない。このシャツケースを引き立てる仕掛けとして、ドレッシングルームが生まれたといっても過言ではありません」(Rさん)
垂れ壁と腰高のガラス壁のバランスは、リビングから見てシャツケースが映える高さに設計。奥にどんな空間が続いているのかと、思わず引き寄せられる。視線や意識の動きまで緻密にデザインされている。



上階はプライベートスペース。浴室はランドリースペースも兼ねており、部屋全体を見渡せるガラス張りに。格子ガラスを設えて、雑多感がなく、枠の存在感が際立つバランスを探った。水まわり設備はデザイン性の高い海外製品を採用し、生活感が出やすいスペースも妥協せず仕上げている。




壁付けのトイレ。海外製品らしいエッジの効いたフォルム。
「細部までイメージを具現化してくれたアートアンドクラフトさんは、まさに編集者のような存在でした」
とRさん。シンプルで機能的、エッジを効かせたシャープなデザイン。降り注ぐ光の中で、美しいものに囲まれる時間を、慈しむように暮らしている。


素材、色、壁を最小限に。2層をすっきり広々と使う
傾斜窓やガラスブロックは既存のまま残し、上下階ともスケルトンにして間仕切り壁はほぼ全て取り払った。フロアを広々と使う開放的な間取りに変更。
建物データ
〈専有面積〉127.75㎡〈バルコニー面積〉38.64㎡〈主要構造〉鉄骨鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉1982年〈リノベーション竣工〉1期 2017年、2期 2019年〈設計期間〉3ヶ月 〈工事期間〉5ヶ月〈設計・施工〉アートアンドクラフト

※この記事はLiVES Vol.114に掲載されたものを転載しています。
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