風致地区とは?地区の特徴や制限についてわかりやすく解説

そこで、本記事では風致地区について詳しく解説します。風致地区がどのような場所で、建築制限やメリットがあるのか、マイホームの立地選びに悩んでいる方やこれから土地探しを始める方は、ぜひ参考にしてください。
記事の目次
風致地区とは「都市の中の自然が守られている地区」のこと

「風致地区」とは都市計画法に規定する、都市における風致を維持するために定められた地域地区のことです。風致は水・緑地などの自然的景観を指し、都市環境の保全を図るために風致の維持が必要な区域に定めています。風致地区は都道府県や市区町村によって指定され、都道府県や市町村は、条例でその地区内に必要な規制を設けることが可能です。都市の中の自然環境を守る地区ですが、風致地区内に家を建てることもできます。
風致地区と景観地区の違い
風致地区と似た「景観地区」は、市街地の良好な景観を形成するために定められた地区のことです。いまある街の景観を維持するだけでなく、好ましい景観につくりあげるため、建物を建てる際は形状や高さ、デザインなどが制限されています。制限の内容は地区によって異なり、自由に建て替えやリフォームをおこなうことができません。一方、風致地区は自然環境を維持するための地区であり、建物の建築によるさまざまな制限があるほか、建築自体できないこともあります。
風致地区と保存地区の違い
もう一つ風致地区と似たものに「保存地区」があります。保存地区は「伝統的建造物群保存地区」の制度で、都市計画と連携して歴史的な集落や街並みの保存・整備をおこないます。伝統的建造物群とは、周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で、価値の高いもののことです。具体的には、全国各地に残る城下町・宿場町・門前町などの歴史的建造物群を指します。制限の内容として、建物の外観を変更する時に市町村への申請・許可が必要な点が挙げられます。風致地区は自然、保存地区は歴史を守るために定められた地区といえるでしょう。
風致地区で許可が必要なことは?

風致地区ではさまざまな規制がされており、建築する前に許可が必要なケースがあります。以下では、風致地区で許可が必要な点について解説していきます。なお、規制内容については都道府県や自治体ごとに異なるため、以下は一例であることを理解しておきましょう。ここでは東京都八王子市を参考に紹介します。
出典:八王子市「八王子市風致地区条例」(PDF)
建築物その他の工作物の新築、改築、増築または移転
建築物やその他工作物の新築、改築、増築、移転をおこなう場合は許可が必要です。ただし、建築物や該当部分の延床面積が10平方メートル以下である場合(新築や改築、増築後の建築物の高さが8mを超えるものを除く)は、許可が必要ありません。
宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更
宅地の造成、土地の開墾その他土地の形質の変更には許可を要します。ただし、面積が10平方メートル以下の宅地の造成等、かつ高さが1.5mを超えるのりを生ずる切土または盛土を伴わないものの場合は、許可が不要です。
建築物その他の工作物の色彩の変更
建築物やその他工作物の色彩の変更の際も、許可が必要です。ただし、建築物等のうち、屋根や壁面、煙突、門、塀、橋、鉄塔、その他これに類するもの以外の色彩の変更においては、許可が必要ありません。
木竹の伐採
木竹の伐採も、原則許可を要する行為です。
許可が必要ないケース
以下の木竹の伐採においては、許可が必要ありません。
- 間伐、枝打ち、整枝など木竹の保育のため通常おこなわれる木竹の伐採
- 枯損した木竹または危険な木竹の伐採
- 自家の生活のために必要な木竹の伐採
- 仮植した木竹の伐採
- 条例で掲げる行為のために必要な測量、実地調査または施設の保守の支障となる木竹の伐採
許可申請をおこなう前に、上記項目に該当していないか確認してみましょう。
土石の採取、水面の埋立て等
土石の類の採取、水面の埋立てまたは干拓においても許可が必要になります。
許可が必要ないケース
ただし、以下の場合は許可が不要です。
- 土石の類の採取で、採取による地形の変更が「宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更」で許可が不要なケースの宅地の造成等と同程度のもの
- 面積が10平方メートル以下の水面の埋立てまたは干拓
屋外における土石、廃棄物または再生資源の堆積
屋外における土石、廃棄物または再生資源の堆積も、許可が必要になります。ただし、面積が10平方メートル以下で、かつ高さが1.5m以下であるものにおいては許可が不要です。
風致地区の建築制限とは?

風致地区内でも、建築物を建築するために許可が出るケースがあります。自治体が建築の許可を出す条件として、さまざまな建築制限が設けられています。以下では風致地区の建築制限にはどのようなものがあるのか、東京都八王子市を例に紹介するので参考にしてください。なお、制限の内容は都道府県によって異なるため、建築する地域の自治体に確認してみましょう。
出典:八王子市「八王子市風致地区条例」(PDF)
建物の高さ
建物の高さに制限を設けており、八王子市の風致地区では第1種風致地区の場合10m以下、第2種風致地区の場合は15m以下の高さにする必要があります。
建ぺい率
敷地面積に対する建築面積の割合を表すのが、建ぺい率です。第1種風致地区では20%以下、第2種風致地区では40%以下でなければなりません。
建築物の外壁と敷地境界までの距離
建築物の外壁、またはこれに代わる柱の面から敷地境界線までの距離における制限です。道路に接する部分は第1種風致地区で3m以上、第2種風致地区では2m以上で、その他の部分は1.5m以上であることが求められます。
緑地面積(緑化基準)
緑地面積は10%以上の確保が必要です。
建築物・その他工作物の形態及び意匠
建築物やその他工作物の位置、形態及び意匠は、建物の敷地やその周辺の土地の区域における風致と著しく不調和でないことが求められます。
土地の形質変更
1haを超える宅地の造成等にあたり、高さ3mを超えるのりを生じる切土もしくは盛土、または都市の風致に特に必要な森林で、市長があらかじめ指定したものに対して伐採をともなわないこととしています。
風致地区のメリットとは?

風致地区ではさまざまな規制がありますが、風致地区に住むことで以下のようなメリットを享受できます。ここからは、風致地区の住宅に住むメリットについて解説していきます。
土地の価値が下がりにくい
風致地区の場合、土地の価値が下がりにくい点が大きなメリットです。風致地区の土地の価値には、一般的な土地とは異なる要素が影響します。土地に設けられた制限の強さは価値を下げる要素になりやすい一方で、景観や趣が守られた土地そのものの価値は、景気に影響されにくいという点が強みです。風致地区の物件を売却する際は、売却価格や売りやすさにつながるでしょう。
周辺の景観がよい
風致地区は都市における自然景観を守っている地区のため、周辺の景観がよい状態で保たれています。そのため、自然が多く住環境に適したエリアであることに加え、きれいな街並みが維持されているなかで住み続けることが可能です。
おもな風致地区の例
ここからは、風致地区の例として以下のエリアについて紹介していきます。
- 明治神宮内外苑付近(東京都港区、新宿区および渋谷区の一部)
- 西国風致地区(京都府、長岡天神・光明寺)
それぞれ地区の特徴や制限の内容などを紹介するので、エリアごとによって異なる特徴も参考にしてみてください。
明治神宮内外苑付近(東京都港区、新宿区および渋谷区の一部)

明治神宮の外苑地区を例に紹介します。神宮外苑地区は、緑豊かな風格ある景観と調和した賑わい、活力ある再整備の推進のため、再開発等促進区を定める地区計画が策定されました。地区全体で緑化を図り、緑豊かな都市環境を保全・強化し、魅力的な都市環境の創出を図っています。主な許可基準は以下のとおりです。
- 宅地の造成、土地の開墾その他土地の形質の変更
- 切土および盛土は必要最小限に止め、できるだけ建築部分に限定するものであること
- 支障木の伐採は必要最小限に止め、現存する植生はできるだけ残存させるものであること
- 施行面積が1ha以下のものにあたっては、高さが5mを超えるのりを生ずる切土または盛土を伴わないこと
- 伐採したあとは積極的に修景植栽をおこなうこと
- 1,000平方メートルを超える皆伐については、指定地域においては認めないものとする
- 色彩を含めて意匠を計画すること
- 色彩は原色および蛍光色は避けること
- 周囲の風貌に配慮し、地区内の色彩の階調を破らない調和的な色彩にするよう努めること
- できるだけ堆積をおこなう面積を少なくするなど、風致の維持に努めること
- 高さが3mを超えないこと
西国風致地区(長岡天神・光明寺)

京都府の西国風致地区に指定されているのは向日市3地区、長岡京市2地区、大山崎町1地区の計6地区に分布され、そのなかの長岡京市2地区を紹介します。
長岡天神は「長岡天満宮」を中心とした地区で、周辺の建築物は和風の意匠で緑豊かなものが多い傾向にあります。主な建築物は住居です。一方、光明寺は西山浄土宗の総本山である「光明寺」を中心とした地区で、周辺には竹林が多くあります。緑豊かな和風住宅や大学もあり、住宅の半数は伝統的な農家住宅であるのが特徴です。主な建築物は住居と文教・公共施設です。許可基準は以下のように定めています。
- 建ぺい率:40%以下
- 外壁の後退距離:道路に接する部分2m以上、その他の部分1m以上
- 高さ:15m以下
- 敷地の緑地率:20%以上
この地区内の建築物の形態および意匠について特徴的なのは、屋根の形態として望ましいものが切妻屋根・寄棟屋根・入母屋屋根の3種類とされている点です。また、屋根および軒を葺(ふ)く材料は日本瓦・銅板その他これに類する金属板、または平形彩色スレート類であり、それぞれ着色なしまたは黒・濃灰色系で光沢の少ないものとされています。
風致地区についてよくある質問

最後に、風致地区に関するよくある質問について、以下で回答していきます。本記事のおさらいとして確認してみましょう。
風致地区とはどんな場所?
風致地区とは、都市の中の自然が守られている地区のことをいいます。都市計画法で規定しており、都道府県や市区町村によって風致地区が指定されます。建築物等の建築などの行為にはあらゆる制限があり、その地区内に必要な規制は自治体ごとに異なるのが特徴です。
風致地区に家を建てることはできる?
風致地区では自然的景観を守るためにさまざまな規制を設けていますが、家を建てることは可能です。ただし、いくつかの制限のもと建築する必要があり、市長などから許可をもらう必要があります。
風致地区のデメリットとは?
風致地区に家を建てるデメリットは、建築制限がある点です。建物の高さや建ぺい率、デザイン、緑地面積などの指定があるため、こだわりの住宅を建てたい方からすると、制限が多く希望を叶えるのが難しいと感じることもあるでしょう。また、建築にあたって細かく指定があるため、近隣の住宅と似通ったデザインになる傾向にあります。
風致地区に家を建てるメリットとは?
風致地区に家を建てると、良好な自然環境や住環境が維持されていることもあり土地の価値が下がりにくく、家周辺の景観がよい点がメリットとして挙げられます。
まとめ
今回は、風致地区の特徴や制限の内容について解説しました。風致地区は自然が守られている地区のため良好な住環境が約束されている一方で、建築制限が多いため住宅にこだわりが強い場合は、風致地区内での住宅建築は向いていないかもしれません。風致地区に家を建てる際は、メリット・デメリットを考慮したうえで慎重に検討する必要があります。建築制限の内容は自治体によっても異なるため、希望する土地で理想のマイホームが叶えられるかどうか確認してみましょう。
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