Room109

約束のネバーランド

2020.12.14

一見、楽園のような世界

その美しさと裏腹に実は恐ろしい秘密を持った孤児院

美術清水剛

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世界的に人気を誇り、ハリウッドでの実写映画化も決まっている人気コミック「約束のネバーランド」。その実写化作品がこの冬、公開される。楽園のような美しい土地に建つ、主人公たちが暮らす孤児院「グレイス=フィールドハウス」。だが、実は大きな秘密を抱えている。美術の清水剛さんは、子供たちが生き生きと暮らす、夢のような空間をどのようにつくりあげたのだろうか。

一流のスタッフたちが集結してつくりあげた「グレイス=フィールドハウス」

今作の主な舞台となる孤児院、「グレイス=フィールドハウス」。今回、映画では大規模なセットが組まれた。
「映画の半分以上をセットでこういう撮る作品は、いろんなシチュエーションが登場するため、それなりにお金がかかります。やはり最初に直面するのは予算の問題です。今回も、予算の都合で、当初はロケセットでの撮影を予定していました。外観を撮影した天鏡閣をはじめ、いくつかの建物をロケハンしたのですが、古すぎたりして、作品のイメージに合うところが見つかりませんでした。その多くが文化財なので、修復することはもちろんできません。仮にそこで撮影することになっても、壁を傷めずに撮影するためには、似た壁をつくって、本物の壁の前に建てることになります。でも、それをやっていくと結局、セットと同じになるので(笑)。ロケでは撮影時間に制約も出てきますし、移動するにもお金がかかってしまいます。館を舞台にした作品では、いつもついて回る問題なんです」

「グレイス=フィールドハウス」の外観は福島県猪苗代町にある天鏡閣(旧有栖川宮・高松宮翁島別邸)で行われた。「フランク・ロイド・ライトの弟子、遠藤新が設計した建物なんです。平川監督は『まず、ここのイメージありき』と言っていました」(清水)。



今作は現実の世界とは違うファンタジー要素も含んでいる。だが、清水さんは『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』『鋼の錬金術師』などでの経験もあり、すんなり入れたと言う。
「『鋼の錬金術師』は、イタリアロケだったのですが、日本人キャストで、エキストラも現地の日系の人に金髪のかつらをかぶってもらって撮影をしました。実際やってみて、これはこれでこういう世界観はありだと思ったので、今回もすんなり受け入れることができました」 今作のメガホンをとったのは、『ROOKIES~卒業~』『僕だけがいない街』『記憶屋 あなたを忘れない』などで知られる平川雄一朗監督。清水さんは初めての平川作品への参加となった。

メインセットはフジテレビの湾岸スタジオのもっとも大きなステージに建てられた。清水さんは以前『信長協奏曲』でも、ここにセットを建てている。


天鏡閣のものを模してつくられた出窓。食堂も同じ出窓になっている。



「平川監督がこだわったのは、空間の広さでした。ただ、限られた予算だったので、とても大変でした。特に食堂は、火災のシーンもあったので、何回もプランを書き直して、最終的な着地点を見出しました」 平川監督はヴィジュアル面よりも、お芝居を重視したと言う。
「ヴィジュアル面でなにかを言われたことはないです。とにかく動きと距離感を大事にされていました。図書室もヴィジュアルはいいんだけど、カメラのポジションから考えて、人物がどこに、どうやって座るのか、そういうところにこだわっていました」

平川監督も気に入っていたイザベラの執務室。


今回は平川監督だけでなく、初の顔合わせとなるスタッフも多かった。撮影は『新聞記者』など藤井道人監督作品で知られる今村圭佑さん、照明は小林暁さんが手がけている。
「若い世代の才能がどんどん出てきているなと思いました。『いいな』という感覚に沿って、フィーリングでライティングをする人は好きですね。躊躇しないで、大胆にやっていたので、面白かったです」

図書室。赤が目をひく。「作業をしているときは、あまり考えていないです(笑)。なんとなしに色のバランスをとっているんでしょうね」(清水)。


エマ、レイ、ノーマンが脱走のために必要なものを隠す物置。壁を取り外して、そこにカメラを置くというセットだからこそ可能な撮影方法がとられた。


 装飾は、山田洋次監督作品に参加する湯澤幸夫さん。
「『グレイス=フィールドハウス』の電飾のデザインは、すべて違うものになっているのですが、これは湯澤さんがいろいろ持ってきてくれたんです。最近の山田洋次さんの映画をずっとやってらっしゃる方で、年齢も近くて、気になる存在でした。今回はたまたまスケジュールが合って、一緒に仕事をすることができました。図書館も、高さのある本棚があって、そこに本を入れるだけでも大変だなと思ったのですが、全然問題なく、『大丈夫です』とやってくれました」 そうやって、第一線の映画人たちが集まってできあがった「グレイス=フィールドハウス」。
「原作のしっかりした世界観が、まずありきという前提がありましたね」

子供たちの寝室。「よく見ると子供たちのベッドの枕もとは、各々の個性が出ているんです。それは装飾部さんの方でアイデアを出してくれました」(清水)。



緑豊かな広い敷地の中に立つ洋館。子供たちは敷地の外に出たことがなく、どのような場所に建っているかは、謎に包まれている。“各部屋は〝カギ型の建築物〟の外観に沿うように配置されている”という設定だが、厳密な配置図は存在せず、実際のセットは各部屋、廊下を効果的に撮影できるよう、設定上の位置関係を度外視してつくられた。


映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#128(2021年2月号 12月18日発売)『約束のネバーランド』の美術について、美術の清水さんのインタビューを掲載。

Profile

プロフィール

美術

清水剛

shimizu takeshi

60年神奈川県生まれ。『電影少女』(91)で美術監督デビュー。『ゴジラ 2000 MILLENNIUM』(99)といった特撮から、『忍びの国』(17)など時代劇まで幅広いジャンルの作品を手がけている。近作に『初恋』『みをつくし料理帖』『空に住む』(すべて20)、Netflix『全裸監督』(19)などがある。

Movie

映画情報

約束のネバーランド
監督/平川雄一朗 原作/白井カイウ 出水ぽすか 出演/浜辺美波 城桧吏 板垣李光人 渡辺直美 / 北川景子 ほか 配給/東宝 (20/日本/119min) 楽園のような孤児院「グレイス=フィールドハウス」。孤児たちは、 母親代わりのイザベラのもと、 里親に引き取られる年齢になる日を待ちわびていた。ある日、エマ、レイ、ノーマンの3人は、施設の秘密を知ってしまう。そして、無謀ともいえる脱獄計画をスタートさせる……。12/18〜全国公開 ©白井カイウ・出水ぽすか/集英社 ©2020 映画「約束のネバーランド」製作委員会
約束のネバーランド公式HP

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