横尾初喜監督自身の、両親の離婚により父親と離ればなれになった幼い頃の体験をもとにつくられたオリジナルストーリー、それが映画『こはく』。主人公の亮太を井浦新、その兄・章一を大橋彰(アキラ100%)と、意表を突くキャスティングも話題の作品だ。舞台は長崎県。物語の鍵となる兄弟の実家は、監督の出身地である佐世保市内の民家を借りて撮影された。監督と15年来の仕事仲間という美術監督の小栗綾介さんは、ふだんとは違う手法で本作に向かった。
監督自身の原風景を守るために、あえて“リアル”を目指す
長崎市内で再婚し幸せに暮らす亮太は、父同様に自らも離婚し、子どもとの別れを経験している。これまで父親の失踪に触れてこなかった亮太が父親捜しに乗り出す直接のきっかけは、実家に帰った際の兄との会話だ。琥珀色に染まる淡い記憶をたどり始める亮太にとって、母親が父親に対して抱く思いを聞き出せるのもこの場所。展開のキーとなる重要なロケーションと言ってもよいだろう。
小栗さんは語る。「これまで仕事をご一緒してきたなか、横尾監督は登場人物の本質の部分を描こうとする方、だと思います。美術の発注をするときはいつも、『こういうイメージです』というような説明はしない。そのかわり『こういう性格です』や『この人はこういう設定です』など、人物像の話をする。本作は監督の半自伝的な映画だからだと思いますが、今回は幼い頃のアルバムをたくさん見せてくれました。監督のご実家を訪問したのも初めてです。監督は自分で自分の本質を見極めようとしているんじゃないか、そんな印象を受けました」
当の横尾監督は背景をこう説明する。「この映画の発端は、5年ほど前、実の兄貴が『親父のことをうらんでいる』とこぼしたことなんです。僕自身はそんなことを考えたこともなかったので衝撃を受けました。それ以降、父子の関係について考えるようになったんです。映画には、僕の父との思い出を表現したシーンをたくさん盛り込みました。亮太の回想に出てくる、父親が章一を抱きしめるシーンは、今回アルバムを開いたときに初めて見つけた写真が元になっています」
実家として使用する民家探しには苦労したという。「かつて僕が住んでいた家はどうかと考えたんですが、すでに廃墟になっていて使えなかった。物件が見つからず困っていたところ、別のシーンでお借りするお宅を見学する際、上がらせてもらったら、そこがピッタリだった。“実家の匂い”がしたんです」。
階下を“かつて父親と懇意だった職人の工房”として使用する建物だが、階上に登ると、3LDKの一軒家の平屋のように見える。台所から居間へ抜ける空間が広いことも決め手になった。母、長男のふたり暮らしにしては少しさみしく感じるほどの広さであることがイメージに合っていたし、兄弟がいさかいを起こす場面を引いたカメラ位置で撮影できることもおあつらえ向きだった。監督の一声により、この場所で実家シーンを撮影することが決定。実はこの家、住んでいた老人が亡くなってからそれほど年数が経っておらず、ほとんどの家財道具が残されていた点も都合がよかった。助監督の加藤毅さんも「使い込まれた家具や小物などがそのままで、生活感がまだ漂っていた。“実家”という設定にピッタリの雰囲気でした」と証言する。
階下を“かつて父親と懇意だった職人の工房”として使用する建物だが、階上に登ると、3LDKの一軒家の平屋のように見える。台所から居間へ抜ける空間が広いことも決め手になった。母、長男のふたり暮らしにしては少しさみしく感じるほどの広さであることがイメージに合っていたし、兄弟がいさかいを起こす場面を引いたカメラ位置で撮影できることもおあつらえ向きだった。監督の一声により、この場所で実家シーンを撮影することが決定。実はこの家、住んでいた老人が亡くなってからそれほど年数が経っておらず、ほとんどの家財道具が残されていた点も都合がよかった。助監督の加藤毅さんも「使い込まれた家具や小物などがそのままで、生活感がまだ漂っていた。“実家”という設定にピッタリの雰囲気でした」と証言する。
小栗さんは本来、美術を作りこむタイプだが、本作においては今までと違うという。
「今回は、『実家の匂いがする』とひらめいた監督の直感に沿いたいと考えました。美術は物語に必要な物を足したり、余計なものを引いたりしながら飾っていくものですが、今回に限っては『リアリティをつくるというよりは、リアルを』という方針で、その場にあるものを可能な限り生かすことにしました。もちろん 家族の写真を入れ替えるとか、最低限のことはやりましたけどね」。
兄弟と父親との接点を象徴するプラレールのおもちゃも“最低限”かつ、重要なポイントだった。「父に買ってもらった記憶があって、小栗さんにもそれは伝えました」と語る監督の期待に応えるように、小栗さんはネットオークションでデッドストックのプラレールを探し、入手した。
「今回は、『実家の匂いがする』とひらめいた監督の直感に沿いたいと考えました。美術は物語に必要な物を足したり、余計なものを引いたりしながら飾っていくものですが、今回に限っては『リアリティをつくるというよりは、リアルを』という方針で、その場にあるものを可能な限り生かすことにしました。もちろん 家族の写真を入れ替えるとか、最低限のことはやりましたけどね」。
兄弟と父親との接点を象徴するプラレールのおもちゃも“最低限”かつ、重要なポイントだった。「父に買ってもらった記憶があって、小栗さんにもそれは伝えました」と語る監督の期待に応えるように、小栗さんはネットオークションでデッドストックのプラレールを探し、入手した。
劇中、随所に登場する坂のある風景について監督は語る。「長崎市もそうですけど、佐世保市はとにかく坂が多い。坂に対して無理やり家を建てているように映るみたいで、家々を見たスタッフみんなが『これ、大丈夫なの?』って驚いていたのが印象的でした。僕はふつうだと思っていたんですけど(笑)。舗装されていない細い坂道は、うねりながら枝葉のように広がって山の上の方まで続いている。そういう道を駆け抜けるシーンは、亮太が幼少期の記憶をさかのぼるだけでなくて、僕自身が記憶をたどる行為と重なっている気がします」。

監督/横尾初喜 yokoo hatsuki(右) 79年長崎県生まれ。映像演出家、映画監督。ミュージックビデオ制作会社「竹内芸能」を経て、「Foolenlarge」を設立。17年、『ゆらり』で長編監督デビュー。
助監督/加藤毅 kato tsuyoshi(左) 82年広島県生まれ。助監督、映画プロデューサー。『アンフェア the end』(15)、『亜人』(17)などに助監督として携わる。本作で横尾作品に初参加。映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#119(2019年8月号 6月18日発売)
『こはく』の美術について、美術監督の小栗さんのインタビューを掲載。
『こはく』の美術について、美術監督の小栗さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術監督
小栗綾介
oguri ryosuke
83年東京都生まれ。アックス所属。おもな作品、MVにMAN WITH A MISSION×ZebraHead『Out of control』、西野カナ『もしも運命の人がいるのなら』、aiko『プラマイ』(以上15)、私立恵比寿中学『シンガロン・シンガソン』(17)、サザンオールスターズ『壮年JUMP』(18)、映画に『田沼旅館の奇跡』(15)など。本作は『ゆらり』(18)に続く、横尾監督とのタッグとなる。
Movie
映画情報

こはく
監督/横尾初喜 脚本/守口悠介 出演/井浦新 大橋彰 遠藤久美子 鶴見辰吾 木内みどり 配給/SDP (19/日本/104min)
幼い頃に別れた父の工場を受け継ぎ、いまは再婚し幸せに暮らす亮太に、母とふたりで実家住まいの兄・章一が、街で父を見かけたことを告げる。自らも離婚と子どもと別れた経験がある亮太は複雑な思いにかられるも、やがて兄弟で父親捜しを始める──。
6/21~長崎先行公開、7/6~ユーロスペース、シネマート新宿ほか全国順次公開
©2018「こはく」製作委員会
こはく公式HP