「パタリロ!」で知られる魔夜峰央が1982年に発表した、凄まじい“埼玉ディス”が込められた問題作「翔んで埼玉」。この漫画の実写化でメガホンを握るのは、『テルマエロマエ』で一大スペクタクルを描き出した武内英樹。今作の舞台となるのは埼玉県人が東京都民からひどい迫害を受けている架空の日本だ。インパクト大の魔夜峰央ワールドが出来上がるまでを、美術監督のあべ木陽次さんにきいた。
絢爛豪華な魔夜峰央ワールド
魔夜峰央ワールドの世界観構築までの流れを、あべ木さんはこう振り返る。
「最初にロケハンしたのは、主人公の壇ノ浦百美(二階堂ふみ)が通う白鵬堂学院の外観でした。実際はゴルフ場にある建物で、中はシックな木目調だったので、『教室に使ってもいいよね』とみんなで話していたんです。しかし、続けて群馬の結婚式場をロケハンしたとき武内監督が『ベルサイユ宮殿に教室があったらこんな感じ!ここまで“翔んで”いいんじゃないか』とおっしゃったんです(笑)」
「最初にロケハンしたのは、主人公の壇ノ浦百美(二階堂ふみ)が通う白鵬堂学院の外観でした。実際はゴルフ場にある建物で、中はシックな木目調だったので、『教室に使ってもいいよね』とみんなで話していたんです。しかし、続けて群馬の結婚式場をロケハンしたとき武内監督が『ベルサイユ宮殿に教室があったらこんな感じ!ここまで“翔んで”いいんじゃないか』とおっしゃったんです(笑)」
「作品の世界観の基準になった」というその式場の一室は、赤坂や青山に暮らす都会指数の高い生徒だけが集まるA組の教室に。金色を基調にした、大きなシャンデリアがある、いわゆる“学校”とはかけ離れた煌びやかな空間だ。
「この部屋を見たときに一気に美術としての振り幅が広くなりました。画的に面白いし百美(二階堂ふみ)がいてもおかしくない。ここにGACKTさん演じる転校生の麻実麗が現れたら、さらにハマるかなと」
「この部屋を見たときに一気に美術としての振り幅が広くなりました。画的に面白いし百美(二階堂ふみ)がいてもおかしくない。ここにGACKTさん演じる転校生の麻実麗が現れたら、さらにハマるかなと」
原作漫画の百美や麗の登場シーンでは、バラが多く描かれている。そのため、二人の登場シーンにも、常にセットのどこかにバラを飾ることをルールにしていたのだとか。
「バラの色はシチュエーションで変えていました。A組の教室は全体的に金色の世界なので、色合いを考えて真っ赤なバラに。生徒会室は百美の衣装も白なので、白ベースの豪華な感じを出そうと、白いピアノに白い家具も持ち込んで、白いバラを飾っています」
「バラの色はシチュエーションで変えていました。A組の教室は全体的に金色の世界なので、色合いを考えて真っ赤なバラに。生徒会室は百美の衣装も白なので、白ベースの豪華な感じを出そうと、白いピアノに白い家具も持ち込んで、白いバラを飾っています」
ヒエラルキーの頂点に立つA組に対し、底辺の元埼玉県人が集まるZ組は、小高い丘の上にある石造りの寒そうな教室……。
「栃木県の石切り場に、石造りのいい建物があったんです。もとはそこのオーナーが星を見るための小屋だったそうですが、別のロケハンで通りがかり、みんな『あそこにZ組があるね』と(笑)。貧乏感とかサイズ感があまりにも面白くて、見に行ったら武内監督もノリノリで決まりました(笑)」
「栃木県の石切り場に、石造りのいい建物があったんです。もとはそこのオーナーが星を見るための小屋だったそうですが、別のロケハンで通りがかり、みんな『あそこにZ組があるね』と(笑)。貧乏感とかサイズ感があまりにも面白くて、見に行ったら武内監督もノリノリで決まりました(笑)」
主人公・百美が暮らす壇ノ浦家が建つのは、もちろん東京の一等地。その大豪邸はまるでお城のようだ。
「父親の壇ノ浦建造(中尾彬)は悪徳都知事なので、武内監督も『いっそお城みたいな外観でいいだろう』と(笑)。室内は、白鵬堂学院のロケセットと同じ式場の一室を借りて撮影しました。リビングや書斎といった父親がいる場所には、馬の置物がたくさんあるんです。実は馬主をやっていて、本業とは別にお金儲けもしている……という裏設定です。相当悪い都知事だけど、ちょっと間抜けな感じもあるんですよね(笑)」
「父親の壇ノ浦建造(中尾彬)は悪徳都知事なので、武内監督も『いっそお城みたいな外観でいいだろう』と(笑)。室内は、白鵬堂学院のロケセットと同じ式場の一室を借りて撮影しました。リビングや書斎といった父親がいる場所には、馬の置物がたくさんあるんです。実は馬主をやっていて、本業とは別にお金儲けもしている……という裏設定です。相当悪い都知事だけど、ちょっと間抜けな感じもあるんですよね(笑)」
壇ノ浦百美(二階堂ふみ)は、一見女の子のようだが、実は男の子。少年の部屋をイメージし、グリーンの壁紙の部屋に決めた。
「武内監督とも百美の部屋はちょっとボーイッシュにしようと話していました。都知事の一人息子でおぼっちゃまだから天蓋ベッドはあるだろう。そこにピンクのものを入れると女の子っぽくなってしまうから、色味は青を入れよう……などと考えました。あまり突き詰めていわゆる男性の部屋にしてしまうとキャラクターと合わなくなるので、バランスには気を遣いました」
「武内監督とも百美の部屋はちょっとボーイッシュにしようと話していました。都知事の一人息子でおぼっちゃまだから天蓋ベッドはあるだろう。そこにピンクのものを入れると女の子っぽくなってしまうから、色味は青を入れよう……などと考えました。あまり突き詰めていわゆる男性の部屋にしてしまうとキャラクターと合わなくなるので、バランスには気を遣いました」
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#117(2019年4月号 2月18日発売)
『翔んで埼玉』の美術について、美術監督 あべ木さんのインタビューを掲載。
『翔んで埼玉』の美術について、美術監督 あべ木さんのインタビューを掲載。
※「あべ木」の「あべ」は木へんに青
Profile
プロフィール

美術監督
あべ木陽次
abeki yoji
65年神奈川県生まれ。94年ドラマ『若者のすべて』で美術としてデビュー。映画では『踊る大捜査線 THE MOVIE』(98)を皮切りに『踊る』シリーズ、『のだめカンタービレ 最終楽章 前編/後編』(09/10)、『SP 野望篇』(10)、『映画 暗殺教室』(15)、『本能寺ホテル』(17)などに参加。近作に『マスカレード・ホテル』(19)がある。『コンフィデンスマンJP』は5/17公開予定。
Movie
映画情報

翔んで埼玉
監督/武内英樹 原作/魔夜峰央「このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉」(宝島社) 出演/二階堂ふみ GACKT 伊勢谷友介 京本政樹 配給/東映 (19/日本/107min)
かつて埼玉県人は東京都民からひどい迫害を受け、身を潜めて暮らしていた。ある日、東京の名門校・白鵬堂学院の生徒会長で東京都知事の息子・壇ノ浦百美は、アメリカ帰りの転校生・麻実麗と出会う。互いに惹かれ合うも、百美は実は麗が埼玉県出身だったことを知る....。2/22〜全国公開
©2019映画「翔んで埼玉」製作委員会
翔んで埼玉公式HP