『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』の細田守監督最新作『未来のミライ』。甘えん坊の男の子くんちゃんは、“未来からやってきた妹”ミライちゃんと出会い、大きな冒険が始まります。今作で重要な舞台となるくんちゃんの住む家は、横浜市の磯子区近くに建っていて、建築家であるくんちゃんのお父さんが設計したという設定。プロダクションデザインとして実際にこの家の設計を手がけたのは、住宅や商業施設などを多く手がける建築設計事務所「SUPPOSE DESIGN OFFICE」の建築家・谷尻誠さんを中心としたメンバーだ。
住みづらさは住んでいくうちに、愛着へと変わる
「普段、お施主さんからは、生活感のない、きれいな家に住みたいという要望をいただくことが多いのですが、この映画ではいかに生活感を表すのかということを意識して設計していきました」
谷尻さん達が映画の舞台になる家を設計するのは初めて。それは普段の仕事とは真逆のアプローチになった。
「僕らにとって普段、大事にするディテールは、材料の取り合い方(建材同士が接合する部分)や、本来厚いものを薄く見せたり、そういうことなんです。それは裏側にあるもので、目に見えないところでやっていること。でも、映画ではそういう部分が見えるようにしました」
谷尻さん達が映画の舞台になる家を設計するのは初めて。それは普段の仕事とは真逆のアプローチになった。
「僕らにとって普段、大事にするディテールは、材料の取り合い方(建材同士が接合する部分)や、本来厚いものを薄く見せたり、そういうことなんです。それは裏側にあるもので、目に見えないところでやっていること。でも、映画ではそういう部分が見えるようにしました」
家具や電化製品といったものには、谷尻さんのリアルを取り入れている。
「僕がボルボに乗っていると言ったら、くんちゃんのお父さんの車もボルボという設定になりました(笑)。建築家の父親だとどんな道具、本が家の中にあるのか、子供が小さいときの生活はものがすべて収まっているはずがないから、どういうものが外に出ているべきなのか、とか。うちも子供が小さかったので、実感としてよくわかりました」
「僕がボルボに乗っていると言ったら、くんちゃんのお父さんの車もボルボという設定になりました(笑)。建築家の父親だとどんな道具、本が家の中にあるのか、子供が小さいときの生活はものがすべて収まっているはずがないから、どういうものが外に出ているべきなのか、とか。うちも子供が小さかったので、実感としてよくわかりました」
映画の冒頭、娘夫婦を訪ねて来た祖母は、斜面に沿うように建てられ、高低差を持った住空間を見て「おかしげな家を建てたもんだね」と言う。
「住みづらさは住んでいくうちに、愛着へと変わるんです。家に愛着を持つのは、便利さからだけではない。大人になると『この車、よく故障するんだよ』と言いながら、大事にしている人がいますよね。それこそ不便さがもたらす豊かさだと思います。『オレしか乗れないよ』という自慢で、『君たちじゃ乗れないよ』という言葉の裏返しじゃないですか。それは住宅においても同じ。『あなたたちでは住めないけど、自分たちなら使いこなして住めるんだよ』という表れなんです。むしろ不便さというのは、この家をつくる上では重要なキーワードでした」
「住みづらさは住んでいくうちに、愛着へと変わるんです。家に愛着を持つのは、便利さからだけではない。大人になると『この車、よく故障するんだよ』と言いながら、大事にしている人がいますよね。それこそ不便さがもたらす豊かさだと思います。『オレしか乗れないよ』という自慢で、『君たちじゃ乗れないよ』という言葉の裏返しじゃないですか。それは住宅においても同じ。『あなたたちでは住めないけど、自分たちなら使いこなして住めるんだよ』という表れなんです。むしろ不便さというのは、この家をつくる上では重要なキーワードでした」
ただし、それはお父さんの建築家としてのエゴだけでできた家ではない。
「建築家としての思いは込められているんですけど、間違いなくもっともうるさいクライアントと言える奥さんが隣にいるわけです(笑)。この場所でもっとも長く過ごすのがお母さんなので、使い勝手だとか、必ず注文が入るはず。それに子供が小さいときは安全面から、そこまで攻めた住宅をつくることはできない。そういう意味で、この家は生活と作品づくりが均衡を保つような成り立ちから生まれたと思います。僕だともっと攻めた家をつくってしまいがちなので、もう少し優しい生活を意識しました」
「建築家としての思いは込められているんですけど、間違いなくもっともうるさいクライアントと言える奥さんが隣にいるわけです(笑)。この場所でもっとも長く過ごすのがお母さんなので、使い勝手だとか、必ず注文が入るはず。それに子供が小さいときは安全面から、そこまで攻めた住宅をつくることはできない。そういう意味で、この家は生活と作品づくりが均衡を保つような成り立ちから生まれたと思います。僕だともっと攻めた家をつくってしまいがちなので、もう少し優しい生活を意識しました」
映画の仕事は、初めてだった谷尻さん。細田監督との共同作業は面白かったと振り返る。
「僕も事務所の人間も、脚本を読んで、この家には段差があるという構造は知っているんだけど、それぞれ違う家を想像している。みんなの脳をシャッフルしてこの家をつくっていく、魅力的な作業でした」
それは普段の仕事と通じるところもあった。
「僕らの事務所ではできるだけ借脳しようと、お施主さんの考えていることを自分たちプロの思考に混ぜるんです。その人がこれまでに培ってきた記憶や価値観と、自分たちがプロとして提案すべき価値観、そのふたつでどうやったら化学反応を起こせるかを意識しています。プロだからこうした方がいいよということを押し付けるようなスタイルはとっていません」
「僕も事務所の人間も、脚本を読んで、この家には段差があるという構造は知っているんだけど、それぞれ違う家を想像している。みんなの脳をシャッフルしてこの家をつくっていく、魅力的な作業でした」
それは普段の仕事と通じるところもあった。
「僕らの事務所ではできるだけ借脳しようと、お施主さんの考えていることを自分たちプロの思考に混ぜるんです。その人がこれまでに培ってきた記憶や価値観と、自分たちがプロとして提案すべき価値観、そのふたつでどうやったら化学反応を起こせるかを意識しています。プロだからこうした方がいいよということを押し付けるようなスタイルはとっていません」
それは細田監督のものづくりとも合致することだった。
「細田さんひとりで家を設計することも可能だと思うんです。でも、自分の世界観だけではなく、いろんな人間の思考をわざとシャッフルすることによって、通常の概念を超えた作品をつくろうとしているんだと思います。普通にやっていたら、僕らもこの家は設計できなかったと思います」
「細田さんひとりで家を設計することも可能だと思うんです。でも、自分の世界観だけではなく、いろんな人間の思考をわざとシャッフルすることによって、通常の概念を超えた作品をつくろうとしているんだと思います。普通にやっていたら、僕らもこの家は設計できなかったと思います」
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#113(2018年8月号 6月18日発売)
『未来のミライ』の美術について、プロダクションデザイン 谷尻さんのインタビューを掲載。
『未来のミライ』の美術について、プロダクションデザイン 谷尻さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

プロダクションデザイン
谷尻誠
tanijiri makoto
74年広島県生まれ。建築設計事務所勤務を経て、00年に建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEを設立。14年より吉田愛と共同主宰。住宅、商業施設など様々な分野を手がける。近年では同事務所で「社食堂」「絶景不動産」などを展開。穴吹デザイン専門学校特任講師、広島女学院大学客員教授、大阪芸術大学准教授なども勤める。
Movie
映画情報

未来のミライ
未来のミライ
監督・脚本・原作/細田守 音楽/高木正勝 声の出演/上白石萌歌 黒木華 星野源 麻生久美子 吉原光夫 宮崎美子 役所広司 福山雅治 ほか 企画・制作/スタジオ地図 配給/東宝(18/日本/98min)
甘えん坊の男の子、くんちゃん。生まれたばかりの妹に両親の愛情を奪われ、初めての経験の連続に戸惑う。そんなある日、くんちゃんは中庭で自分のことを「お兄ちゃん」と呼ぶ、“未来からやってきた妹”ミライちゃんと出会う……。7/20~全国公開
©2018 スタジオ地図
未来のミライ公式HP