『運命じゃない人』『アフタースクール』と、痛快なトリックを軸にした作品を発表してきた内田けんじ監督。そんな監督の最新作『鍵泥棒のメソッド』は、2人の男が入れ替わって巻き起こる喜劇を描く、爽快感あふれるエンターテインメント。堺雅人演じる売れない役者・桜井と、香川照之演じる伝説の殺し屋・コンドウ。対照的な2人の部屋をつくりだしたポイントを美術監督の金勝浩一さんに語ってもらいました。
text by 釣木文恵
text by 釣木文恵
収納のセンスが光る モノトーンな男部屋
香川照之さん演じるコンドウの部屋でいちばん苦労したのはウォークインクローゼットですね。「この大きさで何着入るか」など衣装の方と相談しながら、壁一面の棚をすべて美術部でつくりました。棚の内側は白くして収納されているものを際立たせようとしましたが、ちょっとごちゃごちゃしてしまったので、黒く塗りました。クローゼットと寝室を隔てる扉には穴をたくさんあけて、少し〈遊んで〉います。どれだけモノが収納されているかは、桜井がモノを引っ張り出すシーンで分かってもらえると思います。

仕切りを減らして、部屋全体を見通せるようにしたので、広くてぜいたくな空間に見えていると思います。クローゼットの引き出しも整然としていて高級に見えるかもしれませんが、IKEAなどで売っているような簡単に手に入るものだったりします。この引き出しのように、収納道具を駆使してモノを片付けるのはコンドウのクセでしょう。そんなふうに考えて、コンドウが暮らしはじめた後の桜井の部屋の押し入れにも、箱を使った収納スペースをつくってみました。 余分なものが生活空間に出ていなくて、すべてのものが機能的にしまわれているコンドウの部屋ですが、テレビの両脇にある壁付けのCDラックは、意識的に「見せる収納」にしています。コンドウの趣味でもあり、監督の趣味でもあるクラシックのCDが飾られています。この並べ方だけは、監督が決めました。

大きくくり抜いたり、スリッドを用いた間仕切り壁や柱で、圧迫感なく広い空間を間仕切っているのが印象的。バルコニーに面する壁はガラスブロックを使っておしゃれに採光をとっている。持っているモノにきっちり見合った分量の収納スペースが各部屋に用意されているため、余分なモノが空間に一切はみ出していない。
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#78(2012年10月号 8月18日発売)『鍵泥棒のメソッド』の美術について、金勝さんのインタビューを掲載
渋谷区の物件を探す
Profile
プロフィール

美術監督
金勝浩一
kanekatsu koichi
東京都生まれ。横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)を卒業後、『トカレフ』(94)で美術監督としてデビュー。おもな近作に『ちょんまげぷりん』(10)、『一枚のハガキ』(11)、『麒麟の翼』(12)など。内田監督の前作『アフタースクール』(08)も手掛けた。
Movie
映画情報

鍵泥棒のメソッド
監督・脚本/内田けんじ 出演/堺雅人 香川照之 広末涼子 荒川良々 森口瑤子 配給/クロックワークス(12/日本/128min)
35歳で売れない役者を続けている桜井(堺)は、自殺にさえ失敗する始末。銭湯で出会った金持ちそうな男、コンドウ(香川)が目の前で転倒し、気を失ったのをいいことにコンドウに成りすますが、実は彼は殺し屋で……。
9/15~全国公開
©2012『鍵泥棒のメソッド』製作委員会
鍵泥棒のメソッド公式HP