劇作家・前田司郎がオリジナル脚本でメガホンをとった監督第二作目にして、小泉今日子と二階堂ふみの競演も注目を集める『ふきげんな過去』。本作の舞台は、もと蕎麦屋のエジプト風豆料理屋「蓮月庵」。家族が営むこの店の2階で暮らしているのが、毎日に退屈している女子高生・果子(二階堂)。日常から抜け出したいと願う主人公の心情を、美術監督の安宅紀史さんはどのように表現したのだろうか?
懐かしさと憧れが混在する場所
北品川に建つ、古びた食堂「蓮月庵」がこの映画の舞台。実際に撮影されたのは、大田区池上で、池上本門寺(東京都大田区)の近くにあった古民家だ。もとは蕎麦屋だった店をカフェに改装するタイミングで制作部がこの建物を発見、カフェのオーナーさんにお願いしてロケ地としてお借りしたという。安宅さんは、「お寺もあるし、ここには裏庭もある。町にも下町の風情が漂っていて、北品川の雰囲気とつながるだろうと感じていました」。
「もと蕎麦屋のエジプト風豆料理屋」という一風変わった店の店内は、和の空間ながらところどころにアジアの雰囲気が漂う、ちょっと不思議な空間。もとお蕎麦屋さんなのに、中華風の丸テーブルが配置されていたり、無国籍のアイテムや懐かしさを感じるものも飾られていたりする。
「いつの時代の、どこの国のものかもわからないものを意図的に混在させています。よくある食堂のイメージからちょっとずらしたところを狙おうと、前田司郎監督とも話していました。少しの違和感をアクセントに、居心地良くなりすぎない場所にすることで、果子(二階堂ふみ)の心情とも重なってくるのかなと思ったんです」
「いつの時代の、どこの国のものかもわからないものを意図的に混在させています。よくある食堂のイメージからちょっとずらしたところを狙おうと、前田司郎監督とも話していました。少しの違和感をアクセントに、居心地良くなりすぎない場所にすることで、果子(二階堂ふみ)の心情とも重なってくるのかなと思ったんです」
2階は果子とその家族が暮らす居住スペース。日常にないものに憧れを抱いている果子のキャラクターは部屋の装飾からも感じられる。
「部屋の壁には、外国の風景写真を貼るなど、この和風の部屋にそぐわない、正反対のものを飾りました。あとは、いまっぽい女の子の部屋というより、懐かしさのある雰囲気も出したかったので、近所からもらったおさがりという設定の学習机や、もともと実家にあって気に入って使っているであろうものなどを置きました」
「部屋の壁には、外国の風景写真を貼るなど、この和風の部屋にそぐわない、正反対のものを飾りました。あとは、いまっぽい女の子の部屋というより、懐かしさのある雰囲気も出したかったので、近所からもらったおさがりという設定の学習机や、もともと実家にあって気に入って使っているであろうものなどを置きました」
古い木造の建物ゆえに壁回りや建具などの色味が少し沈んでいて重厚な雰囲気になりすぎてしまうことから、「果子の部屋の中には意識して明るめの色を使用した」と安宅さん。
「この映画のリアリティや生活感を考えると、あまり生っぽくなると重苦しさを感じてしまう。色は使用する面積で左右されるので、カーペットやベッドなどにはそこまで強い色は使っていませんが、要所要所に結構いろんな色を使っています。やりすぎると浮いてしまうので、もともとある木の質感と馴染むように、色のバランスには気をつけました」
「この映画のリアリティや生活感を考えると、あまり生っぽくなると重苦しさを感じてしまう。色は使用する面積で左右されるので、カーペットやベッドなどにはそこまで強い色は使っていませんが、要所要所に結構いろんな色を使っています。やりすぎると浮いてしまうので、もともとある木の質感と馴染むように、色のバランスには気をつけました」
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#101(2016年8月号 6月18日発売)『ふきげんな過去』の美術について、安宅さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術監督
安宅紀史
ataka norifumi
71年石川県生まれ。99年『月光の囁き』で美術監督デビュー。代表作に、『南極料理人』(09)、『ノルウェイの森』(10)、『マイ・バック・ページ』(11)、『横道世之介』(13)、『紙の月』(14)、『岸辺の旅』『恋人たち』(ともに15)、『モヒカン故郷に帰る』『女が眠る時』(ともに16)。『クリーピー 偽りの隣人』と『貞子 vs 伽椰子』は6/18公開、『聖の青春』が秋公開予定。
Movie
映画情報

ふきげんな過去
監督・脚本/前田司郎 出演/小泉今日子 二階堂ふみ 高良健吾 ほか 配給/東京テアトル (16/日本/120min)
毎日が退屈な果子(二階堂)の前に突然現れた、18年前に死んだはずの叔母・未来子(小泉)。「死んだままの方が都合よかった」という未来子は、爆弾事件を起こした前科もち。果子(二階堂)はその自由奔放さを疎ましく思いながらもどこか惹かれていく。しかし、未来子が実の母親だと告げられ……。6/25~テアトル新宿ほか全国公開
©2016「ふきげんな過去」製作委員会
ふきげんな過去公式HP