『新宿スワン』『リアル鬼ごっこ』など、2015年も数多くの作品を発表し続ける映画監督・園子温が、CGを使わず、特撮を駆使して描く大人のためのおとぎ話『ラブ&ピース』。主人公は、ロックミュージシャンの夢に挫折し、楽器の部品会社で働くしがないサラリーマンの鈴木良一(長谷川博己)。彼の奇妙な運命のスタート地点となるアパートの一室にはどんなこだわりをちりばめたのか。美術デザインの清水剛さんに訊いた。
細部へのこだわりがイメージを形づくる
古い木造アパートの2階の一室を借りて撮影された、鈴木良一の住まいは「THE貧乏」をイメージしたという1Kの狭い空間。壁にはレコードやポスターなどが所狭しと飾られている。
「貧乏とはいっても、『何もない貧乏』ではなく、『捨てられない貧乏』。僕の若い頃もそうでした。映画だからこそカメラがどこを切り取ってもいいように、物はかなり詰め込みました。観た方には『結構お金持ってるじゃない!』と言われるかもしれないです(笑)」
「貧乏とはいっても、『何もない貧乏』ではなく、『捨てられない貧乏』。僕の若い頃もそうでした。映画だからこそカメラがどこを切り取ってもいいように、物はかなり詰め込みました。観た方には『結構お金持ってるじゃない!』と言われるかもしれないです(笑)」
和室の中央に配置したコタツは、物語の鍵になる「人生ゲーム」をやるスペースでもある。販売元のタカラトミーに許可を得て、オリジナルの人生ゲームを制作。コタツの天板も、そのサイズに合わせて選んだというこだわり様。
「良一が飼っているカメが、ルートを通れるようにつくらないといけないので、実際にカメを置いて『この角度だと曲がれない』とか『この傾斜は登れないよ』とか、美術部の大人たちが頭を悩ませながらつくりました」
「良一が飼っているカメが、ルートを通れるようにつくらないといけないので、実際にカメを置いて『この角度だと曲がれない』とか『この傾斜は登れないよ』とか、美術部の大人たちが頭を悩ませながらつくりました」
カメとの出会いによって、良一の人生は驚くべき展開を迎える。やがてミュージシャンとしてスカウトされ、川沿いの豪華なマンションをあてがわれることになるのだ。
「ここもロケ撮影だったのですが、キッチンもダイニングスペースもある、とにかく横に長いワンルーム。空間があまりにも漠然としすぎてしまうため、ワンクッションおきたいと思って水槽を用意して、区切りをつけました」
「ここもロケ撮影だったのですが、キッチンもダイニングスペースもある、とにかく横に長いワンルーム。空間があまりにも漠然としすぎてしまうため、ワンクッションおきたいと思って水槽を用意して、区切りをつけました」
劇中に印象的に登場するのが、謎の老人(西田敏行)が暮らす地下の世界。「映像の色調として参考にしたのは、ティム・バートンの『バットマン リターンズ』(92)での、ペンギンが乳母車で流されるシーン」。言葉をもった、たくさんの人形や動物たちが集まる、可愛らしくも、不思議な異空間はすべてセット。大勢のパペットを一度に動かすため、床を地面から1m20cm上げ、背景の棚には穴をあけ、裏側に操作する人が入れるように工夫を凝らした。
「なにせ一斉に動かすので、かなりの人数が必要でした。長谷川博己さんら出番のない俳優陣も来ていて。助っ人で呼ばれていたのかな(笑)?」
「なにせ一斉に動かすので、かなりの人数が必要でした。長谷川博己さんら出番のない俳優陣も来ていて。助っ人で呼ばれていたのかな(笑)?」
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#95(2015年8月号 6月18日発売)『ラブ&ピース』の美術について、清水さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術デザイナー
清水 剛
shimizu takeshi
60年神奈川県生まれ。『電影少女』(91)で美術監督デビュー。『BRAVE HEARTS 海猿』(12)、『リアル 完全なる首長竜の日』(13)など話題作を数多く手がける。近作に、『共喰い』『ルームメイト』(ともに13)、『抱きしめたい 真実の物語』『ニシノユキヒコの恋と冒険』(ともに14)など。15年も『予告犯』、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(8/1公開)など次々と参加作品の公開が続く。
Movie
映画情報

ラブ&ピース
監督・脚本/園子温 出演/長谷川博己 麻生久美子 西田敏行 ほか 配給/アスミック・エース(15/日本/117min)
ロックミュージシャンを目指していたが挫折し、今ではうだつの上がらない毎日を過ごしているサラリーマンの鈴木良一(長谷川)。同僚の寺島裕子(麻生)に想いを寄せるも、話しかけることすら出来ない。そんなある日、ミドリガメと出会ったことで、ロックミュージシャンへの夢や裕子への恋を取り戻していく。6/27~TOHOシネマズ新宿ほか全国公開
©「ラブ&ピース」製作委員会
ラブ&ピース公式HP