1980年代後半を舞台に描かれるラブストーリー『イニシエーション・ラブ』。映像化不可能と言われた乾くるみの原作に挑むのは、『20世紀少年』『TRIC』の堤幸彦監督。原作と異なる衝撃のエンディングも見どころの本作で、過ぎ去った時代を再び現代に再生させたのは、美術監督の相馬直樹さん。“映像的ギミック”を用いた本作で、どのように当時の暮らしを作りあげたのだろうか?
思い出の中にあるいくつもの部屋を再現
舞台は1980年代後半の静岡。バブル最盛期の恋する男女の物語を描くのにもっとも苦労したのは、画に映るすべてをその時代のものにすることだった。同じ時期に青春を過ごしたという美術監督の相馬直樹さんは、自身の思い出を振り返りながら本作の美術プランを考えていった。
「今はもう古いものばかり。イメージを描いた後に、あまりにも手に入らないと困ってしまうので、装飾部のスタッフと相談しながら考えていきました。僕は結構無茶な要望もしたのですが、わがままをよく聞いてくれました」
「今はもう古いものばかり。イメージを描いた後に、あまりにも手に入らないと困ってしまうので、装飾部のスタッフと相談しながら考えていきました。僕は結構無茶な要望もしたのですが、わがままをよく聞いてくれました」
静岡にある設定の主人公・鈴木の部屋は、6畳ほどの和室がある1DKのアパート。室内は、地べたに布団が敷かれ、本棚には趣味の小説が並ぶ。黒電話、ブラウン管のテレビや扇風機、さらにVHSテープなど懐かしいものが揃う。
「なるべく分かりやすいアイテムを揃えていきました。恋愛経験のない彼は、マユと出会って変わっていくので、まずはいたって普通の男性の部屋にすることを心がけました」愛しのマユと離れ、東京へ転勤になった鈴木は社員寮に入ることに。上京してからというもの、段々あか抜けてオシャレな男性になっていく。
「なるべく分かりやすいアイテムを揃えていきました。恋愛経験のない彼は、マユと出会って変わっていくので、まずはいたって普通の男性の部屋にすることを心がけました」愛しのマユと離れ、東京へ転勤になった鈴木は社員寮に入ることに。上京してからというもの、段々あか抜けてオシャレな男性になっていく。
「そんな彼の変化に合わせて、引っ越してきたばかりの何もない状態から、段階をつけて部屋のセット替えをしていきました。照明を、当時流行ったフラミンゴのライトに途中で変えたりして。この部屋は、昔遊びにいったお金持ちの息子の部屋を思い出しながらつくりました(笑)」遠距離恋愛になってしまったものの、鈴木は週末になると甲斐甲斐しくマユの部屋へやってくる。
「ここは昔友達と遊びに行った女の子の部屋の記憶を辿りながら(照)。白いカーペットやガラス天板のローテーブル、低いソファーでカップルが並んで座れるような“ラブチェア”とか、流行も押さえて揃えました。鈴木がやってくるようになってからは、赤と青の色違いのものを少し足して。ペアルックが流行っていたので、そういうテイストも入れました」
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#94(2015年6月号 4月18日発売)『イニシエーションラブ』の美術について、相馬さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術監督
相馬直樹
souma naoki
64年北海道生まれ。アタッカンテ所属。映画、ドラマ、CM、MV、舞台など、さまざまな分野の美術監督として活躍中。近作に、『サンブンノイチ』『エイトレンジャー2』『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』『物置のピアノ』(すべて14)、公開待機作に、『脳内ポイズンベリー』(5/9公開)、『天空の蜂』(9/12公開)がある。
Movie
映画情報

イニシエーション・ラブ
監督/堤幸彦 原作:乾くるみ著『イニシエーション・ラブ』(原書房/文春文庫刊) 脚本/井上テテ 出演/松田翔太 前田敦子 木村文乃 ほか(15/日本/110min予定)
1980年代後半の静岡。就職活動中の大学生・鈴木は、友人に誘われた合コンでマユと運命的な出会いを果たす。恋愛経験のない彼は、彼女に釣り合うために自分磨きを始め、いよいよ人生初の“甘い時間”がやってくる。地元企業に就職した鈴木だったが、ある日東京への転勤を告げられ……。5/23〜全国東宝系にて公開
©2015 乾くるみ/「イニシエーション・ラブ」製作委員会
イニシエーション・ラブ公式HP