2004年に公開された『花とアリス』の主人公、アリスと花。このふたりの出会いと冒険の物語を綴った『花とアリス殺人事件』。前作に続き、監督を務める岩井俊二が、自身初の長編アニメーション、オリジナルのストーリーで描く。前作の雰囲気を残しつつ、新しい映像表現に挑戦したという美術監督の滝口比呂志さんは、アリスが引っ越してくる家や、街並をどのようにつくりあげたのだろうか?
細やかな描写と美しい色合いが光る美術
主人公、有栖川徹子・通称アリスと、荒井花・通称花。ふたりが暮らす街は、映画『花とアリス』(04)と同じく神奈川県某所の設定。実写だった前作とは違い、『花とアリス殺人事件』はアニメーションで描かれ、「ロトスコープ」という、実写で撮影した映像をトレースしてアニメーションにする手法と、CGアニメーションとを組み合わせてつくられた。美術監督の滝口比呂志さんが手がける美術も、岩井俊二監督が撮影した実写映像をベースにし、水彩画の優しいタッチをもって、細やかなディティールまで描いている。
「意識したのは、時代と季節感。前作は2004年の物語なので、このお話は2003年。テレビをブラウン管にしたり、学校の教室の壁に描かれたキャラクターも時代に合わせたりして。アリスと花の家の外観は、前作と同じ場所で撮影した実写の画をベースに描いたのですが、撮影が2月だったので、木も全部枯れちゃっていて(笑)。これは9~10月頃のお話なので、その画でアウトラインをとって、前作の家の映像も参考にしながら、季節感を足していきました。とくに、花が暮らす、花屋敷と呼ばれている家は、本当にガーデニングが好きな方の家に見えるように考えて描きました」。
アリスの家の室内など、前作から期間が経ってしまい同じ場所では実写撮影出来ず、やむなく違う場所で撮ったところもあったという。実写撮影の現場では照明も使われていないため、絵の中で表現されているライティングは、滝口さんが話の内容や、前後の流れを考えながら、時間帯や、日の入る方向も計算して描いていった。
「背景は、舞台、美術の上にキャラクターがのったとき、そのキャラクターが綺麗に見える絵をつくらなければいけない。岩井監督は、逆光で人物の輪郭が光に包み込まれて、キャラクターはちょっと陰気味になる、そういう感じの画がほしいとおっしゃっていました。そういう効果を出すために、色の濃淡や明暗にこだわりましたね」。
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#92(2015年4月号 2月18日発売)『花とアリス殺人事件』の美術について、滝口さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術監督
滝口比呂志
takiguchi hiroshi
73年千葉県生まれ。アニメーションの背景制作会社で美術として数多くの作品に携わる。新海誠監督作『星を追う子ども』(11)に美術背景として、『言の葉の庭』(13)では美術監督として参加。代表作に、神山健治監督作『009 RE:CYBORG』(12)などがある。
Movie
映画情報

花とアリス殺人事件
監督・原作・脚本・音楽/岩井俊二 声の出演/蒼井優 鈴木杏ほか 配給/ティ・ジョイ(15/日本)
アリスこと有栖川徹子が転校してきた石ノ森学園中学校3年2組には、1年前「ユダが、四人のユダに殺された」という噂が流れていた。引っ越した家の隣には、ユダに詳しいと言われる花こと荒井花が住むことを知り、家に潜入しようとする。2/20〜全国公開 ©花とアリス殺人事件製作委員会
花とアリス殺人事件公式HP