周防正行監督がおよそ20年も温めてきた、歌って踊るエンターテイメント大作『舞妓はレディ』。花街・下八軒を舞台に、舞妓を目指してお茶屋・万寿楽の門をたたいた女の子・春子の成長物語だ。広さ300平行メートルにもわたる敷地に建てられた花街の街並、細部にまでこだわったお茶屋、それらはすべてセットで建てられた。美術監督の磯田典宏さんはリアリティのある京風景をどのように表現したのか?
お茶屋「万寿楽」で夢を追う、舞妓見習いの部屋
お茶屋や料亭など、17軒のお店が並ぶ花街「下八軒」の街並は、埼玉県・川口市の「SKIPシティ」の広大な敷地にオープンセットで建てられた。その中に、主人公・春子(上白石萌音)が「舞妓になりたい!」とやってくる、老舗のお茶屋「万寿楽(ばんすらく)」はある。「監督やメインスタッフと実際にお茶屋さんを取材させていただき、装飾の松本良二さんともいろんな場所を見て、京都の雰囲気がどこまで出せるのか相談しながら膨らませていきました。最も苦労したのは建具で、京都は格子戸など建具の具材が細いのが特徴なので、既製品は一切使えない。全部いちから作らなければならなかったので、非常に大変でした。でも、そういった繊細な部分で、京都らしさが出てきますからね」
内部は東宝スタジオに一階二階に分けてセットで建てられ、京都の特徴を活かした縦に細長い間取りで作られた。「リアルさを出したかったので、実際の町家の奥行きを再現しました。一階の左半分は水回りに、右半分は居住スペースになっていて、坪庭は明かりとりになる。トイレのある廊下を渡ったところには奥座敷があり、映画では着物の着付けなどのシーンで登場します。本来の京都の建物だと、窓を開けるとすっと風が通る構造。上手く出来ているんですよね」
春子と下八軒唯一の舞妓・百春(田畑智子)の部屋は、母屋から廊下を渡った先の離れという設定。ところが実際には母屋の二階の座敷を飾り変えて撮影されたというから驚きだ。 「ふたりは住み込みという設定なので、廊下は板張りではなくパンチカーペットを敷いて、窓外を一階の形状にし、塀を建てています。内部は実際舞妓見習いの方の部屋を取材させていただくことが難しかったので、ドキュメンタリー番組を観たり、いろんな資料を探ったりして見えてきたイメージを形にしました」

一階は台所に茶の間、その奥の和室は先輩の芸妓さんたちのお茶飲み場に。玄関から二階の座敷へ上がる客用の導線では、階段脇の茶の間の扉が板の壁のように作られているので、まるで廊下を通っているように見える。また、玄関からそのまま台所へ抜ける入り口は、仕出しの料理などを入れるため。料理を二階へ持って上がるための階段も設置。
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#90(2014年10月号 8月18日発売)『舞妓はレディ』の美術について、磯田さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術監督
磯田典宏
isoda norihiro
52年長崎県生まれ。87年『オバケちゃん』で美術監督デビュー。大映東京撮影所を経てフリーに。『座頭市』『アウトレイジ』など、数々の北野武監督作品を初め、『NANA』『メゾン・ド・ヒミコ』『ソラニン』など、多くの映画美術を手がける。周防監督作品は『終の信託』に続き2作目。近作に『のぼうの城』、待機作に『想いのこし』(11/22公開予定)がある。
Movie
映画情報

舞妓はレディ
監督・脚本/周防正行 出演/上白石萌音 長谷川博己 富司純子 ほか 配給/東宝 (14/日本/135min)
舞妓がたったひとりしかいない、小さな花街下八軒に、「舞妓になりたい!」とやって来た春子(上白石)。へんてこな大学教授の計らいで、お茶屋の仕込みさんになった彼女は、京ことばに、しきたりに、稽古にと大奮闘する! 9/13~全国公開
©2014 フジテレビジョン 東宝 関西テレビ放送 電通 京都新聞 KBS京都 アルタミラピクチャーズ
舞妓はレディ公式HP