直木賞を受賞した中島京子の原作を、山田洋次監督が映画化を熱望。『小さいおうち』は昭和初期からの時代を背景に、赤い屋根の小さなおうちで起きたひそやかな“恋愛事件”を巡る物語だ。映画の舞台となる、懐かしさが漂うモダンな家からは、華やかで美しい時代が伝わってくる。『男はつらいよ』シリーズに始まり今作まで、多くの山田監督作に参加してきた美術監督の出川三男さんに、その制作過程を聞いた。
山田洋次監督と共有したイメージを形に
東宝スタジオの第9ステージに建てられた赤い屋根の小さいおうちは、丘の上にあるという設定。街並みのモデルになったのは大田区雪ヶ谷辺り。「山田(洋次)さんが若い頃、(東急池上線の)石川台駅近辺に住んでいたことがあるそうなんです。最初にみんなでロケハンしてみて、いい坂があると『家の向こうにはこんな景色が見えるんじゃないか』って話したりして、イメージを共有していきました」。
「昭和の初めの、東京郊外の小市民の暮らし」を丁寧に映す家の内装には、ステンドグラスがはめ込まれた窓や西洋の家具、食器など、昭和モダンを感じさせる品々が並ぶ。「蓄音機は山田さんの家の倉庫にあったものを修理して持って来ました。蓄音機のそばにある陶器の人形もそうで、マイセン(ヨーロッパで初めて硬質磁器を生みだしたドイツの名窯)のものです」。
「戦前の中流家庭の家の典型的なパターン」と語る間取りは、中島京子の原作に添ってつくられた。中でも特徴的なのは、黒木華演じる女中・タキの部屋。「当時のいろんな新興住宅の本を探していたら、女中部屋は実際あったんです。2畳と狭く、寝るだけの部屋ですがね」。実際のタキの生活を考えて、お客が来る玄関と作業の多い台所に通じる場所に配置。「普通は撮影をしやすいように広くつくりますが、そうはしなかった。戸襖にしたり、台所の入り口に床下収納をつけたりして、撮影場所を確保できるよう工夫しました。結果、狭い感じがでて当時の女中部屋の雰囲気らしくなったので、上手くいったかなと思っています」。
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#86『小さいおうち』の美術について、出川さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術監督
出川三男
degawa mitsuo
36年東京都生まれ。59年、松竹大船撮影所美術に入社。『男はつらいよ 葛飾立志篇』(75)から最終作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』(95)までのシリーズすべてを手がけた。96年、フリーになって以降も、『たそがれ清兵衛』(02)、『隠し剣 鬼の爪』(04)、『母べえ』(08)など山田洋次監督作品に数多く参加。近作に『おとうと』(10)、『東京家族』(13)がある。
Movie
映画情報

小さいおうち
監督/山田洋次 原作/中島京子「小さいおうち」(文春文庫刊) 出演/松たか子 黒木華 片岡孝太郎 吉岡秀隆 妻夫木聡 倍賞千恵子 配給/松竹(14/日本/136min)
昭和初期、東京郊外の平井家に奉公する事になった女中のタキ(黒木)は、憧れを抱いていた美しい女主人の時子(松)の、ある秘密を知ってしまう。そして、60年たった平成の今、タキに繋がる青年によって、封印した“恋愛事件”は紐解かれていくのだが……。14年1/25〜全国公開(C)2014「小さいおうち」製作委員会
小さいおうち公式HP