波木銅による第28回松本清張賞受賞作品『万事快調〈オール・グリーンズ〉』が実写映画化。閉塞感漂う地方都市を舞台にしながら、胸がすくような青春ムービーが誕生した。学校にも家にも居場所を見いだせず鬱屈とした日々を送る朴秀美(南沙良)。家庭に問題を抱える矢口美流紅(出口夏希)。漫画を拠り所にしている斜に構えた毒舌キャラの岩隈真子(吉田美月喜)。3人の女子高生は学校の屋上で、禁断の課外活動を始める……。未来が見えない町の空気を美術の松永桂子さんはどのように表現したのだろう。
映画体験のパッションを注ぎ込んだ作品
映画の舞台となるのは茨城県東海村。現地で多くのロケがおこなわれたが、シーンによっては関東近郊の別の場所での撮影となったそう。秀美の家の撮影には神奈川県川崎市の一軒家が使用された。
「決め手は実際に暮らしているような生活感でした。築30年ほどの家屋で、最初に揃えた家具をずっと使っている、という設定です。秀美の家庭は裕福でもないし、ベースには『実家のダサさが拭いきれない』という部分があります」


秀美はサブカルチャーに染まっていて、部屋にはSF小説やCDなどがあふれているが、「おしゃれな空間」にはならない。
「秀美はサブカルチャーに染まっていますが、その部屋も実家感からは逃れられないんです。実家っぽさがまずあって、そこに自分の気に入ったものを置いています」
著作権の関係から、本の表紙やCDジャケットに撮影用の架空デザインを施すケースは少なくないが、本作では本物が数多く使用されている。
「秀美はSF好きで、原作小説にもウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』やロバート・A・ハインラインの『夏への扉』をはじめ、早川書房の文庫本が数多く登場します。現実ではない設定ならファンタジーとして架空のデザインのものでよいのですが、いま私たちが生きている世の中と地続きの世界を描きたかったので、実在するものを並べました。その方が断然リアリティが出せるので。プロデューサーが著作権をクリアにしていってくれました」

雑然としているところにも秀美らしさが表れている。
「飲みかけのジュースが置きっぱなし、買い物で使ったビニール袋が散乱しているし、靴下は脱ぎっぱなし。秀美は両親に対して中指を立てるくらい、だらしのない父母を嫌っているんです。とくにリストラ中の父は競馬漬け、酒びたりですし。嫌っているけれど、その両親に彼女自身も似ているところがあるとほのめかしています」
一方、スクールカースト上位である美流紅の家には、美流紅らしさを反映した部分がない。
「設定としては、原発の事故(1999年に東海村JCO臨界事故が発生)を機に父親が自死したことから、母親(安藤裕子)の精神が不安定になってしまった。そんな母のために美流紅は『母が臨む美流紅像』を演じ続けている……。なので家も、全面的に美流紅の母親のキャラクター色に染まっています」

その佇まいは異様な空気に満ちている。
「母は『汚染されてしまった。清めたい』という気持ちに取り憑かれているので、岩塩やお清めの水、再生水など、スピリチュアルなものにすがっています。それに、何を揃えているか把握できていないから、同じ調味料を何個も買ってしまう。『ちょっと怖い』と思えるくらいに飾り付けています。ぬいぐるみが詰め込まれた食器棚も同様ですが、あれは装飾の羽場しおりさんのセンスです。事前に『こういう方向でお願いします。あとは思うように飾ってください』とお伝えしたら、過剰なほど飾ってくれました(笑)」

触れないわけにいかないのが、秀美たちがあるものを栽培し始める学校の屋上だ。
「葉はフェイクグリーンです。どう手配したものか調べた末に、イギリスに撮影用の造葉(ぞうは)をつくっている専門の会社があって、そこから直接取り寄せたり、国内の輸入業者からも買うことにしました。『ケナフという植物が似ている』ということでそれをかき集めたりもしています。ビニールハウスいっぱいに飾りたかったのですが、それでも足りない。そこで『カモフラージュ的に別の植物も育てている』という設定を加えて、ほかの植物も入れています。ビニールハウスの中が『オール・グリーンズ』になるようがんばりました」

シーンごとの変化にも思いが込められている。
「一番最初に登場する、放置されてボロボロなビニールハウスの状態も個人的には気に入っています。物語で言うと、地域社会や家庭の暗さを象徴するかのような、ディストピア感あふれる佇まい。その空間で3人が栽培を始めたり、ソファを持ち込んだりすることで、希望やユートピア感が芽生えてくる。そういう過程を印象付けるために、思いっ切り汚しを入れました(笑)」

松永さんは、脚本を読んですぐイメージを固めていくことはしない。
「ロケハンや衣装合わせ、演じるご本人に会ったりと、そういうなかでキャラクターや場所のバックグラウンドがつかめてきて、イメージが膨らんでいきます。わかりやすい例で言うと、佐藤(金子大地)の自宅です。スタイリストのよしだえりかさんが用意した柄シャツにインスピレーションをもらって、それをカーテンに落とし込みました。繊維問屋の街・日暮里で『これが佐藤だ』という生地を探し歩いたんです(笑)」

現場を振り返って、松永さんは語る。
「最初のロケハンをした後、監督とベテランの装飾の龍田哲児さん、私の3人で食事をしたときの会話が印象に残っています。学生時代、多感なときに観た映画の高揚感はみんな覚えているじゃないですか。アドレナリンが出るような映画体験を思い出したんです。あのときに抱いた憧れ、『こういう面白い映画をつくりたい』と感じたパッションを、映画に注ぎ込もうという話をしました。現場が一丸となり、そんな気持ちを込めて取り組む作品になりました」



映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#158(2月号2025年12月11日発売)『万事快調〈オール・グリーンズ〉』の美術について、美術・松永さんのインタビューを掲載。
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