『南の島のフリムン』『洗骨』と映画監督としても活躍する、お笑いコンビ「ガレッジセール」のゴリこと照屋年之監督の最新作は『かなさんどー』。父・悟(浅野忠信)の病気をきっかけに沖縄へと帰ってきた美花(松田るか)が両親の夫婦愛に触れる感動作だ。美術の吉嶺直樹さんは、沖縄の文化を大切にしながら美花の家をつくりあげた。
つくり込めばつくり込むほど、演者は反応してくれる
本作の舞台は、沖縄県伊江島。本島からフェリーで30分ほどのところにある離島だ。しかし撮影の都合で多くの場面は本島で撮影された。主人公・美花が、かつて父、母・町子(堀内敬子)と暮らしていた家も例外ではない。
「ロケ場所となったのは、普段は民泊で貸し出している平屋のお家です。プロデューサーが探してきてくれました。家の裏手が山で、逆サイドは海。伊江島の中央には、劇中にも登場するタッチューという山がそびえているのですが、タッチューを背にして建つ家、という感じにも見える。3人暮らしという家の規模感や、入り口の形、駐車スペースなど、必要な要素もまとまっていたので、全員一致でここにしようとなりました」
観光パンフレットに載っているような赤瓦の木造平屋建ての家屋は近年、減っているという。

「僕らが小さい頃はいわゆるセメント瓦、赤瓦が多かったのですが、いまはコンクリート建築で2階建て。土台は真四角で、屋根は平ら、というのが主流です。木造建築だとシロアリの被害がすごいので、そうなったんだと思います」
美術の方向性は「地のものを生かすこと」。
「違和感のない『らしさ』を心がけました。小さい頃に慣れ親しんだ、おばあちゃんや親戚の家の空気感を出そうと考えました。実際の家の中って、意外と雑多なんです。だから、すっきりさせすぎないように気をつけました。少しやりすぎなぐらいごちゃっとしてないと、見た目がさみしくなってしまうので」
「らしさ」のなかでも重要だったのが「沖縄らしさ」。多くの家庭にまつられている火の神様、ヒヌカンなど、文化や風習がさりげなく散りばめられている。
「沖縄の人は出産祝いで命名札をもらうと、それを捨てないでずっととっておく。処分しないから、どこの家庭でもいっぱいたまっているんです。セットにもさりげなく飾っています」
ディテールには吉嶺さんのユーモアが。
「画面には映っていませんが、命名札にはスタッフの名前が書いてあります。あとはガレッジセールのアルバムCDを忍ばせていたり(笑)。伝統的なものを配しつつ、そういう遊びも入れました」
テレビでは芸人としての顔を見せるゴリこと照屋監督。演者だからこその気遣いがあったそう。
「『必要最小限のスタッフ以外、本番では役者さんから少し離れたところにいて欲しい』とおっしゃっていました。『自分が演じているときにこういう雰囲気だと嫌だなと感じる状況はつくらないようにする』と。役者さんの感情に寄り添うために、すぐそばで演出することも多かったですね。現場がピリピリしそうなときも、そうならないよう和やかな空気をつくられていました」



普段はCMの仕事が多い吉嶺さん。映画の仕事はやり方がまた違ったと言う。
「CMと違い準備にある程度時間をいただけるので、僕ひとりで考えることはまずなくて、チームをつくって、ああだこうだとキャラクターについて話をして、内輪で盛り上がる空気の中でつくっていきます。『こんなこともあるんじゃない?』というふうに、後出しでアイデアがどんどん出てくるので、膨らんで、見た目も厚くなっていく。すると置かれた物のひとつひとつに意味が込められていくので、『空間が寂しいから賑やかしのアイテムを置く』などの感覚は通用しない。』つくり込めばつくり込むほど、演者が反応してくれるのでやりがいがありました」

撮影期間は短く、現場は大変だったという。
「『15年後』という設定を数時間の作業で変えなければいけなかったので、セットチェンジをするのが大変でした。でも、ゴリさんはテイストや細かい設定については、ほぼお任せにしてくれました。美術部全員、台本に沿ってつくっていったのですが、やりたい放題やらせていただいたこともあって楽しかったですね(笑)」



映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#152(2月号2024年12月17日発売)『かなさんどー』の美術について、美術・吉嶺さんのインタビューを掲載。
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