Room158

かなさんどー

2025.01.27

山と海に挟まれた

自然豊かな沖縄に建つ平屋の住まい

美術吉嶺直樹

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『南の島のフリムン』『洗骨』と映画監督としても活躍する、お笑いコンビ「ガレッジセール」のゴリこと照屋年之監督の最新作は『かなさんどー』。父・悟(浅野忠信)の病気をきっかけに沖縄へと帰ってきた美花(松田るか)が両親の夫婦愛に触れる感動作だ。美術の吉嶺直樹さんは、沖縄の文化を大切にしながら美花の家をつくりあげた。

つくり込めばつくり込むほど、演者は反応してくれる

本作の舞台は、沖縄県伊江島。本島からフェリーで30分ほどのところにある離島だ。しかし撮影の都合で多くの場面は本島で撮影された。主人公・美花が、かつて父、母・町子(堀内敬子)と暮らしていた家も例外ではない。
「ロケ場所となったのは、普段は民泊で貸し出している平屋のお家です。プロデューサーが探してきてくれました。家の裏手が山で、逆サイドは海。伊江島の中央には、劇中にも登場するタッチューという山がそびえているのですが、タッチューを背にして建つ家、という感じにも見える。3人暮らしという家の規模感や、入り口の形、駐車スペースなど、必要な要素もまとまっていたので、全員一致でここにしようとなりました」
観光パンフレットに載っているような赤瓦の木造平屋建ての家屋は近年、減っているという。

海が見える物干し場。「ゴリさんは、洗濯物を干す町子の背景に海を感じさせたいとおっしゃっていました。茂っていた木々は、お隣の方の許可を得て剪定して低くしました」
海が見える物干し場。「ゴリさんは、洗濯物を干す町子の背景に海を感じさせたいとおっしゃっていました。茂っていた木々は、お隣の方の許可を得て剪定して低くしました」

「僕らが小さい頃はいわゆるセメント瓦、赤瓦が多かったのですが、いまはコンクリート建築で2階建て。土台は真四角で、屋根は平ら、というのが主流です。木造建築だとシロアリの被害がすごいので、そうなったんだと思います」
美術の方向性は「地のものを生かすこと」。
「違和感のない『らしさ』を心がけました。小さい頃に慣れ親しんだ、おばあちゃんや親戚の家の空気感を出そうと考えました。実際の家の中って、意外と雑多なんです。だから、すっきりさせすぎないように気をつけました。少しやりすぎなぐらいごちゃっとしてないと、見た目がさみしくなってしまうので」
「らしさ」のなかでも重要だったのが「沖縄らしさ」。多くの家庭にまつられている火の神様、ヒヌカンなど、文化や風習がさりげなく散りばめられている。

「沖縄の人は出産祝いで命名札をもらうと、それを捨てないでずっととっておく。処分しないから、どこの家庭でもいっぱいたまっているんです。セットにもさりげなく飾っています」
ディテールには吉嶺さんのユーモアが。
「画面には映っていませんが、命名札にはスタッフの名前が書いてあります。あとはガレッジセールのアルバムCDを忍ばせていたり(笑)。伝統的なものを配しつつ、そういう遊びも入れました」

美花が高校生のとき表彰されたマラソン大会の賞状。体育連盟会長の名前がゴリさんの本名「照屋年之」になっているのは遊び心。「撮影後の打ち上げで、松田さんから『セットの賞状を発見して、足が早い設定になっている! 実際に走るシーンがあったので、慌ててYouTubeを見てフォームを研究した』というお話もありました」
美花が高校生のとき表彰されたマラソン大会の賞状。体育連盟会長の名前がゴリさんの本名「照屋年之」になっているのは遊び心。「撮影後の打ち上げで、松田さんから『セットの賞状を発見して、足が早い設定になっている! 実際に走るシーンがあったので、慌ててYouTubeを見てフォームを研究した』というお話もありました」

テレビでは芸人としての顔を見せるゴリこと照屋監督。演者だからこその気遣いがあったそう。
「『必要最小限のスタッフ以外、本番では役者さんから少し離れたところにいて欲しい』とおっしゃっていました。『自分が演じているときにこういう雰囲気だと嫌だなと感じる状況はつくらないようにする』と。役者さんの感情に寄り添うために、すぐそばで演出することも多かったですね。現場がピリピリしそうなときも、そうならないよう和やかな空気をつくられていました」

テーブルに並ぶのは、新鮮なお刺身やもずくの天ぷらといった沖縄料理。「フードスタイリストの中村真琴さんが用意したものです」
テーブルに並ぶのは、新鮮なお刺身やもずくの天ぷらといった沖縄料理。「フードスタイリストの中村真琴さんが用意したものです」
悟と町子が使っていた寝室。「お母さんはきれい好きで、毎日きちんとお化粧する方なのですが、寝室に関しては見えないのをいいことにものが積まれているんです(笑)」
悟と町子が使っていた寝室。「お母さんはきれい好きで、毎日きちんとお化粧する方なのですが、寝室に関しては見えないのをいいことにものが積まれているんです(笑)」

普段はCMの仕事が多い吉嶺さん。映画の仕事はやり方がまた違ったと言う。
「CMと違い準備にある程度時間をいただけるので、僕ひとりで考えることはまずなくて、チームをつくって、ああだこうだとキャラクターについて話をして、内輪で盛り上がる空気の中でつくっていきます。『こんなこともあるんじゃない?』というふうに、後出しでアイデアがどんどん出てくるので、膨らんで、見た目も厚くなっていく。すると置かれた物のひとつひとつに意味が込められていくので、『空間が寂しいから賑やかしのアイテムを置く』などの感覚は通用しない。』つくり込めばつくり込むほど、演者が反応してくれるのでやりがいがありました」

テッポウ百合の畑のシーンは、伊江島ゆり祭りを手がけている造園業者、新緑園の協力で実現した。
テッポウ百合の畑のシーンは、伊江島ゆり祭りを手がけている造園業者、新緑園の協力で実現した。

撮影期間は短く、現場は大変だったという。
「『15年後』という設定を数時間の作業で変えなければいけなかったので、セットチェンジをするのが大変でした。でも、ゴリさんはテイストや細かい設定については、ほぼお任せにしてくれました。美術部全員、台本に沿ってつくっていったのですが、やりたい放題やらせていただいたこともあって楽しかったですね(笑)」

美花が生まれる前、悟の父によって建てられた3DKの一軒家。大きなバルコニーは母娘の憩いの場。
美花が生まれる前、悟の父によって建てられた3DKの一軒家。大きなバルコニーは母娘の憩いの場。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#152(2月号2024年12月17日発売)『かなさんどー』の美術について、美術・吉嶺さんのインタビューを掲載。

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Profile

プロフィール

美術

吉嶺直樹

yoshimine naoki

71年沖縄県生まれ。近年手がけた作品にCM『キリン一番搾り生ビール』、日本ケンタッキー・フライド・チキン、ほけんの窓口『魔女のCM広報室』シリーズ、サンヨー食品『サッポロ一番ずっと好きだったんだぜ。仲間由紀恵さん、山田裕貴さん 塩らーめん篇』などがある。

Movie

映画情報

かなさんどー
監督/照屋年之 出演/松田るか 堀内敬子 浅野忠信 ほか 配給/パルコ (24/日本/86min) 妻・町子を失った父・悟は、認知症を患っていた。娘の美花は、母が亡くなる間際に助けを求めてかけた電話を取らなかった父親を許せずにいる。悟の命が危ないと知らせを受けた美花は、故郷の沖縄県伊江島へ帰ることになるが……。1/31~沖縄先行公開、2/21~全国公開 ©「かなさんどー」製作委員会
かなさんどー公式HP