Room157

サンセット・サンライズ

2024.12.23

南三陸の海が見渡せる

オーシャンビューの家具付き4LDK

美術×装飾露木恵美子×福岡淳太郎

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監督・岸善幸、脚本・宮藤官九郎、主演・菅田将暉。日本映画界のトップランナーたちによる最新作が『サンセット・サンライズ』だ。東京から宮城県南三陸にお試し移住したサラリーマン・晋作(菅田)の姿を描くヒューマン・コメディ。主要な舞台となる晋作の新たな住まいをつくりあげたのは、美術の露木恵美子さんと、装飾の福岡淳太郎さんだ。

映画は生ものだから、そこが面白い

コロナ禍で、サラリーマンの西尾晋作は東京から宮城県南三陸にお試し移住をしにやってくる。晋作が住み始めるのは、4LDKで家賃6万円という破格の神物件。ロケ場所も実際に宮城県南三陸で探すことになったが、撮影に適した家はなかなか見つからなかった。
「最初に候補に挙がっていたのは若い方が建てられたお宅で、お芝居をするには少し狭かったんです。撮影のためにある程度の広さが必要であることは監督との共通認識でした。それに、海を見下ろせて、太陽が昇るところを撮れることも重要でした」(露木)
「ロケ地となった家は、高台という立地で、海との距離が理想的だったことも決め手となりました」(福岡)
そこはかつて年配ご夫婦が暮らしていた物件。劇中では、百香(井上真央)が自分で住むために建てたという設定だ。

「『若さが欲しい』という監督のリクエストからすると、全体的に内装の色味がちょっと落ち着き過ぎていました。そこでシステムキッチンの扉に明るい壁紙を貼ったりして色味を加えたんです。ハキハキしている百香のキャラクターをふまえるとブルー系が合うと思いました。その後、監督と撮影の今村圭佑さんと相談して、システムキッチンの色はアンバー系の色に、都会的になり過ぎたところは、テーブルの天板をグレーっぽくすることでトーンを戻す、などと微調整をしました」(露木)
もともと掛けられていたミラーカーテンは、福岡さんが手配したものに差し替えられた。
「海を強く意識していたわけではないですけど、若さが感じられるよう、ストライプで青の差し色が入っているものを用意しました」(福岡)

2階の寝室。「物はほとんどなくて、布団だけが敷いてある。その周りに東京から持ってきたものが置かれています。あえて床に布団を直に敷いて、ちゃんとしてない感じを演出しています」(露木)

「青と白っぽいベースに、アンバー系が少し入っている。はっきりしたストライプではないデザインも良かった。男性が住むことになる部屋ではあるけど、百香のキャラクターも表していて、コンセプトにもぴったりでした」(露木)
このカーテンは、日差しの向きや強さによって表情を変える。
「サンライズの時間帯は直射で赤く見える。でも生地自体は薄いので、昼間は海がはっきり見えて、青く映ります」(福岡)
「時間によって『全然違うカーテンなのか』と感じるぐらい。今村さんや撮影部、照明部とも、『これだったらいいね』と納得いただきました」(露木)

タイトルバックが撮影された2階。「早朝に撮りました。撮れた画は、すごくかっこよくて素敵」(露木)

晋作は三陸の海産物を肴に東京の会社の同僚たちとリモート飲みを楽しむ。
「もともとあったという設定の座卓は一人暮らしにしては大きすぎるのですが、このアンバランス加減は意図したものです。劇中に出てくるお料理がずらりと並ぶようにしたかった。置く場所が狭いとぎゅうぎゅうになって、あまり見栄えがしないですから。これは個人的な感覚ですけど、テーブルが大きいと『俺の城』感が出ますし(笑)」(福岡)
「『いつもこの空間にいる』という感じも醸せました。画も面白いのが撮れてますよね」(露木)
監督がこだわったのが、キッチンに置かれた、天板の幅が変えられるバタフライテーブル。
「晋作と百香が対面で作業をして親密になり、心を許し合っていく重要な場面があります。この空間にフィットして、芝居もしやすいサイズ感のものを探してほしいというオーダーがありました」(露木)
「もともとのシステムキッチンの色に合う、暗めの色味のテーブルも有力候補だったのですが、それだと若い人は買わなさそうな気がして、これぐらい明るめの色がいいなと」(福岡)
「かつて実際には年配の方々が暮らしていた家も、そういう選択を経て少しずつ若返っていきました」(露木)

晋作がリモート飲みに使う座卓。三陸であがった新鮮な魚介類が並ぶ。

部屋にはいくつもの丸椅子がある。晋作はこれを物を置く台として使っている。
「この家はオーシャンビューで居心地がいいし、『床生活』がふさわしい気がしました。なので画としても、高い位置から撮るより、ローポジションからのほうが空気感を伝えられるんじゃないかなと。そのとき、丸椅子が重ねて置いてあるだけではもったいない。座ることもあれば、封を開けた郵便物など、物を置く台として使ったりしているという設定です」(福岡)
「晋作は意外とこの家に長くいるんですよ(笑)。でも大胆に家具を足せるわけではないから、もとからあったものを使うようになっていく。丸椅子も最初は重ねて置いていたけど、だんだんとこっちに置いたり、あっちに置いたり。物語が進むにつれて、馴染み感『俺の城』感が増していきます」(露木)
晋作はあくまでお試し移住であるうえに、そもそもインテリアへのこだわりがあまりない。
「近隣に住む茂子(白川和子)から漬物をもらうなど、ここでは物々交換がおこなわれています。扇風機も地元の人からもらったという設定です」(福岡)

外には干物をつくるための網や長靴など、釣り関係のものが干してある。
住み始めた頃の、晋作の趣味の釣り道具。生活が長くなるにつれてどんどん増えていく。「演出部に釣り好きの人がいて、色々教えてもらいました」(露木)
菅田さんが描いたタコの絵。「菅田さんは絵がすごく上手で、かつ描くのがとても早い。気になるから、と撮休の日に描き直すこともありました」(露木)

「生活に必要なものはホームセンターやリサイクルショップで購入していて、お金をかけすぎないというか、一般的に買いやすいもので揃えています。棚に至っては、塀に使うブロック材と木の板だけでつくられています」(露木)
「晋作はDIYをやったり、リフォームを手伝ったりするバイタリティがある。そういう人が住んでいる部屋はどう変化するんだろうと想像して、飾り付けていきました。菅田さんのお芝居を現場で見て影響されたところも多々あります」(福岡)
「やはり映画は生ものですから、そこが面白いですよね」(露木)

百香と章男(中村雅俊)が暮らす家。「気仙沼のお宅は玄関入って左右に部屋が広がる、みたいなつくりが多い。そういう意味でもここは地元色が強いです」(露木)

生ものの面白さは、岸監督の撮影術によって引き出された部分が少なくない。
「現場に関していうと、岸監督は芝居にしか興味がない。一方で、設定をとても大事にしています。町の人口や名物、テレワークのやり方などを事前に細かく取材したうえで、人物背景、町の設定をしっかり定めてから現場に臨まれる」(福岡)
「キャラクター一人一人にも細かい設定があります。岸さんにとってはそれが重要で、被災地の人々と対話で得た情報をもとに、地震の前後でどう変わったとか、人間関係などをすべて記したものを用意して、キャストとスタッフに配るんです」(露木)
そんな緻密なつくり方が、面白おかしくも、生き方、幸せについて考えさせられる映画の誕生を導いた。

南三陸の宇田濱に建つ4LDK、オーシャンビューの一軒家。東北大震災が起こる少し前に竣工した。ファニッシュドアパートメント(家具付き)で、家賃6万という破格の物件。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#152(2月号2024年12月17日発売)『サンセット・サンライズ』の美術について、美術・露木さん×装飾・福岡さんのインタビューを掲載。

Profile

プロフィール

美術×装飾

露木恵美子×福岡淳太郎

tsuyuki emiko×fukuoka juntaro

露木恵美子 (美術・左) 71年神奈川県生まれ。『洗濯機は俺にまかせろ』(99)に映画スタッフとして参加。美術を手がけたおもな作品に『菊とギロチン』(18)、『ばるぼら』『罪の声』(ともに20)、近作に『とんび』『ラーゲリより愛を込めて』(22)、『ゴールデンカムイ』(24)などがある。/ 福岡淳太郎 (装飾・右) 89年神奈川県生まれ。『アントキノイノチ』で美術スタッフとして参加。美術を手がけた主な作品に『決戦は日曜日』『ポプラン』(ともに22)、装飾を手がけた作品に『マイスモールランド』などがある。

Movie

映画情報

サンセット・サンライズ
監督/岸善幸 原作/楡周平 脚本/宮藤官九郎 出演/菅田将暉 ほか 配給/ワーナー・ブラザース映画 (24/日本/139min) 新型コロナウイルスのパンデミックで世界中がロックダウンに追い込まれた2020年。東京の大企業に勤める晋作は、何より大好きな釣りが楽しめる南三陸の宇田濱町で気楽な"お試し移住"をスタートさせる……。1/17~全国公開 ©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
サンセット・サンライズ公式HP

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