現在も、日本の実写映画における興行収入ランキング1位という記録を保持する『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(03)。テレビドラマから始まった、のべ27年にわたるメガヒットシリーズの最新作が『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』の2部作だ。美術を手がけた相馬直樹さんは、主人公・室井慎次(柳葉敏郎)のキャラクターを象徴する古民家をどうつくりあげたのか。
ロケハンで巡った数多くの古民家がセットづくりの参考に
警察庁を退任した室井慎次。彼が第二の人生のスタートに選んだ地は、故郷である秋田県。室井はここで被害者家族の子ども・タカ(齋藤潤)と、加害者家族の子ども・リク(前山くうが、前山こうが)と一緒に暮らしている。その住まいの内観はセットで撮影された。
「空き家を買い取って住んでいるという設定です。ボロボロだった水まわりは全部取っ払って新しくするなど、室井は手を入れていますが、なにもかもきれいにするのではなくて、昔ながらのよさも活かしつつ、自分の味も出しつつ……というニュアンスでセットをつくっていきました」
『室井慎次 敗れざる者』では、室井が家を修復しようと奮闘するシーンも描かれている。手を入れる箇所や修復方法は、相馬さんの提案に添って撮影された。
「『はげている土壁を塗ってみるのはどうですか?』とか、『へこんでいる土間の上がりを直すのは?』『キッチンの壁にタイルを貼ってみては?』など、美術的にはこういうことができますよという提案をしました」
住まいの内観はセットがつくられた一方、外観はロケで撮影された。
「雪深い風景を撮影できるということで最終的にロケ地は新潟になったのですが、その物件に行き着くまでには秋田と新潟でかなりの数の古民家を探しました。伺うたびに内部も見せていただいたので、それがセットづくりの参考になりました」
外観と内観のつながりには細心の注意が払われている。
「外観の撮影用にお借りした建物には、セットとの整合性をとるために玄関部分を加えることになったんです。雪が積もる想定だったので、雪の重さに耐えられるよう、頑丈なつくりで建てました。また、元からあった建物と同化させないといけないので、汚しをかけています」
ロケ地には新たに物置も建てられた。畑仕事やDIYのための器具を収納するスペースだ。
「農機具類はある程度、古民家にもともと置いてあったという設定です。室井はそれらを利用しつつ、足りない器具はインターネット通販で手に入れて、野菜の栽培やDIYをやり始めたんです。ちなみにシリーズでおなじみのカエル急便は今回も登場しています」
シリーズを手がけてきた亀山千広プロデューサーのリクエストも盛り込まれた。
「亀山さんがクリント・イーストウッド監督の『グラン・トリノ』(08)っぽい感じがいいとおっしゃったので、アメリカのガレージっぽい雰囲気も意識しました。工具は男の夢ですから(笑)、室井もいいものを揃えています。木のオブジェやバルコニー、物置は、室井が工具を駆使して自分でつくったんです」
室井の分身ともいえる物置は、『室井慎次 敗れざる者』で衝撃的な展開に巻き込まれる。
「そのシーンのために苦心した部分は少なくありません。家と物置が離れていれば、合成でもできたんです。でも本広監督は『物置は室井の一部だから家にもっと近づけたい』とおっしゃるので、図面を何度も描き変えて、『これが限界』という至近距離に建てることになりました。家の隣の土手一帯をユンボで掘って土地を平らにならして……と、実は手がかかっています。ただそのおかげで、観客が室井の心情に思いを寄せざるを得ないシーンが撮影できたと思います」
美術はキャラクターの一部を担う存在といっても過言ではない。
「セットに入った柳葉さんが自然に演じられるような空間にしようと心がけました。実際、撮影前にセットへ足を踏み入れた柳葉さんが『こんな素晴らしいセットをありがとう。これだったら演技に入っていける』と美術部に言ってくださったのには僕もびっくりしました。美術をやっていてよかったです(笑)」

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#151(12月号2024年10月18日発売)『室井慎次 生き続ける者』の美術について、美術・相馬さんのインタビューを掲載。
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