作家・佐藤愛子が2016年に発表したエッセイ『九十歳。何がめでたい』。断筆し、鬱々と暮らす作家、佐藤愛子(草笛光子)と、プライベートも仕事もうまくいかない編集者の吉川真也(唐沢寿明)が出会ったことで、人生が輝き出す様子を描いたエンターテインメントだ。愛子の住まいは、リサーチを徹底した安藤真人さんによって映画ならではの空間につくりあげられた。
調度品ひとつをとっても個性的
劇中に登場する作家・佐藤愛子は、原作者である佐藤愛子さんご本人がモデル。前田監督と安藤さんは、主な舞台となる佐藤邸をつくるにあたって、実際の佐藤先生のお宅へ見学に向かった。
「上質なお住まいという印象を受けました。生活感もあって、ものすごく整理されているわけでないけれど、全体的に品がいいんです。なぜかとても居心地が良い空間だと感じました」
「上質なお住まいという印象を受けました。生活感もあって、ものすごく整理されているわけでないけれど、全体的に品がいいんです。なぜかとても居心地が良い空間だと感じました」
その取材を参考にしてセットはつくられた。
「劇中、玄関、応接間、居間、書斎が登場します。リクライニングの椅子、その手前にちょっとしたテーブルが置かれていて、その向こうにテレビ、というスペースは、位置関係もまさに先生が過ごしている空間そのままです。先生の定位置とも言える空間なので、ぜひ取り入れたく思ったんです。まったく一緒とまではいいませんが、この椅子もほぼ同じものを探してきました」
「劇中、玄関、応接間、居間、書斎が登場します。リクライニングの椅子、その手前にちょっとしたテーブルが置かれていて、その向こうにテレビ、というスペースは、位置関係もまさに先生が過ごしている空間そのままです。先生の定位置とも言える空間なので、ぜひ取り入れたく思ったんです。まったく一緒とまではいいませんが、この椅子もほぼ同じものを探してきました」
前田監督からは「玄関から全体を見渡せるような抜けのいい空間にしたい」「広めの玄関にしたい」、そしてなにより「先生のご自宅に雰囲気を寄せたい」という要望があった。
「調度品や壁の質感、壁の色合い、木地の色合いはご自宅に寄せています。飾られていた絵画も、表現が難しいですが、『年配の方の家』という設定で選ばれがちな『当たり障りないもの』ではありません。創作をされる方だからか、絵画や版画、調度品のどれも、個性的なものが置かれていたので、そのテイストも踏襲(とうしゅう)しました」
「調度品や壁の質感、壁の色合い、木地の色合いはご自宅に寄せています。飾られていた絵画も、表現が難しいですが、『年配の方の家』という設定で選ばれがちな『当たり障りないもの』ではありません。創作をされる方だからか、絵画や版画、調度品のどれも、個性的なものが置かれていたので、そのテイストも踏襲(とうしゅう)しました」
目を引くのはゴージャスな固定電話。映画的なスパイスとして採用したのかと思いきや、これもお宅にあったものに寄せたそう。
「目にしたとき、『これは面白い』というインパクトがありました。脚本を読んで、電話は重要なアイテムだと意識していたのですが、そのときは主張の強い、こういうデザインのイメージは浮かびませんでした。取材をしていなければ発想し得なかったでしょうね」映画では、1階に先生が、2階に先生の娘、杉山響子(真矢ミキ)とその娘・杉山桃子(藤間爽子)が暮らしているという設定。玄関から入ってすぐ正面には階段が見える。
「階段の横を縦格子にしたのは、壁にしてしまうとべたっとしてしまい、抜け感がなくなるからです。結果的に、監督からの『全体を見渡せるような空間にしたい』という要望にも応えることができました」
「目にしたとき、『これは面白い』というインパクトがありました。脚本を読んで、電話は重要なアイテムだと意識していたのですが、そのときは主張の強い、こういうデザインのイメージは浮かびませんでした。取材をしていなければ発想し得なかったでしょうね」映画では、1階に先生が、2階に先生の娘、杉山響子(真矢ミキ)とその娘・杉山桃子(藤間爽子)が暮らしているという設定。玄関から入ってすぐ正面には階段が見える。
「階段の横を縦格子にしたのは、壁にしてしまうとべたっとしてしまい、抜け感がなくなるからです。結果的に、監督からの『全体を見渡せるような空間にしたい』という要望にも応えることができました」
縦格子は先生のお宅でも多用されている意匠。
「下駄箱や備え付けの棚に縦格子が使われていて、そこからイメージを膨らませました」ご自宅の雰囲気を踏襲する一方で、映画ならではのつくり込みも凝らされている。
「各部屋の配置、位置関係は実際のお宅とはまったく違います。現実的な住まいだと、部屋はもっと細かく区切られているけれど、監督のイメージに寄せるために、壁や柱は少なくしています。ただしセットっぽく見えないよう、気をつけて配置しました。壁の塗装についてもリアリティを醸せるよう丁寧に表現しています」
「下駄箱や備え付けの棚に縦格子が使われていて、そこからイメージを膨らませました」ご自宅の雰囲気を踏襲する一方で、映画ならではのつくり込みも凝らされている。
「各部屋の配置、位置関係は実際のお宅とはまったく違います。現実的な住まいだと、部屋はもっと細かく区切られているけれど、監督のイメージに寄せるために、壁や柱は少なくしています。ただしセットっぽく見えないよう、気をつけて配置しました。壁の塗装についてもリアリティを醸せるよう丁寧に表現しています」
美術に対する前田監督のこだわりは、相当強かった模様。
「前田監督は細部にまでこだわる方でした。納得していないまま撮られるのはこちらとしても不本意なので、はっきりと要望を言ってもらえてよかったです。とはいえ、セットに関する提案は、大きな枠組みで納得していただけたので、想像していたよりもスムーズに作業できました」その成果か、間取りの構成がまったく違うにもかかわらず、実際の先生の部屋と雰囲気が似ている空間が完成した。スタッフの聞き伝えによると、撮影見学で現場を訪れた先生のご親族からも同様の感想が漏れたそうだ。
「前田監督は細部にまでこだわる方でした。納得していないまま撮られるのはこちらとしても不本意なので、はっきりと要望を言ってもらえてよかったです。とはいえ、セットに関する提案は、大きな枠組みで納得していただけたので、想像していたよりもスムーズに作業できました」その成果か、間取りの構成がまったく違うにもかかわらず、実際の先生の部屋と雰囲気が似ている空間が完成した。スタッフの聞き伝えによると、撮影見学で現場を訪れた先生のご親族からも同様の感想が漏れたそうだ。
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#149(8月号2024年6月18日発売)『九十歳。何がめでたい』の美術について、美術・安藤さんのインタビューを掲載。
横浜市の物件を探す
Profile
プロフィール

美術
安藤真人
ando masato
79年愛知県生まれ。サンク・アール所属。美術を手がけた作品に『体操しようよ』『ジオラマボーイ・パノラマガール』『いつか、いつも……いつまでも。』などがある。
Movie
映画情報

九十歳。何がめでたい
監督/前田哲 出演/草笛光子 唐沢寿明 ほか 配給/松竹 (24/日本/99min)
断筆宣言をした90歳の作家・佐藤愛子は、鬱々とした日々を過ごしていた。一方、大手出版社に勤める編集者・吉川真也は、仕事にプライベートに悶々とする毎日。ある日、吉川の所属する編集部で愛子の連載エッセイ企画が持ちあがり、吉川は愛子を口説き落とすために自宅を訪れる……。6/21~全国公開 ©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館
九十歳。何がめでたい公式HP