「カイジ」の福本伸行が原作、「沈黙の艦隊」のかわぐちかいじが作画を手がけた同名コミックを、生田斗真とヤン・イクチュンのダブル主演で映画化。ある告白がきっかけとなり、遭難した二人の男による緊迫の駆け引きが描かれる。全編ほぼ山小屋が舞台となる本作で、美術を手がけたのが清水剛さんだ。
実際に大工さんにつくってもらった山小屋
主な舞台となる山小屋の内部のセットは当初、映画の撮影所につくられるはずだったが、スケジュールの都合で変更となり、学園ドラマなどで使用されることも多い栃木県足利市の廃校、その体育館内に建てられた。清水さんはこの変更を逆手にとって、通常の映画セットとは違うものを提案した。
「本来、天井が開いていて、上から照明を当てられるセットのほうが撮影には向いているんです。でも、この作品はシナリオを読んで、セオリー通りにやらない方がいいと思いました。そこで天井を全部覆ったんです」
「本来、天井が開いていて、上から照明を当てられるセットのほうが撮影には向いているんです。でも、この作品はシナリオを読んで、セオリー通りにやらない方がいいと思いました。そこで天井を全部覆ったんです」
それはストーリーがほぼ暗闇の中で展開することと関係がある。
「山小屋は電気が通っていなくて真っ暗。灯りはストーブだけです」だが実際に真っ暗では映像には写らない。映画における暗闇の表現ほど難しいものはない。
「ほかの現場でも『本当に暗くしたいんだよね』という演出プランはよく出る。でも最後ははっきりライトを当てて、結局『真っ暗に見えないね』となりがちなんです。ライトを都合よく置けるような空間にしておくと、置いてしまう。だから極力、ロケをやっているぐらいの環境にしたほうがいいと思いました」
「山小屋は電気が通っていなくて真っ暗。灯りはストーブだけです」だが実際に真っ暗では映像には写らない。映画における暗闇の表現ほど難しいものはない。
「ほかの現場でも『本当に暗くしたいんだよね』という演出プランはよく出る。でも最後ははっきりライトを当てて、結局『真っ暗に見えないね』となりがちなんです。ライトを都合よく置けるような空間にしておくと、置いてしまう。だから極力、ロケをやっているぐらいの環境にしたほうがいいと思いました」
映画用のスタジオではないので、屋根を上から吊るすことはできない。そこで清水さんは逆の発想をする。「地元の工務店を紹介してもらって、大工さんにつくってもらったんです。だから材料は全部本物。山小屋を本物同様に建てたので、構造も問題ありません」その分、経費が多くかかると思いきや、実はそうでもないという。
「『本物の材料は値段がするんじゃない?』『30cm角の柱は高いんじゃないですか?』と聞かれることがあるけど、太いのに軽いセット用の木材を何日もかけてつくってもらう方が人件費がかかる。むしろ本物を建てたほうが結果的に安いんです」そうして建て上がったピカピカの山小屋を、今度は汚しによって古めかしい避難小屋へと仕上げていく。
「『本物の材料は値段がするんじゃない?』『30cm角の柱は高いんじゃないですか?』と聞かれることがあるけど、太いのに軽いセット用の木材を何日もかけてつくってもらう方が人件費がかかる。むしろ本物を建てたほうが結果的に安いんです」そうして建て上がったピカピカの山小屋を、今度は汚しによって古めかしい避難小屋へと仕上げていく。
「映画のセットは、時間経過、風化を表現していかなくてはならないので、東京から仕事をよく一緒にするスタッフを呼んでもらって作業しました」古さだけでなく、寒さの表現も肝心だ。
「本来であれば芝居をしていて白い息が出るようにしたいから『本当に寒いところに建てよう』っていいたくなるほどの作品なんです。さすがにそれは無理でしたけど。そこで寒さを表現する必要が生じる、うってつけのアイテムといったら……。それは窓です」
凍った窓ガラスは、清水さんの助手さんが開発した手法によってつくられた。
「本来であれば芝居をしていて白い息が出るようにしたいから『本当に寒いところに建てよう』っていいたくなるほどの作品なんです。さすがにそれは無理でしたけど。そこで寒さを表現する必要が生じる、うってつけのアイテムといったら……。それは窓です」
凍った窓ガラスは、清水さんの助手さんが開発した手法によってつくられた。
「以前、『抱きしめたい‐真実の物語‐』という網走が舞台の映画に参加したことがあります。『凍っている表現がいつも同じだな』と感じていたので、助手に『リサーチディベロップメント(研究開発)せよ(笑)』とオーダーしたら、面白いものを見つけてきたんです。農業の肥料の一種に中性洗剤を混ぜてお湯で溶いて、それを窓に塗るとパリパリパリって凍ったような見映えになる。効果的だったので、今回も同じ方法を使っています」セットは窓の数が少ないことも特徴だ。スリラー要素も強い本作にあって、窓が多いと観客に「そこから逃げ出せるのでは」という印象を与えてしまうからと想像がつくが、理由はそれだけではなかった。
「実は当初、もっと窓があるデザインだったんです。そのほうがいろいろ遊べるかなと思ったので。でも撮影部、照明部からは『窓を極端に少なくしてくれ』というリクエストがありました。窓が多いと、どうしても光が回ってしまうから、『暗くしたい』というイメージから遠ざかってしまう。だったらむしろ撮りづらいくらいがいいんじゃないかと考えて、いまのプランになりました」撮影で印象に残っていたことを聞いてみると。
「監督がとてもおいしいふりかけを差し入れてくれました(笑)。あと、アリエールがピラミッドみたいに山積みになっていて、何かと思ったら生田さんの差し入れだったんです(笑)(※生田さんはアリエールのCMに出演中)。泊まり込みでの撮影だったので『使ってください』ということだと思うんですが、優しさを感じました」
「監督がとてもおいしいふりかけを差し入れてくれました(笑)。あと、アリエールがピラミッドみたいに山積みになっていて、何かと思ったら生田さんの差し入れだったんです(笑)(※生田さんはアリエールのCMに出演中)。泊まり込みでの撮影だったので『使ってください』ということだと思うんですが、優しさを感じました」
恐ろしい映画の内容に反して、現場はなごやかだったようだ。そんななか、もっともインパクトがあったのは、あの俳優だった。
「撮影が進んでいくと、セットの中から『うわー!』というイクチュンさんの凄まじい絶叫が聞こえてくる。ドキっとしました。『何だこのスケジュールは!』『ふざけんじゃない!』『ふりかけでごまかされないぞ!』みたいなことだったらどうしようと思って(笑)。もちろんそうではなく、本番中の声だったんですが、それにしてもすごい迫力でした。ところがセットから出てくると本当に穏やかな方なんです」山小屋のクオリティは山岳アドバイザーの後藤哲平さんからもお墨付きをもらった。
「厳しい条件はあったけど、プロデューサーの山邊さんもいろいろ奔走してくれて、よくまとめられました。とてもいい現場でしたね」
「撮影が進んでいくと、セットの中から『うわー!』というイクチュンさんの凄まじい絶叫が聞こえてくる。ドキっとしました。『何だこのスケジュールは!』『ふざけんじゃない!』『ふりかけでごまかされないぞ!』みたいなことだったらどうしようと思って(笑)。もちろんそうではなく、本番中の声だったんですが、それにしてもすごい迫力でした。ところがセットから出てくると本当に穏やかな方なんです」山小屋のクオリティは山岳アドバイザーの後藤哲平さんからもお墨付きをもらった。
「厳しい条件はあったけど、プロデューサーの山邊さんもいろいろ奔走してくれて、よくまとめられました。とてもいい現場でしたね」
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#148(6月号2024年4月18日発売)『告白 コンフェッション』の美術について、美術・清水さんのインタビューを掲載。
Profile
プロフィール

美術
清水剛
shimizu takeshi
60年神奈川県生まれ。『電影少女』(91)で美術監督デビュー。『ゴジラ 2000 MILLENNIUM』(99)といった特撮から、『忍びの国』(17)など時代劇まで幅広いジャンルの作品を手がけている。近作に『鋼の錬金術師 完結編』二部作、『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』『沈黙のパレード』(すべて22)、『リボルバー・リリー』(23)などがある。
Movie
映画情報

告白 コンフェッション
監督/山下敦弘 出演/生田斗真 ヤン・イクチュン 奈緒 ほか 配給/ギャガ (24/日本/74min)
大学山岳部OBの浅井とジヨンは、事故死した同級生の慰霊登山に出かけるが遭難してしまう。怪我を負い、死を覚悟したジヨンは自身の犯した罪を告白。だが山小屋が見つかり、二人は避難する。それが恐怖の一夜の始まりだった……。5/31~全国公開
©2024 福本伸行・かわぐちかいじ/講談社/『告白 コンフェッション』製作委員会
告白 コンフェッション公式HP