近年は『ステップ』『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』などの感動作で知られる飯塚健監督。最新作『宇宙人のあいつ』は、『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』など、飯塚監督のもうひとつのお得意路線ともいえるシュールなコメディだ。真田家の風変わりな邸宅を美術の小泉博康さんはどのようにつくりあげたのか。
それぞれの好きなものが積み重なっている感じ
本作の主人公は真田家の次男・日出男(中村倫也)。実は宇宙人で、故郷である土星に帰還しなければいけないという突飛な設定だ。一緒に暮らす地球人・真田家のほかの三兄妹も日出男に負けじと濃いキャラクターを持っていて、部屋は雑多なものであふれかえっている。
「監督から『居間は兄妹が集まる場所であって、それぞれの好きなものが積み重なっている感じ』というイメージをお聞きました」兄妹とは、日出男に加え、焼肉店を切り盛りする長男の夢二(日村勇紀〈バナナマン〉)、ゴミ処理施設で働く長女の想乃(伊藤沙莉)、ガソリンスタンドで働く三男の詩文(柄本時生)という4人だ。
「監督から『居間は兄妹が集まる場所であって、それぞれの好きなものが積み重なっている感じ』というイメージをお聞きました」兄妹とは、日出男に加え、焼肉店を切り盛りする長男の夢二(日村勇紀〈バナナマン〉)、ゴミ処理施設で働く長女の想乃(伊藤沙莉)、ガソリンスタンドで働く三男の詩文(柄本時生)という4人だ。
「『こういうものを集めよう』と最初にイメージ画を描いて、それに近いもの探しては肉付けしていきました。発想の出発点は、両親を亡くした兄妹は10年ぐらい好き勝手に暮らしている、という背景です。マーシャルのスピーカーや骸骨はロック少年だった夢二のもの。
想乃は100円ショップやドンキ(ディスカウントストア「ドン・キホーテ」)が大好きで、『かわいい』という理由だけで買ってきたようなものが細々と置いてあります。詩文は何かに強く興味を持っているわけではなく、兄妹にちょっと引きずられている。例えばソフトクリームの置物は、『兄妹のウケが取れるかなと思って買ったけど、意外と無反応だった』という設定です。
日出男に関しては、『まだここに短い間しかいない。家族に入り切れていない』と本人が思い込んでいるから、持ち込んだアイテムはあまりありません」
想乃は100円ショップやドンキ(ディスカウントストア「ドン・キホーテ」)が大好きで、『かわいい』という理由だけで買ってきたようなものが細々と置いてあります。詩文は何かに強く興味を持っているわけではなく、兄妹にちょっと引きずられている。例えばソフトクリームの置物は、『兄妹のウケが取れるかなと思って買ったけど、意外と無反応だった』という設定です。
日出男に関しては、『まだここに短い間しかいない。家族に入り切れていない』と本人が思い込んでいるから、持ち込んだアイテムはあまりありません」
小泉さんと監督はともにロックが好きだったため、話も通じやすかったそう。ただし、イメージの誤差を補正する一幕もあったようだ。
「劇中、夢二がギターを弾くシーンがあります。彼が高校のときに初めて買った安いギターというイメージで、僕は用意したのですが、監督は『一生懸命働いて、貯金をして買ったギターでしょう』と。そこで登場したのが、ものすごく高価なリッケンバッカーです」雑多な居間の壁には、鯉のぼりや坂本龍馬のポスターなど、様々なものが配置されているが、中でも目につくのは、異様なまでに大きな遺影と「SANADA」の文字。
「劇中、夢二がギターを弾くシーンがあります。彼が高校のときに初めて買った安いギターというイメージで、僕は用意したのですが、監督は『一生懸命働いて、貯金をして買ったギターでしょう』と。そこで登場したのが、ものすごく高価なリッケンバッカーです」雑多な居間の壁には、鯉のぼりや坂本龍馬のポスターなど、様々なものが配置されているが、中でも目につくのは、異様なまでに大きな遺影と「SANADA」の文字。
「監督からの『両親の遺影はバカでかくしましょう』というオーダーに応えました。最初は梁の上に配置しようとしましたが、それだとあまり映りこまないので、仏壇の上に置くことにしました。仏壇も『うやうやしく置かれている』感じではなくて、『若者たちがカジュアルに扱っている』感じが欲しかったので、『SANADA』を飾りました」自由奔放に飾り付けているようにも聞こえるが、小泉さんは『自分の色』を出し過ぎないことが肝要だと考えている。
「やっぱり大切なのは『監督がやりたいことに、どれだけ近づけるか』です。そのラインを汲んだうえで、『もうちょっとこうもいいんじゃない?』『これもいいのでは?』という提案をしていくのが美術の仕事。自分の色が出すぎてしまうと、作品を壊してしまうことになる。助手にはよく、こういうたとえ話をします。『サッカーでいうと、俺たちはゴールキーパーだ』と。点を取りに前に出たら、負けに繋がってしまうんです
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#142(6月号2023年4月18日発売)『宇宙人のあいつ』の美術について、美術・小泉さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術監督
小泉博康
koizumi hiroyasu
64年生まれ。92年、スペースシャワーTVへの入社、数々のミュージックビデオの美術を手がける。05年、アートブレイカーズを設立。近作に『チワワちゃん』『ザ・ファブル』(ともに19)、『東京喰種 トーキョーグール【S】』、『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』(ともに21)、『HOMESTAY(ホームステイ)』(22)などがある。
Movie
映画情報

宇宙人のあいつ
監督・脚本/飯塚健 出演/中村倫也 伊藤沙莉 日村勇紀(バナナマン) 柄本時生 ほか 配給/ハピネットファントム・スタジオ (23/日本/117min)
高知で暮らす真田家の四兄妹。ある日、次男の日出男は「自分は家族になりすましてきた宇宙人だ」と告白する。3日後に地球を去らねばならない彼には、やり残していたことがあった……。5/19~全国公開
©映画「宇宙人のあいつ」製作委員会
宇宙人のあいつ公式HP