中村光の人気コミック『ブラックナイトパレード』が、『銀魂』シリーズや『今日から俺は!!劇場版』などコメディ映画・ドラマのヒットメーカー・福田雄一監督の手によって実写映画化。美術を手がけた吉田敬さんは、日野三春(吉沢亮)の暮らす部屋、そしてファンタジックな世界観をどのようにつくりあげたのか?
スタッフのテンションの高さは、作品にも表れるんです
いい子にはいいプレゼント、悪い子には嫌なプレゼントを配るブラックサンタとして働くことになった日野三春。「サンタクロースハウス」での勤務にあたり“東京の住まいが、本社のある北極へそのまま移設される”という突飛な設定を踏まえ、“何者でもない”三春らしく、どこをとっても無個性な部屋がしつらえられた。
「お金をあまり持ってなくて、マンガ好き、性格は明るくない“ダメな男の部屋”という感じにしました。三春は“何もない男”(笑)で、とくに特徴のない就職浪人のひとり暮らしという風情です」かといって、三春は怠惰なわけでない。
「“バイトは無遅刻無欠勤”という勤勉な一面も持ち合わせている。整理整頓は苦手だけれど、部屋を汚くしすぎるとゴミ屋敷になってしまう。そのバランスには気を遣いました」
「お金をあまり持ってなくて、マンガ好き、性格は明るくない“ダメな男の部屋”という感じにしました。三春は“何もない男”(笑)で、とくに特徴のない就職浪人のひとり暮らしという風情です」かといって、三春は怠惰なわけでない。
「“バイトは無遅刻無欠勤”という勤勉な一面も持ち合わせている。整理整頓は苦手だけれど、部屋を汚くしすぎるとゴミ屋敷になってしまう。そのバランスには気を遣いました」
吉田さんと、かつて放送作家だった福田雄一さんは、バラエティ番組の現場で出会った。やがて吉田さんはドラマ部へ異動、福田さんは監督に転身。6年前に再会したふたりは現在、ミュージカルコメディ番組『グリーン&ブラックス』(WOWOW)でもタッグを組み、今作で初めて劇場用長編映画を一緒につくることとなった。
「原作がコミックなので、ビジュアルのイメージは確立している。福田さんに『遊びますか(原作のイメージから離れますか)?』と相談したところ、『忠実がいい』とのことだったので原作に沿うようにしました。ただし原作の三春の部屋が相当せまいのに対して、それよりも少し広めにしつらえています。福田さんはもっと広くしたかったようですが、『観客が目にして三春のキャラを印象づけるシーンでもあるから、貧相にしておかないと』と伝えて説得しました(笑)。“お金がない”という設定が崩れない、高い家賃に見えない範囲、ギリギリの広さです」
「原作がコミックなので、ビジュアルのイメージは確立している。福田さんに『遊びますか(原作のイメージから離れますか)?』と相談したところ、『忠実がいい』とのことだったので原作に沿うようにしました。ただし原作の三春の部屋が相当せまいのに対して、それよりも少し広めにしつらえています。福田さんはもっと広くしたかったようですが、『観客が目にして三春のキャラを印象づけるシーンでもあるから、貧相にしておかないと』と伝えて説得しました(笑)。“お金がない”という設定が崩れない、高い家賃に見えない範囲、ギリギリの広さです」
吉田さんが「少し広め」にしたことには理由がある。
「僕たちテレビの人間は、一面だけ壁が抜けているコの字型のセットをつくることが少なくない。一方、カメラを切り返して撮ることが多い映画作品では、壁を全面つくらないといけない。セットのなかにカメラが入れるよう、原作よりも広めにつくったんです。実際のところ、三春の部屋は壁を4面つくりましたが、1面は外せる仕掛けにして、カメラを引いて撮ることもできるようにしました」
「僕たちテレビの人間は、一面だけ壁が抜けているコの字型のセットをつくることが少なくない。一方、カメラを切り返して撮ることが多い映画作品では、壁を全面つくらないといけない。セットのなかにカメラが入れるよう、原作よりも広めにつくったんです。実際のところ、三春の部屋は壁を4面つくりましたが、1面は外せる仕掛けにして、カメラを引いて撮ることもできるようにしました」
シーン数が多い本作。ひとつの拠点は北極という特殊な環境で、大規模なアクションシーンもある。それらを撮りきるために相当知恵を絞ったようだ。
「スケールの割には予算が少なかったんです(笑)。なので随所で工夫を凝らしています。例えば、サンタクロースハウスの玄関にしつらえたアーチ状の装飾を屋内シーンでも再利用したり、三春の部屋の一部も“カイザーこと”田中皇帝(中川大志)の部屋で使い回ししています。こう説明すると簡単に聞こえるかもしれませんが、意外に大変なんです。使用できるスタジオの数は限られているので、撮影順に合わせてセットを組み立てては、バラすの繰り返しでした。それは難しいパズルをやっているようでしたね」スケジュールもタイトだったようで、あらかじめ条件がいい現場でないことはわかっていたはず。それでも本作を引き受けた理由をたずねると、返ってきた言葉は「やりたかったから(笑)」。
「スケールの割には予算が少なかったんです(笑)。なので随所で工夫を凝らしています。例えば、サンタクロースハウスの玄関にしつらえたアーチ状の装飾を屋内シーンでも再利用したり、三春の部屋の一部も“カイザーこと”田中皇帝(中川大志)の部屋で使い回ししています。こう説明すると簡単に聞こえるかもしれませんが、意外に大変なんです。使用できるスタジオの数は限られているので、撮影順に合わせてセットを組み立てては、バラすの繰り返しでした。それは難しいパズルをやっているようでしたね」スケジュールもタイトだったようで、あらかじめ条件がいい現場でないことはわかっていたはず。それでも本作を引き受けた理由をたずねると、返ってきた言葉は「やりたかったから(笑)」。
「スタッフのテンションが上がった現場は、作品のクオリティにも現れるんです。ドラマ『潜水艦カッペリーニ号の冒険』(22年1月)がまさにそうでした。今作のオファーを受けて、スタッフはあえてあのときと同じメンバーにしたんです。想像通り、現場はテンションが上がってお祭り状態になりました。うちはチームワークで勝てる自信があります」ちなみに吉田さんは独特な経歴の持ち主でもある。
「僕は美術プロデューサーですが、同時にデザイナー、アートコーディネーター(現場監督)を兼任しています。僕が所属するフジアールは、みんな現場出身。アートコーディネーターからはじめて、それを最後まで続ける人もいますが、ふつうは途中でデザインの道へ進むかプロデュースに行くかで分かれる。僕は両方かじってきたので、うちの会社でも特殊かもしれません。仕事量は増えますが、決定権があるのでスムーズに企画を進めやすく、自分の思い描いたものがつくれるんです」
「僕は美術プロデューサーですが、同時にデザイナー、アートコーディネーター(現場監督)を兼任しています。僕が所属するフジアールは、みんな現場出身。アートコーディネーターからはじめて、それを最後まで続ける人もいますが、ふつうは途中でデザインの道へ進むかプロデュースに行くかで分かれる。僕は両方かじってきたので、うちの会社でも特殊かもしれません。仕事量は増えますが、決定権があるのでスムーズに企画を進めやすく、自分の思い描いたものがつくれるんです」

コンビニにずらりと並んだ5000個の大福。「いまの主流でいうと、実物で飾るのは1m幅ぐらいで、あとはCGで描くことが多い。でも今回は監督からの要望もあり、実際に4000個を飾りました。こういうところが“遊び”です。ただしお金と手間がかかってしまい、思った以上に大変でした(笑)」
いまやそのフィールドはドラマ、映画、バラエティ番組の枠を越え、イベント、コンサート、店舗のデザインなども手がけているそうだ。
「単独ライブの美術を担当していた芸人さんのマネージャーが、家業である「LOGOS」というアウトドアブランドを継ぐために退職したんです。その一カ月後、『仕事をお願いしたい』と電話がかかってきた。それは店舗デザインの依頼で、『ドラマに登場するセットのようなカラフルな雰囲気がほしい』という要望でした。約5年間で50店舗ぐらい手がけたし、商品であるウェアのデザインにも口出しさせてもらいました。最近では『公園をつくってほしい』というリクエストをいただいて、京都の「ロゴスランド」、高知の「ロゴスパーク」というアウトドア施設をデザインしました。その体験はセットの制作にもフィードバックされています。電飾の代わりにランタンを配置するなど、ドラマでアウトドアアイテムを採り入れることもある。これは自分にしかできないことじゃないかと自負しています」
「単独ライブの美術を担当していた芸人さんのマネージャーが、家業である「LOGOS」というアウトドアブランドを継ぐために退職したんです。その一カ月後、『仕事をお願いしたい』と電話がかかってきた。それは店舗デザインの依頼で、『ドラマに登場するセットのようなカラフルな雰囲気がほしい』という要望でした。約5年間で50店舗ぐらい手がけたし、商品であるウェアのデザインにも口出しさせてもらいました。最近では『公園をつくってほしい』というリクエストをいただいて、京都の「ロゴスランド」、高知の「ロゴスパーク」というアウトドア施設をデザインしました。その体験はセットの制作にもフィードバックされています。電飾の代わりにランタンを配置するなど、ドラマでアウトドアアイテムを採り入れることもある。これは自分にしかできないことじゃないかと自負しています」

トナカイ適性試験で登場する腕相撲マシーンはゼロからつくられた。
「当初は“スタントの人が衣装を着てマシーンを演じる”はずでした。でも監督の視線を感じて、自分から『つくりますか?』と提案したんです(笑)。中身が生身の人間だとすると、マシーンがひとまわり大きくなってしまって印象が変わってしまうので。素材の一部はFRP(繊維強化プラスチック)です。ただし、それは見えるところだけ。見えないところはFRPっぽいけれどランクを下げた、エフレタンという素材を使っています。エフレタンは値段も丈夫さも全然違うけれど、『全部FRPでつくりました』とみんなをだませるクオリティに仕上がったんじゃないかな(笑)」
そんな吉田さんにとって、美術の醍醐味とは?「たとえば警察署をつくることになったら警官の気持ちを味わえる。IT企業のセットだったら、IT社長の思考をイメージしてプランを立てる。ふつうは経験できないことを、浅いかもしれないけれど、幅広く体験できるんです。流行を発信できるところも魅力です。例えば僕が若かりし頃、ドラマ『ラブジェネレーション』(97)でうちのスタッフが『これいいんじゃない?』とガラスのリンゴを随所に配置したことがありました。そのリンゴは相当話題になったんです。時計ひとつ、バイクひとつでも、遊び感覚で採り入れたものが観る人に響くことがあるんです」さらに吉田さんは、こう付け加えた。
「テレビ美術のスタッフは映画もできる。一方、映画屋さんはテレビが不得手。なので、自分はテレビ美術を誇りに感じています。『醍醐味は?』に対する答は、『いろんなことができる』『いろんな気持ちになれる』『いろんな発信ができる』ですね」
「テレビ美術のスタッフは映画もできる。一方、映画屋さんはテレビが不得手。なので、自分はテレビ美術を誇りに感じています。『醍醐味は?』に対する答は、『いろんなことができる』『いろんな気持ちになれる』『いろんな発信ができる』ですね」
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#140(1月号2022年12月18日発売)『ブラックナイトパレード』の美術について、美術・吉田さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術
吉田敬
yoshida takashi
1973年東京都生まれ。フジ・メディア・ホールディングス傘下のフジアールで美術プロデューサーとして数々のバラエティ番組やドラマに参加。近作に映画『おとなの事情 スマホをのぞいたら』『リカ 自称28歳の純愛モンスター』(ともに21)、ドラマ『オリエント急行殺人事件』(15)、『黒井戸殺し』(18)、『推しの王子様』『死との約束』(ともに21)など。
Movie
映画情報

ブラックナイトパレード
脚本・監督/福田雄一 出演/吉沢亮 橋本環奈 中川大志 渡邊圭祐 ほか 配給/東宝 (22/日本/109min)
受験、就活に失敗した冴えない男・日野三春は、突如現れた黒いサンタ服を着た男に北極へ連れ去られる。やがて三春は世界中の子供たちにプレゼントを配るという超激務の「ブラックサンタ」として働きはじめる……。12/23~全国公開
(C)2022「ブラックナイトパレード」製作委員会 (C)中村光/集英社
ブラックナイトパレード公式HP