第34回東京国際映画祭で観客賞を受賞した松居大悟監督作品『ちょっと思い出しただけ』。コロナ渦の東京から始まり、ひと組のカップルの出会いと別れが時間をさかのぼる形式で描かれていく。美術を手がけた相馬直樹さんがつくりあげた主人公・照生(池松壮亮)の部屋とは?
直射日光がカラフルさを引き立たせる
映画では、元ダンサーの照生と、タクシー運転手の葉(よう・伊藤沙莉)の出会いから別れを、1年ごとにさかのぼる構成で描かれていく。「○年前」というテロップが用いられることはなく、その変遷は衣装、メイク、美術で表現されている。
「美術を考える上で、その構成と、時間の変化を意識しました。わかりやすいところで言えば、ヒロインの葉が乗るタクシーの車体がセダン型から東京2020オリンピック仕様のミニバン型に変わっていたりします。しかし、照生の部屋に関しては彼女がいるときと独りになったときで、がらっと変えるのもわざとらしいので、葉の服の量や植物、小道具などで微妙な変化をつけることにしました」照生の部屋は、本作のプロデューサーがかつて別の作品で使用した横浜のアパートで撮影されることになった。都内という当初の設定を横浜に変更したのは、その物件があまりにもイメージとピッタリだったからだ。
「美術を考える上で、その構成と、時間の変化を意識しました。わかりやすいところで言えば、ヒロインの葉が乗るタクシーの車体がセダン型から東京2020オリンピック仕様のミニバン型に変わっていたりします。しかし、照生の部屋に関しては彼女がいるときと独りになったときで、がらっと変えるのもわざとらしいので、葉の服の量や植物、小道具などで微妙な変化をつけることにしました」照生の部屋は、本作のプロデューサーがかつて別の作品で使用した横浜のアパートで撮影されることになった。都内という当初の設定を横浜に変更したのは、その物件があまりにもイメージとピッタリだったからだ。
「ベッドが置いてある部屋の壁が砂壁で、かっこいいテクスチャーになっていました。海辺だし古い建物なので、さびているところがあったり、天井が抜けていたり、その感じもかっこよかったんです。駆け出しのダンサーの住まいとしては少し広すぎるかもしれませんが、郊外なので家賃を考慮した設定的にも違和感がない。見て、すぐにいいなと思いました」
あちこちに配置された時計も印象的なインテリアだ。
「1年さかのぼるごとに、同じ位置から同じカメラワークを繰り返すので、時計の置き場所がポイントになる。映像で切り取られたときに部屋の変化が伝わりやすい位置はどこか、いろいろと検証しました。時計が何個も置いてある部屋は、作品のテイストも象徴していると思います。変わらないのは淡々と同じ動作を繰り返すドリンキングバード。あれは僕の私物です」
「1年さかのぼるごとに、同じ位置から同じカメラワークを繰り返すので、時計の置き場所がポイントになる。映像で切り取られたときに部屋の変化が伝わりやすい位置はどこか、いろいろと検証しました。時計が何個も置いてある部屋は、作品のテイストも象徴していると思います。変わらないのは淡々と同じ動作を繰り返すドリンキングバード。あれは僕の私物です」
もうひとつ特徴的なのが色使いだ。照生の部屋はリアリティがありつつ、カラフルな要素も多分に。その飾りつけは相馬さんにとって『由宇子の天秤』の次の現場だったことも大きい。
「『由宇子の天秤』は社会派の映画だったこともあり、色見を抑えたんです。『ちょっと思い出しただけ』ではその反動で色を入れようと思いました。それにたまたま自分が持っている古き良き時代の映画のDVDを観ていて、色使いが素敵なシーンの数々を目の当たりにしたんです。『ちょいちょい色が入っているのはいいな』と感じたこともあって、いろんな色を散りばめています」
「『由宇子の天秤』は社会派の映画だったこともあり、色見を抑えたんです。『ちょっと思い出しただけ』ではその反動で色を入れようと思いました。それにたまたま自分が持っている古き良き時代の映画のDVDを観ていて、色使いが素敵なシーンの数々を目の当たりにしたんです。『ちょいちょい色が入っているのはいいな』と感じたこともあって、いろんな色を散りばめています」
玄関からは、西日が直射で入ってくる。そのことも大きくプラスになった。
「西日が差すってことは基本、逆光になるんです。カラフルなものは、ガラス越しに光を浴びると一層、色味が活きてくる。そう考えて水槽などを配置しました。そんな風に、今作は楽しみながら美術をやらせていただきました」
「西日が差すってことは基本、逆光になるんです。カラフルなものは、ガラス越しに光を浴びると一層、色味が活きてくる。そう考えて水槽などを配置しました。そんな風に、今作は楽しみながら美術をやらせていただきました」
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#134(2月号2021年12月18日発売)『ちょっと思い出しただけ』の美術について、美術・相馬さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術
相馬直樹
soma naoki
64年北海道生まれ。アタッカンテ所属。数多くの映画、CM、MVの美術を手がける。近作に『窮鼠はチーズの夢をみる』『ビューティフルドリーマー』『劇場』(すべて20)、『名も無き世界のエンドロール』『HOKUSAI』『由宇子の天秤』(すべて21)などがある。
Movie
映画情報

ちょっと思い出しただけ
監督・脚本/松居大悟 出演/池松壮亮 伊藤沙莉 河合優実 大関れいか 屋敷裕政(ニューヨーク)/ 尾崎世界観 ほか 配給/東京テアトル (21/日本/115min)
怪我でダンサーの道を諦めた照生とタクシードライバーの彼女・葉。別れから出会いまでをさかのぼりながら描くラブストーリー。2/11~公開
©2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会
ちょっと思い出しただけ公式HP