小学校を卒業するとともに『団地の中だけで生きていく!』と風変わりな宣言をした、少年・悟。そんな彼の12歳から30歳になるまでの18年を綴った、ほほえましくもほろ苦い青春ドラマ『みなさん、さようなら』。キャラクターを色濃く表している悟の部屋は、必要最小限の物しか置かれていないが居心地のよさを感じられる。すっきりとしながら心地のよい部屋を作るポイントを、美術監督の高橋泰代さんに教えてもらいました。
text by 小竹亜紀
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狭い団地住まいにぴったりな 無駄のない“引き算”の部屋作り
「悟の家は、実際にある仙川(東京都調布市)の団地で撮影しました。物語の舞台は1980年代から始まるので、インテリアは昭和なレトロさを意識しています。時代に合った家具や生地をポイントに置くだけで、レトロな雰囲気を演出できるんです」。さらにリアリティを増すため、家の中で目に入りやすいアイテム、たとえば、レトロな雰囲気の鍋やテーブルにひいたビニールクロスなど、細かい部分にもこだわったそう。
整然とした悟の部屋のポイントは“引き算”。「悟の部屋は、不要な物を排除する引き算の方法で作りました。つつましいけれど、不都合を感じない快適な空間です」。13歳から団地の外の世界を知らない悟は、年齢を重ねても心は小学生のままという異質な存在。そんな異質さを出すために、時代が変わっても悟の部屋には大きく変化をつけなかったそう。唯一変えたのは、電気スタンド。「小学生の頃は地球儀の形の電気スタンドを勉強机に置いていました。悟が彼女とデートをするシーンで、部屋を暗くするとき地球儀だとおもしろい画になってしまうので、スタンドだけはシンプルなものに変えています」。
物語のメイン舞台となる団地は、シーンごとにロケ地となる団地を変えている。「活気があるように見せたい商店街のシーンは実際に活気溢れる商店街が残っている団地で撮影しました。ケーキ屋の外観はこの団地で撮ったのですが、店内は八王子に実際にあるケーキ屋をお借りして撮りました。看板などは私の手作りです。渡会家の住まいは撮影の利便性も考えて仙川の団地で、団地の入り口は高台のある柿生(神奈川県川崎市麻生区)の団地で撮影しています。
ベランダのシーンも3ヵ所で撮影したんです。撮影した団地が撮影しづらい構造だったため、悟と有里のシーンは1階で、下の位置から撮るシーンは5階のベランダを使ってやっているんですよ。同じ団地、同じベランダに見えるように工夫して撮影しましたが、団地好きな方なら違いに気づくかもしれませんね」。
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#80(2013年2月号 12月18日発売)『みなさん、さようなら』の美術について、高橋さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術監督
高橋泰代
takahashi yasuyo
70年青森県生まれ。映画やテレビドラマの美術監督として活躍。おもな作品に『チェケラッチョ!!』『虹の女神』(ともに06)、『ネガティブハッピー・チェーンソーエッジ』(08)、『余命』(09)、『スイートリトルライズ』『宇宙で一番ワガママな星』(ともに10)など。近作に、テレビドラマ『シングルマザーズ』(12・NHK)がある。
Movie
映画情報

みなさん、さようなら
監督/中村義洋 脚本/林民夫 中村義洋 原作/久保寺健彦 出演/濵田岳 倉科カナ 永山絢斗 波瑠 ほか 配給/ファントム・フィルム(12/日本/120min)
とある出来事がきっかけで、小学校卒業後に、「団地の中だけで生きていく」と決意した少年・悟(濵田)。中学校にも通わず、就職やデートも団地の中だけ。風変わりながらも順風満帆に思えた団地生活にも綻びが見えはじめ……。1/26~テアトル新宿ほか全国公開
©2012「みなさん、さようなら」製作委員会
みなさん、さようなら公式HP