“日本の原爆開発”という知られざる事実をもとに、その開発に携わった若き研究者の姿を描く『映画 太陽の子』。主人公の京都帝国大学に通う石村修を演じるのは柳楽優弥。美術を手がけた小川富美夫さんは、昭和初期を舞台にした本作にどのように挑んだのだろう。
変なものがあふれた〝科学者〟の部屋
主人公の科学者・石村修は京都帝国大学で研究を行う学生。母と暮らす家は京都市内で、平安神宮や下鴨神社など名所が点在する左京区にあるという設定だ。
「石村家の外観は、京都大学のすぐ裏手の民家で撮影しました。黒崎博監督は、京都大学の出身で、周辺の地理をよくご存知だったので、ロケハンしていて、いい物件に巡り合えました。実際に戦前に建てられた家屋で、その一帯は京大の教授のための家が建ち並んでいた場所だったそうです」
「石村家の外観は、京都大学のすぐ裏手の民家で撮影しました。黒崎博監督は、京都大学の出身で、周辺の地理をよくご存知だったので、ロケハンしていて、いい物件に巡り合えました。実際に戦前に建てられた家屋で、その一帯は京大の教授のための家が建ち並んでいた場所だったそうです」
そのお宅を拝借してすべてを撮影できれば制作面ではスムーズだったが、内観は現代風にリフォームされていたため、スタジオにセットを建てることに。映画の冒頭、もともと修が、母・フミ、弟の裕之(三浦春馬)と暮らしていた石村家に、建物疎開で家を取り壊すことになった朝倉世津(有村架純)とその祖父・清三(山本晋也)が居候としてやってくる。劇中では、清三の姿はあまり登場しない。それにはいかにも京都らしい建築様式に秘密があった。
「奥行きの長い京町屋では、採光のために中庭を設けることが多い。石村家は京町屋ではないのですが、その中庭を採り入れました。「離れ」は居間から中庭越しの向こう側に茶室のような感じでつくりました」
「奥行きの長い京町屋では、採光のために中庭を設けることが多い。石村家は京町屋ではないのですが、その中庭を採り入れました。「離れ」は居間から中庭越しの向こう側に茶室のような感じでつくりました」
小川さんが悩んだのは、科学者である主人公・修の部屋だ。
「研究者と言っても、大学に入ってまだ日は浅く、のめりこんでいるわけでもない。どうつくり込むかを考えました。監督も相当悩んでいたと思います」突破口となったのは、映画には登場しない修の父をイメージすることだった。
「お父さんはなにをしていた人なんだろう、どんな人だったんだろうと想像しました。『大学で教鞭を執っていたとして、とはいえ、科学者ではない気がする。生活の知恵を持った気丈なフミさんと夫婦だったということは……』などといろいろ考え、民族学を研究していた人なのでは?民芸運動を起こした柳宗悦のような人だったのでは?、と思い描いたんです。そこで東京・駒場にある日本民藝館に出かけたりもしました。本館の隣りに別館があって、それが旧柳宗悦邸なんです。ふだんは公開していないのですが、特別に見せていただいてイメージを膨らませました」
「研究者と言っても、大学に入ってまだ日は浅く、のめりこんでいるわけでもない。どうつくり込むかを考えました。監督も相当悩んでいたと思います」突破口となったのは、映画には登場しない修の父をイメージすることだった。
「お父さんはなにをしていた人なんだろう、どんな人だったんだろうと想像しました。『大学で教鞭を執っていたとして、とはいえ、科学者ではない気がする。生活の知恵を持った気丈なフミさんと夫婦だったということは……』などといろいろ考え、民族学を研究していた人なのでは?民芸運動を起こした柳宗悦のような人だったのでは?、と思い描いたんです。そこで東京・駒場にある日本民藝館に出かけたりもしました。本館の隣りに別館があって、それが旧柳宗悦邸なんです。ふだんは公開していないのですが、特別に見せていただいてイメージを膨らませました」
そうやって完成したのが、「どっちつかずの変な部屋」。父ゆずりの蒐集癖も表れている。
「うちの家内のおじいちゃんがそうだったんですけど、電線や鉄パイプなどをなにかに使えると思って拾ってくるんです(笑)。修もなにかしら科学の研究に役立つと考えて、電気のコードや自転車のサドル、チェーンなど、見つけたら拾ってきてしまう人だったら面白いと考えました。装飾の奥利暁さんとも相談をして、室内だけでなく物干し台にも、一見ガラクタにしか見えないものをぶら下げたり並べたりして、ごちゃごちゃした感じにつくりこみました。壁には修が書きなぐった化学式などの筆跡も加えています」
「うちの家内のおじいちゃんがそうだったんですけど、電線や鉄パイプなどをなにかに使えると思って拾ってくるんです(笑)。修もなにかしら科学の研究に役立つと考えて、電気のコードや自転車のサドル、チェーンなど、見つけたら拾ってきてしまう人だったら面白いと考えました。装飾の奥利暁さんとも相談をして、室内だけでなく物干し台にも、一見ガラクタにしか見えないものをぶら下げたり並べたりして、ごちゃごちゃした感じにつくりこみました。壁には修が書きなぐった化学式などの筆跡も加えています」
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#131(2021年8月号 6月18日発売)『映画 太陽の子』の美術について、美術の小川さんのインタビューを掲載。
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Profile
プロフィール

美術
小川富美夫
ogawa fumio
48年仙台市まれ。主な作品に『雪の断章 情熱』(相米慎二監督)、『ラヂオの時間』(三谷幸喜監督)、『おくりびと』(滝田洋二郎監督)、『沈まぬ太陽』(若松節朗監督)、『FOUJITA』(小栗康平監督)、『雪の華』(橋本光二郎監督)など。日本アカデミー賞優秀美術賞を5度受賞している。歌舞伎など舞台美術も手がける。
Movie
映画情報

映画 太陽の子
監督・脚本/黒崎博 出演/柳楽優弥 有村架純 三浦春馬 配給/イオンエンターテイメント (21/日本 アメリカ/111min)
1945年の夏。石村修ら京都帝国大学の学生たちは、原子核爆弾の極秘の研究開発を進めていた。建物疎開で家を失った幼なじみの朝倉世津を招き入れた石村家に、戦地から心に傷を負った軍人の弟・裕之が一時帰宅し、3人は久しぶりに再会する。8/6~全国公開
(C)2021ELEVEN ARTS STUDIOS/「太陽の子」フィルムパートナーズ
映画 太陽の子公式HP