暮らしのコト

満腹御礼 ご当地肉グルメの旅

民話の里で絶品羊肉を堪能! 岩手県遠野市の「遠野ジンギスカン」

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全国各地のウマい肉料理をお腹いっぱい食べ尽くしていく連載「満腹御礼 ご当地肉グルメの旅」。今回訪れたのは、岩手県遠野市。岩手県の内陸部にあり、江戸時代には城下町として栄えた場所です。

遠野市といえば、日本の民俗学のパイオニアとして知られる柳田國男の著作、『遠野物語』の舞台。同作は、地域に伝わる民話を柳田國男がまとめたもので、カッパや天狗、ザシキワラシなど、さまざまな妖怪と人間との関わりが描かれています。

遠野駅です。周辺には妖怪の絵や像があちこちにあります。

遠野駅です。周辺には妖怪の絵や像があちこちにあります。

遠野駅前の池では談笑している(?)カッパの像が。カッパというと青や緑のイメージですが、「遠野物語」では赤色の妖怪として描かれています。

遠野駅前の池では談笑している(?)カッパの像が。カッパというと青や緑のイメージですが、「遠野物語」では赤色の妖怪として描かれています。

ついつい妖怪探しに夢中になってしまいますが、遠野を訪れた目的は、地域に根付く肉料理を探訪すること! なんでも、ジンギスカン=北海道というイメージがありますが、ここ遠野でも非常に人気がある料理なのです。

というわけで、遠野でジンギスカンを最初に出したという老舗「ジンギスカンのあんべ」を訪ねました。

■「遠野ジンギスカン」発祥のお店へ

お店の場所は遠野駅から歩いて10分ほど。住宅地の中にあり、地元の人が多く訪れます。

お店の場所は遠野駅から歩いて10分ほど。住宅地の中にあり、地元の人が多く訪れます。

「遠いところからようこそ」と迎えてくれた、店長の安部公弥さん。

「遠いところからようこそ」と迎えてくれた、店長の安部吉弥さん。

「ジンギスカンのあんべ」は、昭和22年創業の老舗。現在は三代目の安部吉弥さんが切り盛りしています。

さて、いきなりですが、疑問。なぜ遠野でジンギスカン、つまり羊肉がさかんに食べられるようになったのでしょうか?

安部さん「初代である私の祖父、安部梅吉が、第二次世界大戦中に旧満州で羊肉料理を知ったことがきっかけと聞いています。祖父は遠野の実家で精肉店兼食堂を営んでいたので、帰国してから自家製のタレを作って家族の間で食べていたのですが、それをお客様に出してみたところ、好評だったんです」

なるほど、中華で羊肉を使う料理というと、しゃぶしゃぶや串焼きがありますね。

安部さん「もっとも、当時の日本では羊肉を食べる習慣がなかったので、最初は『羊の肉なんか食べるものか』と揶揄されたこともあったそうです。昭和30(1955)年頃から、お祭りの屋台などで安く出し、徐々にその味を地域に広めていったのだとか」

そうして梅吉氏の努力でジンギスカンは次第に認知度が高まり、遠野に根付いていったといいます。

■いよいよジンギスカンを実食。ラムとマトンで、まるで違う?

さて、ひと通りお話をうかがったところで、実際にジンギスカンをいただくことに。まず、厨房でラム(仔羊)の肉をカットするところを見せていただきました。

鮮やかにラムのモモ肉のかたまりを切っていく安部さん。よどみない手つき!

鮮やかにラムのモモ肉のかたまりを切っていく安部さん。よどみない手つき!

切り終わったラムのモモ肉。脂肪が少ない赤身のお肉で、とってもヘルシー。

切り終わったラムのモモ肉。脂肪が少ない赤身のお肉で、とってもヘルシー。

安部さん「うちで扱う羊肉はすべて、肉の繊維の方向を見ながら手作業でカットしています。こうすると、肉に柔らかさが生まれるんです。機械では肉の繊維の方向まで判断して切ることはできませんからね」

実際に出していただいたのが、こちらのセット。ラム(仔羊)カタロース定食(1400円)と、マトンのモモ肉(800円)です。

セット定食にはお肉と野菜の他に、ご飯とお吸い物、お漬け物が付きます。

セット定食にはお肉と野菜の他に、ご飯とお吸い物、お漬け物が付きます。

火を点けたらまず鍋のてっぺんにラードを乗せ、端の油だまりの方にタマネギなどの野菜を乗せていきます

火を点けたらまず鍋のてっぺんにラードを乗せ、端の油だまりの方にタマネギなどの野菜を乗せていきます

続いて肉を投入! 肉のフチが焼けて白っぽくなってきたらひっくり返し、さっと焼きます。あまり焼きすぎないのがポイント。

続いて肉を投入! 肉のフチが焼けて白っぽくなってきたらひっくり返し、さっと焼きます。あまり焼きすぎないのがポイント。

「ラムのほうが柔らかくてクセがないので食べやすい」ということで、最初は食べやすそうなラム肉からいただいてみました。ラムのカタロースは霜降りで、肉と脂身のバランスが絶妙。そして、確かにすごく柔らかい! 臭みもなく、これなら老若男女を問わず食べられそう。

初代の梅吉氏が作ったという秘伝のしょうゆベースのさっぱりしたタレとの相性も抜群です。続いて赤身のマトンも口に入れたところ……こ、これが同じ羊肉!?

こちらはマトン。お肉自体が力強い感じ!

こちらはマトン。お肉自体が力強い感じ!

鍋の端にたまった油と肉汁で素揚げの状態になった野菜も美味。タマネギが甘〜い!

鍋の端にたまった油と肉汁で素揚げの状態になった野菜も美味。タマネギが甘〜い!

安部さんマトンのほうがラムより歯ごたえがあります。遠野だとクセのないラムより『羊らしい味のマトンでないと!』というお客様も多いですね。甘い香りがするんですよ」

とろとろのラムに比べると、マトンはずいぶんしっかりした噛みごたえ(マトンはラムより分厚くカットされています)。噛めば噛むほど牛肉や豚肉とも違う独特の力強い風味が口の中に広がります。

クセになる味というか……これが羊肉の味わいなんですね。食べやすさ優先ならラム、羊ならではの味を堪能するならマトンと、食べ分けると良さそうです。

■朝から食べに来るツワモノも! 野外ではバケツが活躍

そして話は、「遠野ジンギスカン」の過去と今へ。

安部さん「初代の頃、遠野でジンギスカンが人気になったのは、やはり臭みの少ない新鮮な羊肉が手に入ったからだと思います。当時は冷蔵や輸送の技術が未熟な時代でしたから。戦後の遠野では、羊毛を取るための羊が農家でたくさん飼われていたんです」

戦後は現在のように美味しい牛肉や豚肉が簡単に手に入る環境ではなく、羊肉がもっとも親しみやすい肉だったというわけです。

安部さん「でも人気が出てくると羊肉が足りなくなってしまい、今ではオーストラリアから輸入しています。それまでマトンのみだったのが、ラムも食べるようになったのはそれからですね。冷凍された肉はどうしても味が落ちるので、チルド状態のものを自分たちの目で選んで仕入れています」

お店ではお土産用のラムやマトンも販売。ネット通販も行っています。

お店ではお土産用のラムやマトンも販売。ネット通販も行っています。

ちなみに、屋外でいただくときは、“バケツ”を使うというユニークな食べ方も。

安部さん「昭和40年頃と聞いていますが、高原祭りなどでジンギスカンを頼まれたとき、以前は鍋と七輪を車で配達して貸し出していたんです。でも、昔の山道は今と違ってものすごい悪路。陶器でできている七輪だと、途中で割れてしまうことが多かったそうなんです。そこで二代目である私の父が、『割れなくて運びやすく、七輪の代わりになる道具はないか』と考えた末、穴を開けたバケツに思い至ったんです」

ジンギスカン鍋とバケツ。鍋は分厚い南部鉄器でできています。

ジンギスカン鍋とバケツ。鍋は分厚い南部鉄器でできています。

鍋を取るとこんな感じ。中にあるのが固形燃料です。

鍋を取るとこんな感じ。中にあるのが固形燃料です。

バケツに固形燃料を入れて火を点ければ、ちょうど七輪の代わりになるわけです。なるほど、これなら軽くて丈夫だから運ぶのに便利そう!

安部さん最初は空気を通す穴の場所を決めるのに苦労したそうです。今は金物屋さんに頼んで作っていますが、昔は削ってとがらせた鉄パイプを使い、手作業でバケツに穴を開けていたんですよ。当時、お店の庭に、バケツからくり抜いた丸いブリキ板がたくさん転がっていた記憶があります(笑)」

最近では北海道のホームセンターでも、このジンギスカン用バケツが販売されているそうです。

安部さん「当店は朝10時からオープンしているのですが、最近では開店直後からジンギスカンを食べに来られるお客様もいますよ

冒頭で述べましたが、遠野には「遠野物語」にも登場するカッパ淵や、伝承園のオシラ堂などの見どころがあります。古の伝承に触れることができる名所・遠野。ぜひジンギスカンでがっつりパワーを付けて訪れましょう!

それでは満腹御礼、今回もごちそうさまでした!

  • 店舗情報

    ●ジンギスカンのあんべ
    住所:岩手県遠野市早瀬町2-4-12
    電話:0120-029834(オクニサンヨ)
    営業時間:10:00〜19:00(LO)、木曜定休
    http://www.anbe.jp/

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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