暮らしのコト

満腹御礼 ご当地肉グルメの旅

正統にして独自の味!北海道帯広市 “ 味処 新橋”の「黒光り豚丼」

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全国各地のウマい肉料理をお腹いっぱい食べ尽くしていく新連載「満腹御礼 ご当地肉グルメの旅」。記念すべき第1回は、北海道帯広市発祥の豚丼をフィーチャーします!

帯広の豚丼の特色といえば、

1.豚肉のロースをメインで使っていること
2.豚肉を炭火で網焼きにすること
3.肉を甘辛いタレで味付けていること

などが挙げられます。特に甘辛ダレは見た目にも分かりやすい特徴で、これには帯広の食文化の歴史が密接に関わっています。理由はおいおい解き明かすとして、さっそく現地・帯広からお届けしましょう!

4月中旬のとかち帯広空港。十勝平野にはまだ雪が残り肌寒さを感じるものの、この北の大地にも、春がそこまで来ているのを感じます。空港から帯広の市街地までは、直通バスでおよそ40分。道なりには広大な田園風景が広がっています。

バスの車窓より。雪解けを迎え、農場はこれからが作付けのシーズンです。

バスの車窓より。雪解けを迎え、農場はこれからが作付けのシーズンです。

市街地に到着。街は札幌や函館と同様、碁盤の目のように整然としているので、目的地まで迷うことはなさそうです。向かうは、1904年創業の老舗定食店、「味処 新橋」。駅から北へ、15分ほど歩きます。

街の中心、帯広駅。コミュニティスペースも兼ねており、市民の憩いの場となっています。

街の中心、帯広駅。コミュニティスペースも兼ねており、市民の憩いの場となっています。

道すがら、「豚丼」と主張する多くの暖簾、看板を見ました。さすが豚丼の街。

道すがら、「豚丼」と主張する多くの暖簾、看板を見ました。さすが豚丼の街。

レトロな英国式の公衆電話。街中ではちょくちょく欧米風の装飾品や建物に出会います。

レトロな英国式の公衆電話。街中ではちょくちょく欧米風の装飾品や建物に出会います。

見えました。暖簾には、「新橋名物 豚丼」。「帯広名物」ではなく「新橋名物」なのは、帯広豚丼がメジャーになる以前から豚丼を提供しているという、オリジネイターとしての誇りの現れなのでしょうか。

駐車場が広いので、車でやってくる人やライダーたちにも人気です。

駐車場が広いので、車でやってくる人やライダーたちにも人気です。

■「鰻の蒲焼き」と「洋食」が出逢った?

熊谷さん「やあ、ごくろうさん。豚丼、すぐできちゃうけど、作ろうか?」

声をかけてくれたのは、店主の熊谷さん。「新橋」の二代目として、半世紀近くお店の味を守り続けています。あれ? 帯広の豚丼といえば、炭火でじっくりと豚肉を焼くために、提供に時間がかかるのでは?

熊谷さんうちはね、フライパンで焼くんだよ。親父の代からずっとね。ちょっと待っててね」

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大きなフライパンに豚肉を放り入れ、時おりタレらしきものを加えつつ、強火でサーッと炒めます。何度も鍋を振る姿に見とれていたら、ものの3分ほどで豚肉に火が通りました。「はいお待ち、一番人気の豚丼肉盛りです」と熊谷さん。

これが豚丼 肉盛り。肉はツヤツヤでどっさりと乗っています。

これが豚丼 肉盛り。肉はツヤツヤでどっさりと乗っています。

これ、相当味が濃いのでは? と思うほどの濃厚な黒。とろりとしたタレが豚肉をコーティングして、ツヤツヤと黒光りしています。

熊谷「黒いのはね、私が腹黒いから(笑)。というのは冗談で、昔からこういうスタイルなんです、うちのは。タレはカラメルをヒントにしていてね

なんでも、先代である熊谷さんの父親は、もともと洋食の職人だったとか。

熊谷さん「当時はいろんな調理技術が体系化されていたわけじゃないから、洋食出身の親父が豚丼を作ろうと思ったら、こんな感じにしかできなかったんじゃないかな。帯広は戦前からとても『ハイカラ』な街だったんですよ。洋食屋さんが結構あってね

「新橋」が豚丼を提供し始めたのは、およそ60年前。今も帯広駅前にある「ぱんちょう」というお店が元祖で、その後すぐにここ「新橋」でも、豚丼を出すようになったそうです。

熊谷さん『ぱんちょう』さんの豚丼は、『鰻の蒲焼き』をイメージしていたそうなんですね。で、親父も自分なりの『蒲焼き』にしようと思ったら、こうなったわけ。フライパンを使えば、肉のジュースを閉じこめられるから」

帯広豚丼のルーツの1つにして、独自の味。まさに、グルメに歴史ありです。いざ、実食!

■見た目とは裏腹にあっさり。香ばしくて、甘くて、ほろ苦い!

丼に顔を近づけると、タレの香ばしいにおいが食欲をそそります。身がよく詰まっていて、なんとも噛みごたえがありそう。

肉のうまさと食感を引き出すため、筋をしっかり取って1つひとつ身を叩いています。

肉のうまさと食感を引き出すため、筋をしっかり取って1つひとつ身を叩いています。

「ギュッ」。やっぱり、身はしっかりとした噛みごたえ。しかも、筋がていねいに取られているので、とても食べやすい! 一方、タレは見た目ほど濃くなく、甘さと、ほろ苦さを感じさせます。ちょうど、玉ねぎをあめ色に炒めたようなイメージでしょうか。このタレの味作りは、初代の洋食らしいアプローチを感じさせます。

そして、このタレの味が、とにかくごはんとよく合うんです! ごはんの甘みとタレの甘み、苦みが渾然一体に絡んで…。タレはどうやって作っているんですか?

タレはとろみたっぷりなので、丼の底に落ちず、ほどよくご飯に絡んでいます。

タレはとろみたっぷりなので、丼の底に落ちず、ほどよくご飯に絡んでいます。

熊谷さん「秘密。このタレは炒めたときに出る肉汁を60年間つぎ足し続けてね、豚丼を出し始めた頃からずっと使ってるんですよ。やみつきになって、このタレだけでごはん食わせてくれ、というお客さんもいますね(笑)」

60年間つぎ足しで使っている秘伝のタレがこれ。

60年間つぎ足しで使っている秘伝のタレがこれ。

タレのうまさが手伝って、ごはんがバクバクと進む進む。気づけば、あっという間に完食してしまいました。

■「新橋の豚丼」が、「帯広の豚丼」になっていった

熊谷さん「この辺は昔肉体労働者が多くてねえ。サッとできるっていうのは、『働く人たちに速く豚丼を出してあげたい』っていう思いが、親父にあったと思うんです。量も多めにしているしね」

「速さなら帯広イチ!」と笑いながら話す熊谷さん。半世紀にわたって作り続けている豚丼に、大きな自信と誇りを持っているように見えます。

熊谷さん「学生時代、お昼にメシを食いに帰ってきたらね、『店が忙しいからお前も手伝え』って親父に言われるわけですよ。で、手伝っているうちに昼休みが終わって、結局何も食べられずに休みが終わるというのがよくあった(笑)。今となればいい思い出です」

若い頃の熊谷さん。現店舗の前のお店で撮られた写真。

若い頃の熊谷さん。現店舗の前のお店で撮られた写真。

熊谷さん「学生の頃はやりたいこともあったけど、来てくれる人はみんな知っているし、お店も家族でやってるし。やっぱりね、『守っていかなきゃ』って」

それでも、60年間一途に作り続けたからこそ、「新橋の豚丼」が広く知ってもらえるようになったといいます。

熊谷さん
「『帯広の豚丼』なんて言われ始めたのは、ほんとにここ10年くらいでね。私が作っているのは、あくまで『新橋の豚丼』。でも、帯広を誇れる味だと自負していますよ

  • 店舗情報

    ●味処 新橋
    住所:北海道帯広市西二条南4-6-2
    電話:0155-23-4779
    営業時間:11:00〜21:00
    定休日:不定休(土日月・祝日は営業)

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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