テーマ:一人暮らし

クリエイト・ルーム

この作品を
みんなにシェア

読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

閉じる

 そう。俺はランキング一位に上り詰めたのだ。
 新車を買うためにコツコツ貯めた金を全額、課金に使った。もう少しで車が買えるほど貯金していたのだが、後悔なんてしていない。新車の代わりに、こんな豪華なマンションを得たのだから。
 広々とした空間。前に住んでいたアパートの三倍以上の広さはあるだろう。その空間には、ガチャで獲得した高級家具が配置されている。ソファも、シャンデリアも、カーペットまで、すべて百万円近くするものだ。
 それに、一点限りのウルトラレアの景品も自室には並べられている。その中の一つ、『モナ・リザ』を眺める。絵画ガチャで獲得した景品だ。もちろん、本物であることを示す鑑定書つき。その横には、ミレーの『種まく人』も飾っている。何百回と回して手に入れたのは、良い思い出だ。
 様々な高級家具に囲まれた生活。
 そのおかげで、俺の部屋をダサいなんて言う人はいなくなった。別れた彼女でさえ、よりを戻したいと言っているほどだ。今も、スマホには彼女から連絡が入っている。ソファに腰をおろして、通話ボタンを押した。
『もしもし。ヒロキ? 私よ。ユカ。ねぇ。今度の日曜日空いてる? 買い物に付き合ってほしいんだけど?』
「日曜日……分かった。いつもの場所で待ちあわせようか」
 しばらくユカと話した後、通話を切る。スマホをテーブルに置いて、ソファに深く身を沈めた。
 この二ヶ月間、ゲーム中心に生きてきた。課金するためにバイトを増やして、それ意外の時間はゲームに費やした。そのおかげで、ゲームでは圧倒的な地位に立つことができしたし、ゲーム内のチャットを通して友人も増えた。それに、こうして充実した生活空間を手に入れることもできた。
 それも、ゲームのおかげだ。
 だが、疲れた。
 いつランキングが抜かれるか分からない恐怖が四六時中、俺を襲っていたからだ。もしかしたら、眠っているときに誰かがウルトラレアを引くかもしれない。もしかしたら、レイアウトを変えて投稿した写真に一位を取られるかもしれない。そう考えれば考えるほど、購入画面に手が伸びて、ガチャを引いてしまっていた。
 しかし、今はこれだけのスーパーレアがある。ウルトラレアだって、他の誰よりも持っている。これで、しばらくガチャ生活から離れられる。そう思うだけで、心身の疲れが和らぐのを感じた。
 その緩みが手元まで伝わったのだろう。ワインを飲もうと、テーブルに置いてあるグラスを掴んだ時、誤ってこぼしてしまったのだ。慌てて拭くが、近くにあったスマホを濡らしてしまう結果になった。

クリエイト・ルーム

ページ: 1 2 3 4 5 6 7 8

この作品を
みんなにシェア

7月期作品のトップへ